episode5 ウォークマン
店内は薄暗いようで、外から漏れる光が淡く照らしていた。埃が光にあてられてチラチラと舞う。
細々或いは大小、多種多様な雑貨、大きめなソファ、その上に掛けられた何枚ものブランケットやストール達、テーブル、タンス、花瓶。絨毯や丸められたマット。
右を見ればまるまると厚みのあるブラウン管モニターやPCが適当に並び、薄っぺらいノートPCやカメラ、タブレットや小型のサーバー、手のひらサイズの電子ボタン等が箱に入れられたり並んだりしている。
古びた家電やレコード達、古着等も存在している店内はまさにある客の言葉を用いれば、スクラップ——最後の居場所だった。
店内の奥には木のカウンター。マグカップ二つと古びたレジが置かれ、壁には映画やバンドのポスターが貼られており、カウンターに肘をつくように中の椅子に腰掛け、二人の店員がいつも並んで座っているのであった。
トムはカウンター内の機械を弄り、店内の曲を止めると、そのまま手に持っていたラジオを触り始めた。
椅子がギイと鳴く。
足を組み、前に傾くようにラジオのツマミをその無骨な手で捻っていく。
なり始めたのは、ノイズ混じりで途切れ途切れの、声と受け取るには程遠いラジオ。
「あ〜っ」
トムが力なく項垂れる。その後、バッと手を広げ大袈裟に天を仰ぐ。
「アッシュ、聴いたか?イカれちまったぜ電波が!」
アッシュは指先で雑誌を弄りながら言った。
「……とうとうここも範囲外?」
「あ、配達もアウトじゃねぇか」
「あー」
——カラン
振り向くと、店先で軽く手を挙げ会釈する客。
っしゃいませーと同時にトムはカウンターからは出ずに顔だけを覗かせ、掠れた声で挨拶をする。
「んでじゃ午後上がりなんで」
急に彼はそう言って立ち上がる。
アッシュが一瞬固まる。そのまま視線を壁に貼られた簡素なシフト表に向けると、確かにトムは午後休みになっていた。
「おいおい、何、そんなに恋しい?猫ちゃんみたいな鳴いちゃう?」
「忘れてただけ。寧ろ寂しくて泣きたくなるのはソッチ。」
「良い夢を」
太陽光がアッシュの顔を照らす。
長い前髪の影と合わさる。
「あぁ、良い夜を」
片眉を上げてニヒルに笑い、トムはサッと片手上げてそのままスタッフルームへと去っていった。
壁に掛けられた時計の短い針は、次の数字に移っていた。
店内にはカウンターでただボーッとする店員アッシュ以外、誰も居なかった。
カウンター内に読みかけの雑誌が開かれて、店内の扇風機がこちらを向く度、パラパラと捲り上げる。
ボーッとしては、うつ伏せで、起きたかと思えば頭を抱えて、天井を見上げ。
空っぽのマグカップを見ては、無意味もなくカウンターに戻し、天井を見ては床を見ての繰り返しで椅子を鳴らす。
ふと、カウンターから立ち上がると、近くのドアを開けそっとその姿をスタッフルームに消す。
そして現れた彼女が抱えているのは小ぶりな箱。小型の電子機器が所狭しに入れられているその箱の側面には紙が貼られ、マッキーで書かれた"棚入れる"の雑な文字。
そっとそれを下ろし、中を探る。
ある物を取り出すと、アッシュはそのままポケットから小さめの財布を取りだし、レジに金を入れる。
そのままカウンター内の小さい椅子に腰かけると、手に持ったある物、鈍いシルバー色のウォークマンのイヤホンを付ける。
「……てかなんで午後休みなんだよ。」
頬杖をついて、彼女はそう呟いた。




