ヤンキーだけどオタクです。しかもお互い隠してカップルやってます
このお話しは、どこにでもいるただのヤンキーカップルの日常風景である。
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ピロン。 スマホの通知音が鳴った。
ギラギラしたケースにはまった端末を手に取り、画面を開く少女。
名前は由莉亜。あの『YouはShock』でお馴染みのアニメヒロインと同じ名前だ。名付け親は元ヤンでパチンカス。もし男に生まれていたら「剣死楼」とかつけられてたに違いない。
ピンクの虎柄ベッドに寝転びながら、由莉亜は通知を確認する。
『こんな時間なんだけど、いまからペンキーホーテに行きたい』
「いまからって、マジ?」
思わず声が漏れる。けどすぐに『おけ』とだけ返信した。
相手は陽翔。付き合ってまだ一ヶ月の彼氏だ。 別クラスのクールなイケメンヤンキーで、平成男子みたいに襟足長め、外ハネバリバリ。そんな彼に告白したら、あっさりオッケーが返ってきた。
「つーか、もう来るなら準備しなきゃじゃん」
メイクしてる時間なんてない。とりあえず眉毛を描いて、発色強めのブラウンカラコンを装着。髪をアイロンでストレートにする。
「服は……これでいいっか」
赤リボンをつけた白猫キャラのTシャツに、グレーのスウェット。靴はもちろんパチックス。――本物は高いから、ペンキーホーテで買った偽物だ。
「ちょっと出かけてくるわー」
一言残して玄関を出る。 まだ彼ピは来ていない。家の前にしゃがみ込み、スマホをいじる。
五分後、ようやくバイクのエンジン音が聞こえた。
やっときた、と立ち上がる。
「待った?」
「全然」
「じゃあ行くか」
見るからに“ヤンキーです”と分かるタイプのバイク。
その後ろで陽翔の腰に手を回し、由莉亜はじっと景色を眺めていた。
「陽翔、今日学校早退したっしょ」
「ダルかったから」
「あーしも抜ければよかった、連絡ぐらいしろし」
「あーごめん」
会話が続かない。
いや、続かないどころか、完全に沈黙。
付き合って一ヶ月なのに、マジで会話弾まんのだが? 彼氏ってこんなに難しいん?
あーしも無口なほうだし……いや、ホントは無口じゃなくて、アニメとか超好きなの隠してるだけなんだけど。ヤンキーなのにアニオタとかバレたら絶対フラれるし。
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由莉亜、絶対つまんなそうにしてるよな。
俺だってそうだ。こんな無口な男、そりゃ退屈に決まってる。
本当はアニメもゲームも死ぬほど好きってバレたら終わりだ。――こんな見た目でオタクとか、ドン引きされるって。
そう、この二人。
本当はアニメやゲームが大好きなのに、それを隠して生きている。なんとも運命的なヤンキーカップルなのだ。
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沈黙とエンジン音だけを背負いながら、目的地のペンキーホーテに到着。
ヤンキーやギャルの生息地といえばここ!――なんてぐらい、365日誰かしらは店内にいることで有名(知らんけど)。
二人は会話もなく入店する。
空調の効いた店内。愉快なBGM。派手なポップ。――だけど胸の中のワクワクは、不思議と膨らまない。
「なに買いにきたの?」
「いや、別に」
「ふーん」
「ちょいブラブラって感じ」
……やっぱり会話は弾まない。
仕方なく、まずはお菓子コーナーに足を向ける。
「あっ」
二人の声が重なった。
目の前に並んでいたのは、最近流行っているアニメのフィギュア入り食玩だった。
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ちょまって、これあーしが欲しかった奴やん!
再販とかガチ? 転売ヤーに根こそぎ持ってかれて激萎えしてたのに!
今ほっし、マジほっしー。
思わず手が伸びかける――けど、陽翔の前で買えるわけない。
ダメじゃん、最悪じゃん。今の手の動き見られてんじゃん。
「普通に間違えたわ」
由莉亜は腕を無理やり下げて、普通のチョコを取った。
「俺あっち見てくるわ」
「りょー」
陽翔はその場を離れる。
由莉亜が反対方向へ歩くのを確認して――
また、食玩の前に戻ってきた。
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激アツすぎる。見つけ次第買うって決めてた。推しが出るまで絶対買うって決めてた。
ジャガイモ固めたみたいなクソ不味いスナックでも、昼飯代わりにすれば余裕。
辺りをキョロキョロ。
俺の女はいない……よし、今だ。
腕を伸ばす。あと少し、もう少しで――
「陽翔なにしてんの?」
由莉亜が見ていた。
「別に……俺もチョコ食べたいって思っただけ」
陽翔も、同じチョコを手に取った。
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ソワソワした面持ちで、他のコーナーを眺め歩く二人。
だが、アニメはお菓子コーナーにしか潜んでいないわけじゃない。
コスメコーナーにだって――いる。
あーしのほしかった推しピとのコラボアイシャドウ発売してんじゃーん!
