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宰相ルーク⑦

決まってしまえば後は早い、何故なら最終的に許可を出すのは宰相である私だからな。


「職権乱用」


ぼそっとダルクは言ったが乱用はしていない。今回の件だけだ。

古狸共にも陛下にも知られぬ内に完成させなければならない。

特に陛下に! 完成してしまえばなんとでも言い逃れは出来るだろう。

ダルクが頑張るはずだ。


「今回は私も頑張らせていただきますよ、マォ殿の為ですし。

 何より陛下に知られて内装に口出しなどされたら

 私がマォ殿にどつかれそうで嫌ですし」


ダルクに言われて想像してみる。

獣騎士団の獣舎の一角に出来たマォ殿の家の中が・・・

王城の様な絢爛豪華・・・もしくは妃殿下に知られてフリフリメルヘン・・・

んむ、無いな。確実にマォ殿の子のみではない気がする。


「ダルク、内装の心当たりはあるのか?

 マォ殿の好みなどは聞いておるのか?」

「当然でしょう。シンプルイズベストと仰っていましたよ。

 落ち着いた雰囲気で気の温もりを感じる物がお好みだそうです」


なるほど、それならば納得がいく。マォ殿らしい。


「そうそう、閣下の部屋ですがね。棟続きにしときましたから」


ぶふぉっ

棟続きだと、何故にそうした。

あ、いやそうなると騎獣達とも一つ屋根の下になるのか。


「サブレと一緒に寝る事が出来るやも」

「ハァ・・・閣下。

 普通でしたらそこはマォ殿と、となりませんかね?」

「なっ、なにを言い出す!そのような不埒な事が出来る訳ないであろう」

「でしょうね。だから棟続きにしたんじゃないですか。

 そもそも女性に夜這いを掛ける度胸など閣下持ち合わせていないでしょう?」

「ぐぬぬ・・・・」


ダルクの言う通り、私は女性経験がない、閨教育すら受けていない。

長子ではないからな、必要性も無いのだ。

これまでに何度か縁談は持ち上がったがどれも私の地位や家名に擦り寄って来るもので私自身に魅かれた訳でもない。それが見て解るような女性に興味が持てる訳がないのだ。

うんざりしたのと職務が忙しいので社交から離れている内に朴念仁と言われる様になったらしい。

家名を引き継ぐのは兄であり兄の子であり、万が一があったとしても姉や弟の子も居る。

(やらかしたあの甥以外に)

なので今更女性とどうこうなりたいとも思わなければ、恋がどうこう思えるほど若くもないのだ。

・・・

自分でそう思っておいて少し悲しくなってしまったではないか。


さてと、陛下に上げる書簡や決済書類を持ち廊下に出てみれば何やら良い香りが漂っている。

これは厨房からか?

気になってしまうので足を向けてみれば、同じように速足で厨房に向かう陛下の姿があった。

思わず私も早歩きになってしまった。


厨房に到着すれば何故か妃殿下がすでに座っておられた。

妃殿下の前には なんとも言えないびにょうな表情のマォ殿が料理長コルディと共に立っている。


「なんですかその うえぇぇぇって顔は」

「ふっ 宰相は歓迎されておらぬのでは? 職務に戻ったらどうだ」


陛下なんという事を。目の前にあるこの食欲そそる香ばしい未知なる料理を食べずに戻れと?

そもそも私は所用で陛下の所へ向かう途中だったのだ。私が職務に戻る=陛下も政務に戻るという事なのですがね。この際ですからそれは置いておいて。

逃してなるものか、未知の料理。


「そんな事はありません。私とマォ殿は騎獣仲間ですし」

「む、そんな物許可した覚えはない」

「許可もなにも必要ないでしょう。

 ささ妃殿下冷めぬうちに食べるとしましょうか。

 あ、マォ殿陛下はお帰りだそうですよ」


子供かとでも言いたげなマォ殿の視線が痛い。

だがしかしここで負けてなるものか。

私は目の前の料理を食べてみたいのだ。

そう言えば昼食を食べていなかったなと思い出す。

きっとこれは神の采配なのだと思う事にした。


食べながらマォ殿の説明を聞く。

この茄子の味噌田楽とやらは油で揚げ焼きにした茄子に甘みを加えた味噌ソースを掛けてあるのだそうで旨い。これは酒にも合うのではないだろうか。

肉じゃがとやらは一般的な家庭料理だそうで、食べた事が無いはずなのにどこか懐かしい味がした。

鳥のテリヤキは醤油と酒・砂糖で味付けし肉に絡めて焼いてあるそうで米と相性がよく旨かった。これまで米はあまり食べて来なかったが、これなら食べてもよいかもしれぬな。

大根の味噌汁、味噌を使ったスープといったところだろうか。大根の甘みが引き立てられサッパリとしていて旨かった。

陛下も妃殿下もペロリと完食している。

そして侍女長、何故そなたまで座っているのだ。妃殿下を諫める立場であろう。


「宰相閣下、この匂いの誘惑に勝てるとでも?」


そう言われてしまえば何も言えなくなってしまう。

私も匂いに誘われて来てしまっているからな。


満足した私達は職務に戻るべく厨房を後にした。

その姿を恨めしそうにコルディが見つめていたと聞いたのはしばらく経ってからの事だった。

読んで下さりありがとうございます。

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