宰相ルーク⑨
マォ殿の住居が完成したとの報告があったので見に行く事にした。
不備が無いよう最終チェックだ。
勿論私の仮眠室も完成している。
アルノーが一つ屋根の下で一緒に住むというので、では私も一緒でいいのではと考えたのがだダルクに全力で阻止された。
一緒に住む方が何かと便利な気がするのだが。
「そう思うのは閣下だけですからね。
アルノーもマォ殿も気が休まらなくなるでしょうが」
そうなのか? 私にはよく解らぬのだが。
とは言え、万が一に何かあった時の為に渡り廊下で隔てて隣接しているらしい。
水回りなど内装のチェックをしていく。
造りは簡素だが材質はよい。これならばマォ殿も気に入ってくれるのではないだろうか。
私の仮眠室もこじんまりとした簡素な造りになっている。
うむ、これならばゆっくりと休めそうだ。
「親父殿、最終チェックか?」
「ああ。明日当たりには引っ越せそうだ」
「そうか、騎獣達も楽しみにしているようだ」
「サブレともゆっくり触れ合えるな、フフフ」
「親父殿・・・ダブレはペットじゃないんだが」
「解っておる。たまにだ。たまにならいいだろう?」
「まぁ、たまになら」
こうやってリオルとの会話も日常の一部となれば楽しみも増えるであろうな。
そう考えて、今まで私は働きすぎだったのではと気付く。
ふむ、少し考えねばなるまいな。
引っ越しを終えた次の日、マォ殿が獣舎の環境を整える為に山へ行きたいらしいので外出許可の申請にアルノーがやって来た。
何故に山?と思えば床に木片を敷きたいのだと言う。
湿度調整を行ってくれるので爬虫類や昆虫類の飼育にはうってつけなのだとか。
その他に止まり木や朽木も欲しいのだと。
良い機会なので私も付いて行こうと思う。
宰相職を退いた後はのんびりとサブレのようなペットと過ごしたいので、飼育環境などを知っておいても損はない。
「閣下楽しそうですよね。
マォ殿に付いて行くにしても部下に任せればよいでしょうに」
「何を言うダルク。現場に自分で足を運ぶからこそ学べる事もあるのだぞ」
「でもそれ仕事とは関係なく閣下の趣味ですよね?」
「む、ならばダルクは留守番で」
「は? 行くに決まっているでしょう。私はあくまでも閣下の側近なんですから」
「ほう、そうか。ならば側近殿。是非そちらの書類の山を頼むよ」
「は? 閣下・・・私にも山の様な書類があるんですが」
「私の三分の一もないだろう。
古狸共にウダウダ口出しされぬようにささと片付けてしまうぞ」
ずずずいと書類の山を1つ押し付ける。
ダルクは溜息をつきながらも書類の処理に取り掛かった。
ほとんどの書類関係が古狸関連なので、まぁある程度は適当でいい。
予算をあげろだの待遇をあげろだのとめんどくさい。
どこからかこの話を聞きつけた陛下は良い機会だから全獣舎の飼育環境を整えてはどうかと言われ、誰か部下をマォ殿に同行させるようにと言われた。
この様な楽しそうな事部下に任せる訳がないだろう。元より私が行くつもりだと言えば陛下は恨めしそうな目で見つめてきたが気付かない振りをしておいた。
陛下まで来るとなれば、何かとメンドクサイのである。
経過が来るとなれば妃殿下もと言い出すに決まっている。下手をすれば王太子殿下までが言い出しそうだ。そうなってもみろ、やれ護衛だ侍従だ侍女だと大所帯の大移動になってしまうのだ。
そもそも王族が気軽にほいほいと王城から出歩かれても問題しかないのだが。
「閣下、あなたも一応は王族なんですけどね」
私の場合は王族と言っても末端になるし王位継承権は無いからな。
さぁサクッと終わらせて明日に備えよう。
コッキョクウクウコーコォォォォ
ササミの雄叫びで目を覚ます。
んむ、これはいい目覚ましになるな。少々心臓に悪いが。
ベットから抜け出し身支度を整え簡単に朝食を済ませてから獣舎へと向かう。
そこにはすでにマォ殿とアルノーとの姿があった。
「随分と早いな」
「仕事はどうしたよ閣下」
「フッ、当然私も行くからだな」
「閣下説明が足りませんよ」
ダルク何処から湧いて出て来たのだ。
ダルクが説明をするとマォ殿は納得してダルクを同情の目で見ていた。
何故に・・・
リオルも同行するらしく、これなら安心できるなと思った。
マォ殿の意向で少数に絞ったのだ。
山までは約1時間。 私とダルクは自分のモファームで行くのだが。
「うぉぉぉぉっ、モファーム。もう少し、だな。
速度をぉぉぉぉ。 ゼィゼィ・・・ 落と して くれ ぬか なぁ うっ」
「閣下ぁぁぁ、喋ると舌を噛み イタッ」
今喋るのは止めておこう、到着した後にモファームと話し合おうと思った。
騎獣もモファームも張り切って速度を上げたものだから30分で着いたのだが、お陰で服も髪も乱れてしまったではないか。
カカオが器用にマォ殿の乱れた髪を整えている、少々羨ましい。
その様子を見たモファームが頑張って私の髪を整えようとしてくれたが、止めなさい。お前の短くて丸っこい足だと余計に乱れてしまうから。気持ちだけで十分だから、な?
作業に取り掛かると、なるほど倒木を探して持ち帰るのか。
「おかん、止まり木に使うのはこのくらいの太さの枝でいいのか?」
「ん~、もうちょい太くてもいいかな。枝じゃなくて幹その物でいいかもだなぁ」
なるほど、あのサイズだと止まり木にむいているのだな。
と言うかアルノーはマォ殿をおかんと呼んでいるのか。
アルノーだけの特別な呼び方、少し羨ましいと思った。
ん? 羨ましい?・・・何故。
手頃な倒木を見つけては枝葉を打ち払って行く。
いくつかを纏めて縛りモファームの近くに置いておけば帰りに乗せるだけでよいだろう。
昼食はマォ殿が用意してくれた。
カカオが狩って来たボアの・・・
これはワイルドボアではないか・・・マォ殿は解っているのだろうか、これがモンスターだと。
きっと解っていないのだろうな。
それにしてもよく捌けたものだなと感心してしまう。
焼き上がる香ばしい匂いが食欲をそそる。
ぐぅぅぅ
腹の鳴る音が聞こえた。私ではないぞ?
ちらちと見れば意外にもダルクが恥ずかしそうに顔を赤らめていた、お前か。
マォ殿が作ってくれたボアの串焼きはシンプルな塩味なのに旨かった。
肉の下処理が上手かったからであろうか。
昼食の後は予定数の倒木と朽木が集まったので戻る事になった。
あまりとり過ぎると生態系のバランスが崩れるかもしれないので必要な物を必要な時に必要な分だけというのがよいそうだ。なるほど、私も心掛けようとおもう。
帰りは倒木もあるしゆっくりでいいからとモファームに言ったのだが。
(ぬぉぉぉ・・・行きと速度が変わっていないではないかっ!)
久々に全力ではしてるので嬉しいのかもしれぬ。
私は髪の乱れを諦める事にした。
次に来る時は髪は纏めてくくっておこうと思う。
読んで下さりありがとうございます。