はわわ〜ん、とした顔で手に取り、うっとり眺める。
「それ買うの?」
陽翔の声にビクッとし、現実に引き戻される。
「買わない。なんか色いいなって思ったけど、パケダサいからやめる」
もちろん服コーナーにも。
こ、これは……!
俺が次来たら買うって決めてた推しのデカデカとプリントされているTシャツが、半額だと!?
欲しい、ほしすぎる。今買わなかったら次来たときには絶対ない……。由莉亜を送って、もう一度戻る? いや、そんなことしてる間に誰かに買われたら……!
「ジッと見てるけど買うの?」
「なんかアニメのシャツとか、こんなんどこで着るんかなって見てただけ」
「あーね。確かにパジャマとかしか無理くない?」
「それな」
……ただウロウロ。まるで未練を残した幽霊のように漂う二人。
会話がしたくないわけじゃない。
ただ、思いつかない。
趣味は? 好きなことは? 休日何してんの? そんな質問、答えられるわけがない。本当のことは言えない。言いたくない。
――嫌われるから。
「恋人ならなんでも話すのが普通でしょ」なんて親は言う。けど、なんでも話して嫌われるぐらいなら、話さないほうがいい。
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結局、チョコを買っただけで店を出た二人。
このまま帰るのも微妙だから、少しバイクを走らせ、夜の公園でチョコを食べることにした。
「……」
「……」
ベンチに並んで座る。チョコをかじる音以外、無言。
由莉亜は、食べかけのチョコを握りしめながら口を開いた。
「あーし達って、付き合ってるでいいんよね?」
「もちろん」
「聞きたいんだけどさ、あーしのどこが良くて付き合うことにしたの?」
「んー……どこか……」
言葉に詰まる陽翔。
顔は可愛い、スタイルもいい、ギャルっぽいし、同じ匂いがする。でも、そのどれでもない気がして――。俺が由莉亜を好きになったのは、この子に“何か”を感じたから……。そんな気がしていた。けど、こんなこと言ったら失礼かも。
「もしかして、ない?」
「いや! ある! あるけど」
「けど?」
「怒らない?」
「怒んないよ」
沈黙。胸の鼓動がやけに大きい。
「あ……」と前置きが漏れ、そのまま勢いで言葉が出た。
「全部好きだよ。好きだけど……俺がほんとに好きなのは、由莉亜に“何か”を感じたから」
「アハハ、なにそれ」
「いや、ほんとだって」
今なら言える。
「俺さ……ホントはアニメとかゲームとかめっちゃ好きなんよ」
「え?」
「ずっと隠しててごめん。普段ダチと居ても無口なのは、そういう自分を見せたくなくてさ。だってこんな見た目でオタクって……嫌じゃん?」
「……」
「やっぱ……引くよな……ごめん、嫌われたよな俺」
陽翔は立ち上がる。
「送るよ」
振り向こうとした瞬間――由莉亜が抱きついた。
「あーしもずっと隠してたことがあんの」
「隠してるっていっても、俺なんかと比べものにな……」
「あーしもアニメとか死ぬほど好きだし。陽翔のこと好きになったのは、正直めっちゃドタイプで“死ぬ”って感じだったから告白した。でも付き合って思った……彼氏と何話せばいいのーって。あーしだって、こんな見た目だから絶対嫌われると思って言えんかった」
「ガチかよ……」
「だから多分、その“何かを感じて好きになった”ってやつ……超時空ロマン的なやつ、当たってると思う。てかあーしら普通に運命じゃん?」
振り向いた陽翔の視界いっぱいに、由莉亜の笑顔。
可愛い、可愛い笑顔だった。
お互いにつっかえていたものが外れたように、胸の奥が一気に軽くなる。
誰しも、好きになった人には嫌われたくないと思う。
それでも、ずっと好きでいたいから。本音を話すことは、たまには傷つけあっても必要なんだ。
このヤンキーカップルみたいに。
「由莉亜を送る前にさ、もう一回ペンキーホーテ行かね?」
「あれでしょ? 食玩買うんでしょ!?」
「そうそう。推しがいるから、出るまで買うつもり」
「ていうか、ふたりしてアレ見て声出したとき焦ったけどねw」
「いや、それな! 俺もあのときバレたと思った」
「ウケる(笑)。てか陽翔は他にどんなアニメ見てんのー?」
「俺は〜」
二人はいつまでも、いつまでもアニメの話で盛り上がるのであった。
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