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宰相ルーク④

それから2日後、マォ殿の希望を聞くべく執務室での対面となったのだが


「げ!無表情男!」


第一声がこれだったのだ。

ダルクは顔を背けて肩を震わせているし、私は私で座っていた椅子からずり落ちそうになったのを踏ん張れば仰け反る形になってしまったではないか。

座り直して深呼吸をする。


「げ、とは何ですか失敬な。私は無表情男と言う名ではありませんよ。

 それに貴殿とは初対面だと思いますが」


そう言えばマォ殿は首を傾げた後にぽんっと手を打ち


「初日に遭遇したぶっきらぼうな無表情男に似てたんですよ、失礼しました」


と頭を下げて来た。

初日に遭遇・・・   甥か!

弟に確認を取ったところ、甥も甥で心得違いをしておりもっぱら再教育を始めたそうだ。まぁ幼少期からアレと共に過ごせば思考がアレ寄りになるのも解る気がしなくもないがそれでは困る。ウォーカー一族としても側近としても一貴族としてもだ。弟もそこのところをしっかりと教育して欲しい物だ。


「ああ、解かりました。おそらくは私の弟の子、つまりは甥ですね。

 貴殿も災難でしたね。

 この国の宰相として、また伯父としてもお詫び申し上げます」

 甥は第二王子殿下の側近候補だったはずですので」


私が謝罪するとマォ殿は笑顔を浮かべて


「謝罪は本人以外からは必要ないですよ。

 国として召喚したのならまだしも、そうでないのならば気にしないでください。

 まあ伯父としてというのであれば受け取ります。

 なのでその話はこれで終わりとして本題に入りませんか?」


などと言う。

この国の貴族連中、特に古狸共であればここぞとばかりに詫びを寄越せと言うだろうに。

異世界の考え方なのか、マォ殿の考え方なのか。少し興味が湧いてきた。


「解りました。

 では貴殿の今後の身の振り方なのですが何かご希望は?」

「元の世界には無理なんだよね。

 城を出て平民として普通に暮らしたい。というのは無理ですかね?」


平民として暮らしたいだと?

なんと無欲な事か。

マォ殿の居た国では貴族階級は存在せず、役職としての多少の身分差はあれど基本的には皆平等とされているのだそうだ。古狸がはびこらないのか羨ましい、古狸共が居なければ私の髪もお散歩に出掛けなかったかもしれない。

いかん、少々現実逃避をしてしまった。


「元は平民というよりも貴族階級の無いお国でしたか。

 うーん・・・

 実を申しますとですね。こちらの書状の山見て下さい」

「閣下の仕事上の書類の山では?」

「失礼な私は仕事を積み上げるほどの無能ではありませんよ」


私は無能にみられていたのだろうかと軽くショックを受ける。

だがアレだの甥だのを最初に見てしまえば無能にみられても仕方がないのかもしれない。

ここで無能では無いとしっかりアピールしておかなければ!


「あぁクレーム・・・苦情ですか」

「その方がマシでしたね。

 養子縁組希望に婚姻の申し込み

 貴殿に興味を持った貴族が名乗りをあげておるのですよ」

「はぁぁぁぁぁ?! そいつら儂の年知らんだろ!何考えてんだ」


ぶふっ ダルクが再び顔を背けて肩を震わせている。

いやお前思い切り吹き出しておいて今更顔背けてもだな。

そう言う私も笑いを耐えつつ身勝手な書状を送って来る狸共への怒りで肩が震えているのだが。

笑いと怒りが混在している私、意外と器用だな。


「楽な喋り方で構いませんよ」


マォ殿には本来の喋り方をして貰う方がよさそうだと思った。

ならば私もこの喋り方よりは素に近い方が警戒されないのではとも思った。

魔道具で遮音魔法を発動させて少しばかり砕けた口調で話す。


「正直いいますとね。

 こんなくだらない書簡を送ってくるくらいなら

 まずは自分の仕事に取り組めと!

 本人に会った事もないくせに自分の都合のいいような招き人像を思い描いて

 実際あったらこれじゃない感出すに決まっておる、失礼極まりない!

 まずは本人と会って為人(ひととなり)を知れと!」

「閣下落ち着いて下さい」


ダルクが煎れた紅茶を私とマォ殿に差し出す。

一口飲んで喉を潤わし一息つく。

マォ殿は目を丸くしている、驚かせてしまったのだろうか。

宰相職に就いているとは言え私も人の子。いや壮年だが。感情くらいは持ち合わせておる。


私はマォ殿の話に興味を魅かれた。

価値観の違いもあるのだろうが、裏表のない物言いが気に入ったのもある。

この王城という魔窟は常に腹の探り合いで本心を隠し通さねばならない。

何の(しがらみ)もないマォ殿は元々の性格もあるのだろうが常に本心をさらけ出してくる。時折「そこは少し遠回しに!」と思う事もあるが。

打てば響くとでもいうのだろうか、子気味の良い会話が楽しくもある。

もっと様々な事を話してみたいと思ったので、飲みながらどうか と聞いてみた。


「防音完備の部屋でなら。きっと叫びそうだし?そこの部下くんも是非に」


との返事を貰ったのでダルクに日程の調整を頼んだ。

ダルクは目で(何故私を巻き込むのです!)と訴えてきたが私が巻き込んだのではない。

マォ殿が巻き込んだのだ。

ん? それは私と2人きりは嫌だと言う事か。

確かに夫婦でもない男女が2人きりなのは宜しくは無い。

だが チクリと心が痛むのは何故だろうか。



読んで下さりありがとうございます。

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