Aさんの話
Q事故物件、ってどう思いますか?
「どう思うも何も、人は皆いつか死ぬんだから死に方だけで家をとやかく言わんでも、と思う」
とある飲み屋のカウンターでたまたま知人と遭遇した。
知人の女性、名前はAさんとする。
彼女は葬儀会社に勤めている。
その為、酷い亡くなり方をした故人様の家を何件も見てきたそうだ。
「そもそも、自宅の布団の上で見守られて亡くなったのは気にしないのに、予期しない死に方や悪い状態で発見された家は事故物件なんて私たちにとっちゃ関係ないから。そんなことより棺の出し入れをしやすい家かどうかが気になる」
そう言ってAさんは料理の小鉢から手を離し、ヒョイと両手を立てて「家が狭いと、こーやって棺を縦にして入れなきゃなんないの。入る時はいいけど、故人様を納棺したら縦にするわけにはいかないじゃん?そうなると出棺する時は窓から出す時もあるんだよ。もう大変でさぁ」と眉間にシワを寄せた。
私は「Aさんは事故物件は怖くないんですか?」と聞いてみる。
しかし、意外にも彼女の返答は「こわい」だった。
「あのね、事故物件ってどんなものを想像する?誰も遺体を見つけてくれないような散らかった部屋?体液で汚れた床?もちろんそういうところも多いよ」
だけれども、彼女はその中に妙な家が混じってる、と言うのだ。
「あるんだよ。とっても綺麗で清潔で何にも汚くない家だけど、絶対に人がろくな死に方をしない家が。私はそれが一番怖い」
Aさんはこんな話をしてくれた。
それは、今からもう十年も前の出来事だ。
Aさんは会社の先輩と社用車で住宅街を走っていた。
すると、遠くに“売り物件”の文字が書かれた看板が見える。
離れていても立派な家だとわかったそうだ。
先輩は将来大きな家を買ってカフェを開くのが夢で、売り物件を見つける度に遠回りしてでも前を通りたがる癖があった。
だからその日も「見に行こう!」とハンドルを切って、道を勝手に変更した。
近づくほどにその家が可愛らしい洋風の家だとわかって、先輩は大はしゃぎである。
赤いトンガリ屋根に白い壁で、オシャレな喫茶店にうってつけ。まさに先輩の理想のお家であった。
しかし、その横を通り過ぎた時、Aさんは言葉が出なかった。
絵本に出てきそうな石畳の敷かれた道に、手入れされた庭。
アンティークな小人の置物にメルヘンな建物。
非の打ち所のない、夢のような家。
それなのに、何も言えなかった。
何故かわからないが、家全体から薄暗い印象がしたのだそうだ。
先輩が喜んでるんだから、お世辞でも何か言わなきゃと思うのにAさんは何も言えなかった。
そっと先輩の様子を伺うと、いつも穏やかな先輩が見たことが無いくらい冷ややかな目をしていた。
「あ、だめだ。ここ、何かあったとこだ」
先輩は吐き捨てるように言うと、もう興味を失くしたのかアクセルを強く踏み込んだ。
「仕事で来たことあるんですか?」とAさんが尋ねると、先輩は「無い」と断言する。
「でもわかる。きれいなのに人が良くない死に方する家があるの、アンタだって何件も見てきたでしょ?あれはそういう家」
先輩は「Aにもそのうち、見分けがつくようになるよ。この仕事してるとさ、葬儀の打ち合わせをしなきゃいけないのに家が見つからない時があるでしょ?地図に載ってないとか、番地が間違ってたりしてさ。だけど、家の外観を眺めてたら、あー、ここだ!って当てられる時があるの。独特の雰囲気があるんだよ。家がもう、丸ごと息を止めてるみたいな……なんて言うのかなぁ。死んでる感じの家、みたいな?」
私はそういう家が怖い。
Aさんの先輩はそう教えてくれたそうだ。
「事故物件はやっぱり“死んでる感じの家”っていう雰囲気がありますか?」
私がそっと聞いてみると、Aさんはチューハイの氷をガリガリ噛んで顔をしかめる。
そして「ユイちゃん」と私の名前を呼んだ。
「どうしてそこまで事故物件のことなんか知りたいの?ユイちゃんの家が事故物件なの?」
「違いますよ。違いますけど……」
私の家は事故物件ではない。
入居した時に何も言われてないし、近所に噂されることもない。
怪奇現象が起きることもない。
だが、それでも私がこうして知人のAさんにわざわざ質問した理由は。
「実は、私のバイト先が事故物件なんじゃない




