寂びれた旅館の殺人 続き
寂びれた旅館の殺人の続きになります。強く前作の読了をおすすめします。
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私は、もうすっかりこの寂れた旅館に泊まる気になってしまっていた。
そうして、手早くチェックインを済ませ、年配の女性に部屋へと案内されるのであった、
それがあの恐ろしい事件が起こる要素の一つになるとも知らずに
旅館の中は、まるで生命活動を終えたかのように静かだった。年季の入った木の柱が天井を支え、壁は落ち着いた色の壁紙が貼られている。廊下はフローリングとなっており、歩くと若干軋むのがきになるが、その音すらも心が落ち着く感触に一役買っているような気もしている。壁際には、手入れの行き届いた盆栽やよくわからない西洋絵画が飾られており、そのちぐはぐな光景にも不思議と違和感は感じなかった。
旅館の廊下をゆっくりと歩きながら、この旅館が持つ独特の魔力に浸った。窓から差し込むどこか埃をまとった光が、廊下を照らし、哀愁漂う影を作り出していた。
「ここは、本当に不思議な場所だ」と呟いた。来たことは無いはずなのに、どこかしら自身の琴線に触れる箇所がいたる所に存在する。
その瞬間、女性は顏のしわを深くして、私に微笑みかけた。
「どう?ここは不思議でしょう?少しでも感動してくれたなら、女将冥利につきるわ」
私は頷きながら、そこで初めて目の前の女性がただの従業員で無くここの旅館の女将だと知った。
「はい、少しだけ…ここの事が分かったような気がします」
女将は頷きながら、私の傍に寄る
「生きるという事は迷いを伴うの、ここでは嫌でも自分の気持ちに耳を傾けなくてはならない、きっとあなたも何かを見つけられるわ」
旅館の静けさという、無言の圧力が私の心に強く問いかけるどう生きたいのかと。
そうして私は、この旅館の造りを改めて確認することにした。それが今、自分で出来る最も簡単な自己覚知の方法だと考えたからだ。
入口の暖簾をくぐると、お茶の香りが漂う共用スペースが広がり、ここには旅館の心臓であることが一目でわかり、和の雰囲気を漂わせている。
共用スペースには、木製のテーブルと座椅子が並び、殺風景ではあるものの、ゆったりとした時間を感じさせている、壁にはアートが飾られ、訪れる人々に非日常感を感じさせている。
共有スペースを抜け廊下を進むと、廊下を中心に、六つの客室が配置されている。各部屋はそれぞれ同じような造りであるが、なぜかどの部屋も違った情緒がかんじられている。窓からは、ビルや住宅街が視界を占拠しており、決して美しいとは言えないが、返ってそれがこの寂びれた旅館には会っているように思う。
四季の移ろいを楽しむことは出来そうにないが。朝日が昇る瞬間は、きっと美しいと感じるのだろうと予感してしまう程度の風景をこの旅館は持っている。
この旅館は、単なる宿泊施設ではなく、訪れる人々が自分の中の何かを見つける場所だ。ここで過ごす時間は、私にとって忘れる事の出来ない思い出となるだろう。
私はその時、呑気にそんな風に考えていた。これから起こる事件に巻きまれるとも知らず。
ああ、ただ、忘れることの出来ないという点はあっているのか、
現在進行形で私の脳にこべりついた記憶は拭い去る事が出来ていないのだから。
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