宰相ルーク⑤
マォ殿に名前で呼ぶ許可を得たので名前で呼ぶことにする。
少しは親しくなれた気がした。
次にマォ殿の希望を出来るだけ叶えるためにもマォ殿の立ち位置を決めておきたかった。
身分証の発行も必要である。
この身分証には鑑定結果の記載が必要となって来るのでダルクに鑑定を行ってもらった。
ダルクの固有スキルは貴重な人物鑑定なのだ。
鑑定を始めたダルクの表情は、驚きで目を見開いたかと思えば戸惑いで困惑した表情に、そして冷や汗をかいたかと思えば吹き出しそうなのを我慢して何とも言えない表情になっている。
どんな内容が見えているのだろうか。
「はい終わりました。お疲れ様です。閣下、率直に申し上げますと」
「うむ、なんだ?」
「前代未聞で混乱しております!」
「「 ん? 」」
普段冷静なダルクがここまで困惑しているのも珍しい。
「まず ギフトと呼ばれる称号をお持ちなのですが
その称号が おかん となっております。おかんとは何でしょうか?」
おかん?・・・ オカン、 オ・カン、 オーカン、王冠?いやそれは無いな。
ならば・・・薬缶か?
「薬缶の一種であろうか?いや薬缶がギフトでは意味が解らぬな」
まさかのお茶飲み放題とか? まさかな、無い無いありえない。
ちらりとマォ殿を見れば、何とも言えない表情で遠い目をしていた。
「おかん と言うのはですね。母と言う言葉の方言ですね」
「なるほど?そのおかんの詳細は見えなかったのか」
「残念ながら見えませんでした」
見えなかったのか、残念だ。
ギフトがおかん、母とはこれいかに。謎である。
しかしそれだけではなかった。
魔法は全属性持ち、これは極稀な事である。
前代の教皇が確か全属性持ちで今は居なかったかと思うのだが。
なのにランクがⅠとは・・・
それだけでも前代未聞なのに魔力量は測定不能なほど膨大だときた。
どうなっているのだマォ殿は。
「ごめん、訳がわからん」
「大丈夫です、私にも解りかねます!」
「私にも解らんな」
このような前例は見聞きした事が無い。
これはやっかいな事になったぞ、古狸共に知られたらこぞって欲しがるに決まっておる。
「で、ですね」
まだ何かあるのか。
固有スキルまで持って居るだと?
固有スキルとギフト、双方を持ち合わせている人物など聞いた事がない。
異世界から来た招き人だからなのだろうか。だが過去の招き人の文献にもそのような事は書かれていなかったような。ハッ、そうか。あまりの事に意図的に全容を載せなかったのかもしれぬな。
その固有スキルの説明をする時に何故かダルクが私の耳を塞いだ。
私が聞いてはマズイ事なのだろうか、解せぬ。
む、マォ殿が吹いた。
吹くような固有スキルとはいったい何なのか、ものすごく興味をそそられる。
いずれマォ殿に聞いてみるとしよう。
「とこんな感じですね」
ダルクにそう言われても固有スキルについて聞けなかったからな。
「自分の事ながらこの鑑定結果で処遇決めれる気がしないんだが?」
「正直私もこんな結果だと思っておらず」
「誰も予測できませんよこれ」
ギフト持ちで全属性持ちなのにランクはⅠ、しかも固有スキルまで持ち合わせている。
普通に考えて国で保護するレベルの人材だ。
だかマォ殿はきっと国での保護など望んではいないだろうし黙ってその枠に収まるとも思えない。
ダルクも同じ考えだったようで、陛下には事実を伝えるが他には秘匿とする事にし
身分証明登録などの表向きは一般的な火と水の属性持ちでランクⅠと表記する事にした。
ん? 視界の片隅にダルクとマォ殿がコソコソと会話をしているのが見えた。
なにやら親密そうに、いつのまに。何故だかモヤッとした気持ちになった。
昼食で何か変な物でも食べて胸やけでもしたのだろうか。
お茶を飲めば少しスッキリした気がした。 さて。
「やはり市囲で暮らすのは止めておく方がよいな。
しかし城内はマォ殿が好まず・・・」
一般的に子女という物は城暮らしに憧れを持つものなのだがな。
つくづく変わったお人だと思うが、これも考え方や文化の差なのだろう。
そう思うと益々マォ殿に興味が湧いた。
「閣下 獣騎士団が飼育係を募集してましたよね。
マォ殿の求める環境に少しは近いのでは?」
獣騎士団か、確かにあそこなら古狸連中は好んで近づく事もないし騎士団長は我が息子リオルだから安心ではある。
だが問題もある。
騎獣の種類がな・・・特に子女には好まれぬのだ、私は好みなのだがな。
特にリオルの騎獣サブレがお気に入りだ。
「だがあそこは・・・いやそうだな、まずは見て貰うか。
職が決まれば身分証の発行も出来るしな」
もしかしたらマォ殿は平気かもしれぬと期待を込め、まずは見学に向かう事にした。
けして私がサブレに会う為の口実ではない。
ダルクの視線が刺さるが気にしないでおこうと思う。
そうと決まれば、移動用のモファームを取りに行かねばな。
心が浮立つ私なのであった。
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