宰相ルーク⑥
貴族子女がモファームに乗る事はまず無い。通常は馬車での移動だ。
平民ともなると質素な乗合馬車か徒歩となる。
私はマォ殿がどのような反応をするのか楽しみにしていた。
「でかっ! 毛の長いモ〇ラか王蟲?!」
モ〇ラとは何であろうか、王蟲とは何であろうか。異世界の乗り物だろうか。
気になる。
「閣下は速度を上げそうですからね、マォ殿こちらにどうぞ」
「む、マォ殿は速度が上がっても気にされないと思うが」
「いいですか閣下。マォ殿は女性ですし今回は初めての騎獣なのですよ。
少しは気遣いをするべきでしょう」
「なるほど、そういうものなのか」
「まったく仕事は出来るのに、何故こうも人付き合いに関しては・・・」
仕事に追われて社交などの人付き合いはしてこなかったからな。
だがそれはダルクも同じではないのか。
「私は姉に鍛えられましたのでね」
なるほど。うちの姉は・・・変わり者であだったな、そういえば。
女性の扱いをおそわるべきだろうか。
誰に?
姉や妃殿下だと一般とはかけ離れた事になりそうだ。
などと考えている間に獣騎士団の駐屯地に到着した。
「よう親父殿。珍しいなどうした、何か用か?」
久しぶりに見る息子は相変わらず格好良い。
決して親の欲目ではない。 と思う。
「騎士団長のリオルだ。我が息子でもある」
マォ殿に紹介すれば、マォ殿の目はキラキラと子供の様に輝いていた。
無邪気で子供の様に愛らしいなと失礼な事を思ってしまった。
「ん?こちらの方は・・・黒髪黒目。なるほど噂の招き人殿か。
お初にお目にかかる。獣騎士団団長リオル・ハーウェイだ」
リオルは養子である、一般的には実の両親のハーウェイ姓を名乗っているが正式にはリオル・ハーウェイ・ウォーカと長い。
養子と言えど血の繋がりが無い訳でもなく、姉の子つまりは甥である。
そう、姉は獣人の元に嫁いでいるのだ。
「リオル、世話係の求人を出していただろう。決まったのか」
「いや、まだだ。俺達の見た目もだが騎獣に驚かれてなかなか決まらん」
やはり獣人や騎獣を忌避する物が多いか。
私としては古狸共の方が嫌なのだがな。
マォ殿はと言えば、リオルと幾つか言葉を交わした後騎獣を見に行ってしまった。
いやいやそこは私にも声を掛けて欲しいのだが。
慌てて私も後に続く。
騎獣達はと言えば
なんだこの健気な姿は!
誰が用意したのか名前を書いた木札を手や口にして居る。
そして精一杯の可愛いポーズ。
これはいかん、私が篭絡されてしまうではないか。
「閣下、だらしのない顔になってますよ」
「む、いかんいかん」
気を引き締めて・・・
私に気が付いたサブレが向かってくる。
サブレはラッセルサーペントと言う蛇型の魔獣で大型だ。
色合いは宝石の様な鮮やかな黄緑をしたものや爽やかな空色のものが居る。
サブレは空色に黒目でとても可愛いのだ。
甘えてスリスリと頭を押し付けてくる。ああ、君は私の癒しだよサブレ。
「ハハハ 久しぶりだな。なかなか来れずに悪かった。わかったわかった。
次は必ず生肉を持って来るお前は鳥が好きだったかな」
うんうんと嬉しそうに頷いている。
この可愛さがダルクには解らないらしい、残念なやつめ。
久しぶりに体を拭いてやろうか、確かバケツと布が・・・あったあった。
私がサブレで癒されている間に話は進んでおり、マォ殿が飼育担当になる事が決まったようだ。
宿舎をどうするかというのを今は話し合っているらしい。
なるほど、獣舎の一部を改装してマォ殿の住居にするのかそれはなんとも羨ましい。
待てよ、ならば私も此処に住んでも良いのではないだろうか。
「私の仮眠部屋も一緒に作ってくれ」
仮眠室くらいならば大丈夫であろうし、仮眠室があれば休日もここでのんびり過ごせそうだ。
ダルクの言う様に陛下に知られたらめんどうな事になる、絶対自分も部屋が欲しいとか言い出す。
旨くやってくれダルク、頼んだぞ。
「はい閣下承知いたしました」
読んで下さりありがとうございます。