一応領主なルーク④
ダルクと川の上流に向かう。
トラウトを釣りに行くのだ。
トラウトならば毎年冬前に釣っていたから大丈夫だと思う。
私も少しはカッコイイところを見せたいのだ。
「桶いっぱいに取れるといいんですけどね」
「そうだな」
手頃な岩に腰を掛けて糸を垂らす。
餌はそこらに飛んでいる羽虫だ。
ダルクと雑談をしながら魚が食い付くのを待つ。
しばらくするとクイッと糸を引く感覚がきた。
慎重に糸を手繰り寄せる。
もっともチョコとカカオが作った糸なのでそう簡単に切れる事は無いだろう。
グイッと抵抗が重くなる。
これは大物を期待してもいいだろうか。
是非とも吊り上げたいので、負けずに足を踏ん張ってみる。
が・・・
バシャッ
川に落ちた、というか引き込まれてしまった。
トラウトとはこんなに力が強かっただろうか。
「閣下!早く川から上がってください!
糸に掛かったのはキャットテールですよ!」
「は?! なんだと!!」
私は慌てて川から這い上がった。
キャットテールと言うのは2~3mの大型肉食魚だ。
稚魚であれば可愛いのだがな。
糸にはまだしっかりとキャットテールが食い付いている。
食用にもなったはずで、その皮は耐水性に優れているので冒険者達の外套やテントにも加工される。食べてよし売っても良しなので是非とも釣りあげたいところではある。
「マォ殿にも褒めていただきたいんですよね」
「なっ・・・」
ドポンッ
ダルクが余計な事を言うから再び川に落ちてしまったではないか・・・
これはマズイのでは・・・
『クルルルッ フシャー!』 ザブンッ バシャ バシャバシャッ
「サブレ?・・・」
居るはずの無いサブレが川に飛び込んでキャットテールと格闘を始めた。
「閣下、何ぼーっとしてるんですか。今のうちに早く」
「あ、ああ」
「早く乾かさないと凍えてしまいますよ」
ダルクが魔法で風よけの土壁を作り、そこらに転がっている流木を集めて火を起こす。
残念ながら私ではマォの様に温風を生み出すことが出来ないのだ。
火にあたりながら川の様子を伺う。
シャーシャーと威嚇しながら戦闘しているがどうやら相性が悪いらしく、中々締め付ける事が出来ないでいる。キャットテールの表面は粘膜があるのだったか。
「魚の粘膜は粗塩でこするとよいらしいですよ」
「ほう・・・ って巨大なキャットテールには出来ぬだろうぅぅぅ!」
「解ってますよ」
だったら何故言った・・・
だがあのままではサブレも体力を消耗してしまうのではないだろうか。
逃すのは惜しいがサブレの方が大事である。
「サブレ、無理をせずとも戻ってこい」
サブレは嫌々と首を振る。
そして思い切り顰め面をした後に、キャットテールの口に尻尾を突っ込んだ。
「「 は?! 」」
そして尻尾をそのまま鰓から突き出して岸に上がり始めた。
「もしかして尻尾で釣りを?」
「あれだと痛いのでは?」
キャットテールの歯はヤスリのようになっているのだ。こすれれば痛い。
私は外套を脱ぎそれをキャットテールに巻き付けサブレと一緒に引き上げる事にした。
「ダルク、お前も手伝え!」
2人と1匹がかりでなんとか吊り上げ?いや引き上げる事ができた。
すぐにサブレの尻尾を抜き風魔法で頭を切り落とす。
頭と胴が切り離されても暫くは動いていたので気持ち悪い。
「サブレ、大丈夫か。怪我はないか?」
「キュッ」
確認すると所々鱗が剥がれ落ちて痛々しい。
「戻ったらマォに治してもらおうな」
取り敢えず持っていた傷薬を塗っておく。
その後で腹を裂き内臓を取り出して燃やす。
内臓をそのままにしておくと別の魔獣が集まってしまうのだ。
近くで調達してきた葉で魚をくるみ、もふりんに乗せ帰路につく。
何故釣りさえもスムーズにいかないのか・・・
戻って見ればマォもデカニアを獲って来ていた。
見事なまでに魚肉だらけである・・・
「干したり燻製にすれば日持ちするからいいんじゃね?」
そう言いながらマォはコレットと解体を始めた。
デカニアはビスキュイが獲ったと言う事だった。
うちのラッセルサーペント達は優秀だな。
サブレもきちんと手当てをしてもらった。
例の『痛いの痛いの飛んでいけ』だ。何処の誰に飛んだのかは謎である。
夕飯はデカニアのムニエルとキャットテールのフリッター。
どちらも旨かったので苦労が報われた気がした。
(当初の目的だったトラウトは釣れなかったがまぁよいか)
が・・・
翌日私とダルクは全身筋肉痛となった。
なんとも・・・やはり体力作りが必要だと実感したのであった。
読んで下さりありがとうございます。