宰相ルーク⑧
「そう言えばマォ殿の住居はどうなった」
陛下にそう問われダルクと2人してギクリとなった。
表情には出なかったと思う、恐らくは。
「その件は順調に進んでおりますのでご心配なく」
ダルクが無難な返答をする。
ここで私が口を挟もうものならばきっと陛下は突っ込んだ事を聞いてきそうだ。
なので相槌も打つ程度にしておこうと思ったのに、つい・・・
つい魔が差してしまった。
「私も獣騎士団の駐屯地に仮眠室を作る事にしたんです。
息子も居ますし、陛下も常にたまには屋敷に戻れとおっしゃっていたでしょう。
この際ですから屋敷は弟にでも譲ってしまおうかと。
さすがに王城内に屋敷は持てませんけどね、仮眠室なら大丈夫でしょう。
騎士達の宿舎だってありますし」
その瞬間ダルクの目が、顔が、無言の圧力を放った。
すまない、今のは私が悪かった。
そして陛下がここぞとばかりに食い付いてくる。
「宰相、いやルーク。
お前なぁ、それはずるいのではないか?
獣騎士団の駐屯地にお前の仮眠室をつくると言う事はだ。
マォ殿とも近くなると言う事だろう。
マォ殿の手料理が食べられる確率があがるではないか」
「え? いやそれはどうでしょうな。
そもそもが私が帰宅できる日などあまりありませんからな」
慌てて誤魔化そうとしたが無駄だった。
「ダルク、私の部屋も」
「あらぁ陛下だけですのぉ?
まさか陛下ともあろうお方がわたくしを無視して
自分だけのお部屋などと申しませんわよねぇ。ねぇ?」
あぁぁ、妃殿下が出て来てしまった。
ダルク、なんとかしてくれと視線を向ければ。
ダルクは深いため息をつき、仕方がありませんねと説得を始めた。
「陛下、妃殿下。 よろしいですかお二人共。
貴方方が城外に部屋を持つと言う事はですね。
それ相応の人数も移動すると言う事になるのですよ。
護衛騎士に侍女、侍従にメイドどれほどの人数になるとお思いですか。
部屋の内装にしたって莫大な予算がかかるのですよ、貴方方の場合。
その予算を捻出するために民の税をあげるのですか?
そんな訳ありませんよね?
そうでなくとも我が国は他国より税率も下げており古狸共が五月蝿いのですよ。
貴方方が部屋を作るなどいいだせば古狸共がまた何をいいだすやら。
お解りになりますか?
安全面でも予算面でも我々の毛髪の健康面でも却下いたします。
ご理解いただけますよね?」
まくし立てるような早口で陛下も妃殿下も反論の余地はなく、頷く事しか出来ないのであった。
「まぁそうですね、たまに、極たまーにでしたらお茶会くらいはよいでしょう」
と簡素なティールームで手を打ったようだ。
実に飴と鞭の使い分けが上手いと思う。
と感心したのも束の間、執務室に戻った後こってりとお説教をくらった私だった。
口は災いの元、以後重々気を付けるとしよう。
そしてマォ殿の専属護衛には無事アルノーを付ける事が出来た。
元々アルノーともう一人が交代で護衛としてついてはいたのだが、彼女が駐屯地に引っ越すにあたり古狸対策として専属で護衛を付けようという話がでたのだ。
誰が適任化と話し合った結果、貴族の柵が無く人柄も良く実力も伴うアルノーがよいのではとなったのだ。
陛下がアルノーに打診してみたところ、幸いにもアルノーは快く引き受けてくれた。
自分の口からマォ殿に報告したいと言うので許可をだし、報告に戻って来たアルノーの発言には驚かされた。
「俺の母さんに手は出させん」
待て待て。今、何と言った? 俺の母さん?
陛下と顔を見合わせる。
「アルノーの母親は金色の羆だと聞いておったのだが」
「ええ陛下。確か過去のスタンピードのおりに亡くなったと」
「実はマォ殿が金色の羆だったとか?」
「召喚は異世界ではなく過去からという事ですかな?」
「いやだがしかし、マォ殿の料理や考え方などはこの国の者では無いし」
「あ、陛下、閣下。誤解を招いたようで申し訳ありません。
実はですね、恥ずかしながら・・・」
亡き母の面影をマォ殿に重ねて見ているとアルノーの説明を受け、なるほどと納得した。
そして陛下がとんでもない事を言い出した。
「色恋で無いのは残念ではあるがアルノーの思いは解った。
ならばどうだ、いっそ養子縁組をせんか?」
確かにアルノーと養子縁組してしまえば他の貴族からの申し出を断る理由に出来るし抑止力にもなる。
名案だとは思うが当のマォ殿はどう思うであろうか。
心配は無用だった。
陛下からマォ殿に話し「随分と立派な息子が出来たもんだ」と笑っていた。
マォ殿と家族か。羨ましい。
私がマォ殿と家族になるには・・・親子は無理がありそうだな。
となると・・・ いや、私は何を馬鹿な事を考えている。
いかんいかんとその考えを振り払うように頭を振った。
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