一応領主なルーク⑤
ゴォォォッ カタカタカタッ ミシッ
何事かと目を覚ませば外は大荒れの猛吹雪となっていた。
何の前兆もなく突然だったので窓などの対策がとれていない。
慌ててベットから抜け出し上着を羽織る。
部屋から出てみれば皆も起きてきていた。
「アルノーはマォの様子を見に行ってくれ。
ダルクは私と窓の対策を。
コレットは暖炉に火を起こして部屋を暖めておいてくれ」
外套をはおり外に出ればすでにオルガが行動を開始していた。
獣舎や牛舎を担当してくれる気らしいので助かる。
私もダルクと共に雨戸を閉めて廻りたかったのだが・・・
「閣下ー、私無理ですーー。私が飛ばされそうですーーー」
「・・・」
そこまで軽かったのか・・・
とは言え気を抜けば私もよろめきそうではある。
「わかった、中に入っていろ」
なるべく風の煽りを受けないように前かがみで進むのだが、これだと明日は腰痛になりそうだ。
2つ目の雨戸を閉め終わった時にマォとアルノーがやってきた。
合流して3人で雨戸を閉めて廻り、室内に薪を運ぶ。
この分だと明日にはドアが開かなくなるかもしれない。
4日分の薪を運び終えて朝食を摂る。少々腰が痛いが仕方があるまい。
「これ何日くらい続くんだろう」
「3~4日くらいかな、恐らく」
「ながっ」
外に出る事が出来ないので各々好きに時間を潰す。
アルノーとリオルは装備の手入れをするようだ。
マォは皮の端材で小物を作るようだ。
ならば私は久々に木工細工でもしてみようか。
コースターを手に取り飾り彫りをしていく。
マォ達は雑談を交えているようだが私はそんな余裕がない。
集中せねばならんのだ。1つのミスで模様が台無しになってしまう。
「ふえっくしゅっ」
ザクッ
「・・・」
ダルクのくしゃみに驚いて小刀が中指に当たった・・・
痛いではないか・・・
「あ、すみま・・・ ひぃ!閣下が流血を!」
「え? うわぁルーク」
「何をそんなに騒いで・・・」クラッ
肉が削れていた・・・
「い、痛いの痛いのド畜生の第二王子に飛んでいっちまえ!」
マォの叫びと共に痛みも傷も消えた。
「大丈夫か?大丈夫そうだな、うん」
私は大丈夫になったが・・・飛んで行った先がアレならまぁ良しとするか。
ダルクはコレットとマォにこってりと叱られていた。
くしゃみは仕方が無いと思うのだが・・・
夕飯はたっぷりと時間を掛けて作られたコレットの力作だった。
どうしてもつい食べ過ぎそうになるが、ここは我慢だ。
古狸のようにでっぷりにはなりたくはない。
それから4日間同じような日々を過ごしてやっと吹雪も収まった。
外に出てみれば、これぞ冬景色!という感じの庭になっていた。
マォは初めて見るであろうこの景色に感動しているようだ。
獣人達も集まりしばしの間この景色を堪能する。
寒さは厳しいがこの美しい景色を見ることが出来る冬が私は好きだ。
その時マォが遠くを見つめながら呟いた。
「ケイルの町の方角に何か飛んでない?」
この時期に空を飛ぶような鳥や魔獣は居なかったと思うのだが。
獣人達も一斉にその方角を見つめる。
「あー・・・マォ殿。聞いてもよいでしょうか?」
「なんか聞きたくない気がするけどなんだろう?」
「自分は初めて見るのでありますが
マォ殿の世界には空飛ぶ亀って居たりしました?」
ん?・・・
今亀と言ったか?
いやいや、どの世界でも亀は空を飛ばないのではないか?
まさかマォの世界には空を飛ぶ亀が存在するのだろうか。
「空飛ぶ亀って・・・なにさ」
よかった、やはり存在しないようだ。
「ですよね。 でも手足の部分から火炎噴射しながらクルクル飛んでるんですよ」
は? 手足の部分から火炎噴射?
魔獣か?だがそのような魔獣は報告が上がった事など無かったはずだが。
「それでですね。背中に誰か乗って・・・あ、こっちに向かってきますね」
「「「「 は? 」」」」
「来なくていいし来んなし!」
などと言っている間にもゴォォと言う事は近づいて来る。
いったい何なんだ・・・
「え?・・・」
マォが唖然としている。
「ばぁば~~~~~~!! ゆっちゃん来たよぉ~!!」
はぃ???
ばぁば?? ゆっちゃん??
「おかん、もしかしてあれって・・・」
「うん、ゆっちゃんだね・・・」
アルノーには心当たりがあるようだ。
近付くにつれ、あれが亀だとはっきり認識出来た。
空を飛ぶ亀、初めて見たな。
「閣下・・・」
「ダルク、何も言うな」
言わずともわかる。亀が空を飛ぶなど前代未聞なのだから・・・
亀は庭にゆっくりと着地し、火炎放射を止めて小さくなった。
小さく?! 自由自在に大きさが変えれるのか・・・
「ばぁばぁぁぁ!会いたかった!ゆっちゃん来たよ?嬉しい? ふへへ」
「いやゆっちゃん来たよじゃなくてね?ママは?」
「ばぁば、ゆっちゃんに会いたくなかったん?嬉しくない?」
「いや会いたかったし嬉しいけども!」
「んとね、ゆっちゃんね校庭で遊んじょったんじゃけど
気が付いたら空とんじょったん」 へへへ
もしかしてこの子がマォの孫であろうか。なんとも愛らしい笑顔ではないか。
突然の出来事でマォを始めとする皆は軽くパニックになった。
よし、落ち着くのだ。
このままでは寒かろうし、ゆっちゃんが風邪でもひいては困るだろうと思った。
「マォ、寒いし取り敢えず中に入ろう」
「あ、そうだね。よしゆっちゃんおいで。中に入ろう」
「はぁーい」
アルノーがひょいとゆっちゃんを抱きかかえた。
ゆっちゃんが嬉しそうである。
ずるい、私も抱きかかえたかった。
読んで下さりありがとうございます。
新たに保護した猫の介護の為、明日の更新ができなかったらごめんなさい。