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花乃屋の話 3
店の中に、一つだけ奇妙なドアがある。
勝手口の横にあるその扉はいつも数センチ開けられていた。
私はある時、それを閉めようとしたことがある。
扉に手をかけ、覗き込んだ。
がらんとした、物置ほどのスペースに見えた。
何も無いなら閉めちゃおう。
扉を閉じる瞬間、私は下に目線を向けた。
透明な液体が入ったガラスのコップが二つ。
真っ白な皿に乗せられた白いもの。
「仏様は甘いものが好きで、神様はしょっぱいものが好き。だから神様に供えるのは塩でしょ?」
いつの日かそんな話を教えてくれたのは、葬儀会社のAさんだった。
地べたに置かれた酒と塩を見て、私は扉を締め切らずにその場を離れた。
恐らく触ってはいけないものだ。
何らかの神様へのお供え物だ。
そう判断して、それ以来扉が開いていても見て見ぬふりをした。
酒と塩の置かれた扉は、いつからかぴったり閉じられ、ついに開いているところを見かけなくなった。




