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宰相ルーク③

政務室へ向かえば陛下は留守だった。


「陛下はどちらへ?」

「招き人様の所へ向かわれました」

「そうか、ならばそちらに出向くとしよう」


招き人殿が滞在する貴賓室に近づくと陛下と招き人殿の声が聞こえてきた。


「今回はちゃんと意識もありますし言い返しますよ。それに・・・

 ムカつけばどつきますし?

 あ、不敬とか言わないでくださいね?」

「大丈夫だ、不敬とはいわん。

 して、どつくとはいったい・・・」

「そうですねぇ・・・ 見てのお楽しみ?

 理由なくどついた場合は不敬になるような行為とだけ言っておきます」

「なるほど、では楽しみに・・・」

「しなくていいです!」


「ぶふぉっ」


思わす吹いてしまったではないか。

自分でお楽しみといっておいて楽しみにしなくていいと。しかも被せ気味に。

いかんいかん、ここで笑い声でも立てようものなら会話の邪魔をしてしまうではないか。

耐えようとするものの肩が小刻みに震えてしまう。

陛下の傍へ行くのを諦め、入り口付近の護衛騎士アルノーの近くへひっそりと立ち様子を伺う事にした。

(それにしても どつく とは何であろうか)


「アルノーこれは今どういった状況なのだ」


小声で聞いてみる。


「招き人が第二王子に抗議したいようで、これから陛下と共に向かわれるようです」

「陛下と共にだと?」

「妃殿下も合流なさるようですよ」

「妃殿下もか!」

「はい、招き人の仰るどつくが気になる御様子です」

「ああ、確かにそれは私も気になるな。よし、私もこっそり付いて行こう」

「閣下、堂々と付いて行けばよろしいのでは?」

「アルノー、私は今招き人殿と対面して笑いを堪えきる自信がない」

「あー・・・」


アルノーから状況を聞いた私はそのままこっそりと付いて行く事にした。

どつくの正体が気になるのだ。


陛下にエスコートされ場所を移動している招き人殿の名前はマォ殿というらしい。

そう言えば名前を聞いていなかったな。私としたことが失念していた。

それにしても随分と打ち解けたような話し方をするのだな。

マォ殿の世界ではこういうものなのであろうか。


そして第二王子の部屋に到着した。彼は今軟禁中だ。

反省は・・・していないのだろうな。

扉が開かれ陛下とマォ殿が中に入るや否や


「なんでこのババァが此処に居るんだ!生きてたのか!ちっ」


頭痛を通り越して眩暈がした。

一国の王子がこの言葉使い・・・ましてや加害者である自覚がない。

駄目だ、これはもう王子として認められない、認めてはならない。

その後も悪態をつき続ける()()の胸倉を、え? 胸倉? 掴んだ。

そして放り投げるように突き放して肩を叩く・・・というより殴る?

なるほど、あれがどつくという仕草であろうか。

お、おぉぉ?・・・ 片手でアレを持ち上げ・・・嘘だろ。

何処にそんな力があるのか。兵士や騎士のように鍛えられた体には見えなぬのだが。


「どの口が言うか!努力もしない。他者を思いやる事もしない。

 他者をいたわる事も出来ないし家族すら大切に出来ない。

 あげくに自己都合の脳内変換で虚言妄想。

 どう考えても無理だろ!」


ええ、仰る通りで。アレの一派以外は皆そう思っていると相槌を打ちたかった。

その後もアレがなにやら戯言をほざいていたようだがマォ殿にすべて反論されていた。

マォ殿の言い分の方がまっとうなのだがアレはまったく理解していない。

口論では勝てぬと悟ったのかアレが横に居た騎士から短剣を奪い取りマォ殿に切りつけようとしていた。

アルノー達陛下の護衛騎士達が駆け寄ろうとしたがマォ殿はそれを笑顔で止めた。

凄く()()()()で。

あの笑い方は勝者の笑みだ。そして怒らせてはならない相手の笑みだ。

護衛騎士達も体をビクリとさせている。


「せぃっ!!」


掛け声とともにしゃがみ込み、足を払いのけアレのバランスを崩したかと思えばそのまま背後に回ってアレの手を後ろ手に固定して頭を押さえつける。

正直に言おう、何処の騎士だ!と叫びたかった。

あの身のこなしは動き慣れている者の動きだ。

何処かの間者だろうかとも疑いたくなるがマォ殿は間違いなく招き人、異世界の住人なのだ。

マォ殿の世界では老若男女問わず皆あのような動きが可能なのであろうか。

などと考えていたら終わったようだ。


「ババァに負けてりゃせわねぇな、ふんっ」


自分でそれを言うのか。いやそれだけババァ呼ばわりを根に持って居ると言う事か。

確かに女性に向かってババァ呼ばわりはいかがなものかとは思うが。

アレを押えるのを代わってくれと言われアルノーがそれを引き受ける。

他の騎士達はあっけに取られて動けないでいるようだ。

うむ、やはりマォ殿の護衛にはアルノーが適任であろう。

む、妃殿下と目が合った。妃殿下の目がキラキラと少女の様に輝いている。

こういう時はろくな事にならない。さっさと退出しよう。


「あぁら宰相。何処へ行くのかしらぁ?ちょっと付き合いなさいな」


遅かった。そのまま妃殿下に腕を掴まれ連れ去られ・・・

ダルクが迎えに来るまで延々とマォ殿の格好良さを聞かされるハメになった。

確かにあの身のこなしに肝の太さ。女にしておくのが惜しいとは思う。

だが今はそうではなく、陛下とマォ殿の護衛について話したかった。

待てよ、あの強さで護衛が必要だろうか。

いや必要だな。国として招き人に、ましてや女性に護衛が付かぬのはありえぬ。それがいかに強者(つわもの)であろうともだ。    建前だけどな!

読んで下さりありがとうございます。

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