頑張るルーク②
どうやら木彫り人形が原因で、招き人はケイルに居るのではないかとのうわさが広まっているらしい。
買い出しに出掛けていたアルノーが疲れ果てて戻って来た。
「マジかー。こっちに居ない動物も居たのかぁ」
「すまぬ、私も気付かなかったな」
「まぁ儂等が居ないと解れば元の場所に戻っていくだろ?」
そうは言うがまずケイルには領主が居ない。
元の領主に後継者が居なかった事から領地は国に返還されていてケイルは今国有地となっているのだ。
町長にある程度の権限があるとは言え領主の様に上手く対応できるとは思えない。
しかも町長と言えども平民であり貴族相手となればどうにもできないのが現状である。
このまま噂が立ち消えてくれればよいが。
私達に今出来る事はこの地や森に良からぬ侵入者が現れないよう警戒をする事だろうな。
様子見をする事数日。
「ルークは居るか!」
分厚い書類を持ち目の下に隈を作ったエルフィンが再びやってきた。
まずはこの書類を見ろと言うので目を通してみれば・・・
随分と身勝手な事をぬかす古狸一派からの要望書や嘆願書。
貴族家や城勤退職者からの移住嘆願書。
最も意味不明なのがアレに恩赦を出せとの嘆願書・・・
「エルフィン、1つ聞いていいか。
今城の文官でマトモなのは何名居るのだ」
「それ聞く?・・・
ルークの弟である宰相以外にマトモなのが居たら俺、こんなに苦労してないよね」
「あー・・・」
「どいつもこいつも好き勝手言いやがって!やってられるかぁぁぁぁぁ!!」
「落ち着けエルフィン・・・」
「気持ちは解るがまぁ落ち着け・・・
ルークとダルクはこの5家って知ってる?」
「一応は知ってますよ。確か最近アレの派閥から抜けたんでしたね」
「元々小心者だろう、あいつ等は。
しかもその5家は細君が割と強くて、良識のある方々だったような・・・」
「なるほど、じゃぁさ現宰相に一度この5家に面接して貰おうよ。
必ず夫婦揃っての面接にして貰ってさ・・・
あー・・・儂もその場に立ち会うか」
「は? マォ?」
「おかん? 何か考えがあるのか?」
「いやね領主が居ない領地内の4町、その5家に任せる事が出来ればなと。
あくまでもまともな人ならばだけどね」
「なるほど、代官的な事をやらせるのか」
「それも1つの手ではありますよね、では少し話を煮詰めていきますか」
ダルクの目がキラリと光った気がする。
まずは各町長と移住希望の貴族家5家の身辺調査、これはエルフィンに任せる事となった。
その上でおかしなところが無ければ貴族家とは面談をする。
またケイル・エルム・エムム・エヌムの4町はエルフィンが引退後に領主となり統治していくことになっり、面談結果によって貴族家には各町の代官職を担ってもらう事となる。
そして各町の住民には大まかな事が決まり次第告知し、残るか他の領地へ移住するかを選んでもらう事にした。細々とした部分については面談後に残った人物を見た上で決めていく方がよさそうだ。
それと同時にエルフィンに引退についても進め、周辺国への根回しもしておかなければならない。
おや?・・・ これは忙しくなるのではないのか。
おかしい、のんびり隠居生活が・・・
ああ、でもこうなると我が一族の者達にも通達を出す方がよいか。
ついでに不穏分子も洗い出して排除してしまえばいいし。それについては弟と相談だな。
「では面談については身辺調査が済み次第と言う事で」
「解った、戻り次第取り掛かろう。
はぁ・・・また私ののんびり余生が遠くなる・・・」
「私だって同じだ。のんびりマォと暮らすはずが・・・」
「仕方がありません、のんびり暮らすためにもテキパキと動きましょう」
地中へ潜るエルフィンを見送った後、私はダルクと2人で話をした。
この地に来る前にエルフィンと3人で話して居た事、『いずれこの国と分離して小国になったりしてな』などと笑っていたのだが。
「あの時の冗談が現実味を帯びてきましたね」
「まさか本当にこのような事態になるとはな」
「私はもう諦めてますよ。マォと一緒にいれば次々と前代未聞な事が起きますし。
正直この国は古狸がはびこりすぎたんですよ」
「そうだな、対抗するにはすでに遅すぎる。せめて先王の頃に手を打って居れば」
「過ぎた事を言ってもどうにもなりません」
「んむ、私達の老後の為、時代を担う若者の為、いずれ来るゆっちゃんの為。
もうひと頑張りするか」
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