頑張るルーク③
面談を始める前日、私達は王城へと移動する。勿論地中から。
なにが勿論なのかは謎であるが諦めてはいる。
マォにとっては初めての地中移動となり、ゲンナリした顔をしていたのだが到着早々妃殿下に連れ去られていた。訴えるような視線がこちらに向けられたが、すまんなマォ。私では妃殿下は止められぬのだ。
マォを見送った後私とアルノーはエルフィンの私室に向かった。
政務室だと邪魔が入りそうなのでな。
ノックして部屋に入ればすでに弟は来ていた。
「兄上お疲れ様です。
まずはこちらが事前調査の結果をまとめた物となっております」
「早速目を通すとしよう」
どれどれとページを捲れば・・・
ブッ
王弟、フィーンと名があるではないか!
まてまて、フィーンとはあの騎士団長のフィーンだよな?・・・
んんんん?・・・
「エルフィン・・・どういう事か説明をしろ」
「あー・・・あのくそ親父が視察に出掛けた先でな?」
「手を出したのか!あのじじぃ!!
とんでもない爆弾残して逝くな!!」
「まぁ私は早くから知っていたし母上も知っていた。
くそ親父はバレてないとでも思っていたんだろうがな。
兄弟仲は悪くも無いし、母上もこっそり援助もしていたしな」
「はぁ・・・よく今まで隠し通せたな」
「フィーンの母親が頭のキレる方でな、親父に見つからぬよう隠れていたらしい」
「なるほど・・・、それでよくエルフィンが見つけられたな」
「あのクソ親父の最後の言葉がな・・・
『エルフィン、お前には弟か妹がいるかもしれないし、いないかもしれない』
どっちだよそれ!みたいな事いいやがってな。
母上や侍女長がひそかに探し出したんだよ」
「まったく知らなかったな」
「古狸に知られる訳にはいかなかったからな、ルークにも言えなかったんだ」
「それで? 何故今回はフィーンも巻き込んだ」
「いい加減こそこそではなく、堂々と兄弟として過ごしたいじゃないか!」
「ぶふっ・・・ なるほど・・・」
吹き出してしまったので弟がお茶を新しい物に代えてくれる。
その後も報告書に目を通しながら気になる点を書き出しておく。
ダルクも連れて来て手伝わせるべきだったと思ったが、ダルクはダルクで各町の様子などを自分でも調べておくと言っていたので仕方あるまい・・・
気が付けばすっかりと日が暮れていた。
明日からの面談に備えて早めに寝るとするか。
「兄上・・・食事は?」
「あ・・・」
「そんな気がしたから持ってきたぞ、ほれ喰え」
マォが皿を手にして立っていた。
「マォの方はどうだった?」
「どうもこうも・・・
前国王ってろくでもねぇ奴だな」
「あー・・・マォも聞いたのか」
「んだ、目の前に居たらどつくとこだよ」
「ハハハ・・・」
マォが持ってきた軽食を摘まみながらお互いの報告をし、この日は早めに就寝した。
翌日、面談の開始早々に例の王弟殿下である騎士団長と対面したのだが・・・
双子かと言うくらいに顔付は似ていた。体格はさすが騎士団長だけあってフィーンの方が逞しい。
「しかし、これだけ似ていて私まで気付かないでいたとは。情けない・・・」
「あー、実はですね。認識阻害の魔道具で印象をぼやけさせていたんですよ」
「そういう事だったか。
どうりで、これまでにも対面した事はあったはずなのに気付かなかった訳だ」
顔の認識が出来ないほど老眼が進んでいたのかと落ち込みそうだったのは内緒である。
私が形式的な質問を幾つかした後に、マォも質問をしていた。
どうやらフィーンの子供達が気になるようで、小難しい話は任せたと子供達を連れてマォで部屋を後にした。ずるい、私も小難しい話より子供達と触れ合いたい・・・
「ルーク、この件が片付けばゆっくりと交流も持てるから・・・な?」
「ん?声に出てましたかね?それは失礼を・・・」
その後の話でフィーンはエルフィンを支えるべく側近として仕える事が決まった。
大き目の領主館を作りそこに兄弟一家で住みたいと言う。
そのくらいの希望なら叶えてやりたいと思う。
「領都は何処にするつもりだ」
「ケイルをと思っているが駄目か?」
「近いではないか・・・」
「何故そう不服そうな顔になる!」
「何かと面倒な事になりそうではないか!」
「まぁまぁルーク殿。私が兄の補佐をいたしますから・・・
それに近ければうちの子達も遊びに行きやすいですし」
「む、よし解った。子供達の為なら仕方あるまい」
「え、ちょっとルークそれはないんじゃないか」
「エルフィンの場合、マォの作る菓子や料理目当てだろう!」
「兄上、ルーク殿。その話は一旦置いておきませんと。
次の方がいらっしゃる時間になってしまいますが・・・」
「「 お、おぅ・・・ 」」
フィーンとはまた夜にでも話す事にして次の面談者を待った。
二組目の面談は開始早々にマォの顔が強張って眉間がヒクヒクとしている。
小さな声で「うぇぇぇ・・」と何度か言っている。
聞こえはしないだろうが耐えてくれマォ・・・などと思ったが
「眉間に皺を寄せて険しいお顔をなさっては
せっかくの美しさがもったいないですよ?」
と阿呆が片膝をついて薔薇を差し出した瞬間、体が勝手に動いていた。
むんずと首根っこを掴み廊下まで引きずっていく。
廊下では鬼の形相をしたアルノーが待ち構えていたのでそのまま渡す、というか投げ捨てた。
アルノーは無言でそれを引きずり消えて行った。
我ながら、いざとなれば案外力が出る物だなと感心した。
席に戻ろうとすれば同伴していた女性がなにやらマォに訴えている。
ふむ、声が出ない?
「ならば文字は書けるか?」
女性が頷くのを確認しペンと紙を渡す。
その文字を読み進めるにつれ、マォだけではなく私や弟、エルフィンまでもが顔を顰めていく。
なんなんだあのゲスは!
「えーと。確認するね?
正当な爵位継承者は奥方でいいんだよね?
その奥方は至って普通にマトモな人、むしろ人徳ありそうだよね。
で婿養子の阿呆はクズって事でいいんだよね?
よし潰そう。んで奥方と息子っち保護しよう。
ルークはこの女性を治癒師の所へ。
人為的に声を奪われているならなんとかなるだろ」
「マォは何をする気だ」
「ふっふっふ、聞かずとも解るじゃろ?(ニッコリ)
アル行くぞ!」
「おう!」
「クォケッ!」(おう!)
ん?・・・
最後のササミ? いやいや何処から現れた。え?・・・
「待て!待たぬかササミ!ササミーーーー!!」
「宰相、私の見間違いで無ければ今のはコカトリスだったような」
「そうですね閣下。間違いなくコカトリスでしたが・・・」
「何処から・・・どぅあぁぁぁ!穴が!私のすぐ横に穴が!!
こらバジリスク!せめて穴を埋めてからいかぬかぁぁぁ!!」
つんつんっ
『あの・・・状況が解らないのですが今のは・・・』
「ああ、申し訳ない。取り乱しました。
今のコカトリスは招き人であるマォの・・・ペットですのでご心配なく。
奥方とご子息の救出に向かったようなので安心してくださいね。
さて、貴方の方も治療に向かいましょうか」
女性の事をすっかり忘れてしまい申し訳なく思う。
行き成り現れたササミでつい気が動転してしまったのだ。
女性を医務室へと案内しながら、この後何が起こるのかが想像出来てしまい溜息が出そうになった。
読んで下さりありがとうございます。