自由人ルーク⑧
この数日モモの雄叫びで目を覚ます事になれてしまい、今朝はなんとなく物足りなさを感じた。
もっともバジリスクの雄叫びで目覚める日々などというのも普通ではありえないのだが。
全員が胃もたれの状態なので朝食は果物で済ませた。
昼までには胃の調子も回復するであろう。と信じたい。
朝食後は順調にといっても相変わらずの森の中を進み、ケイルまで後1時間と言う場所で小休憩を挟んだ。
足腰を伸ばした後アルノーと2人で崖崩れの現場へと様子を見に来てみたのだが。
「うーむ、これは自然発生というよりも・・・」
「何かが転倒した? それに靴跡があるのも不自然だな。
ここらに人が立ち入る事はまず無いと思うんだがな、下見に来た作業員か?」
「靴跡は下見に来た作業員のものではない感じだな。
作業用の靴であればもう少し、靴底に滑り止めのでこぼこがあるはずだ」
「なるほど、兵士や騎士のものとも違うな」
「ついでだ、遠目から町の様子も見て見るか」
「そうだな、そうしよう」
アルノーと町の近くまで移動して様子を伺ってみる。
作業員らしき者も冒険者らしき者も多少はいるようだが、それにしてはなんとも微妙な雰囲気が漂っている。討伐隊はまだ組まれていないのだろうか。
「一旦休憩場所に戻るか」
「ああ、その方がいいだろうな。皆の意見も聞きたいし」
休憩場所に戻り茶を飲みながら皆で考えてはみるものの、なかなか考えが纏まらず
「このままここで考えてもどうにもならん。俺が町で話を聞いてこよう」
アルノーがもしかしたらまだ知り合いが1人くらいは残っているかもしれないからと町へ行ってみる事になった。
町から戻って来たアルノーはこれまたなんとも言えない表情になっていた。
嫌な予感しかしないのだが気のせいだろうか。
「おかん落ち着いて聞いてくれよ?」
そう言うアルノーの報告を聞けばマォの額には青筋が浮かんでいる。
親子のオーガに手を出したと・・・なんと愚かな。
そもそもオーガはサイクロプスやギガンテスと違い温厚な種族だ。
ただ仲間意識が強いのでこの場合は報復される可能性がありうる。
出来れば阿呆な貴族だけにしてもらいたいものだが。
どこぞの阿呆な貴族が絡んでいるならば儂が出た方がよいかとも思ったが止められた。
少し考えた後でマォがニヤリと笑った。
「な? これならオーガの子供だって助けてやれるし
阿呆貴族だって居なくなるだろ?」
マォの説明を聞いた後皆でポカンと呆気にとられたが、なかなか良い案だと思う。
まずは皆で手分けしてオーガを探すことになった。
アルノーは町で待機し様子を観察する。
私はもっふると共に森を探し始めた。そう遠くへはいけないだろうと思い、窪みや樹のウロなども覗き込んでみる。
何か足掛かりでも見つかればよいのだが、なかなか見つからずに気ばかりが焦ってしまう。
「そっちはどうだ? こっちには居なさそうだ」
ダルクの手作りだと言う通信魔道具のバングルに話しかけてみる。
何かあった時の為にと用意したらしい。
確かにデザインの相談は受けたが、一晩で人数分作り上げるとかさすがだ。
「こっちも居なさそう」
「おぃ!こっちは大騒ぎになってる。
例の貴族が原因不明でいきなり傷だらけで毒にも侵されてるらしい」
「「「 は?! 毒だと! 」」」
阿呆が傷だらけで毒にも侵されたとなればマォがオーガ親子を見つけたのだろう。
いくら毒が体内から消えたとはいえ体力は消耗しているはずだと心配になる。
ん?・・・ 毒と言ったよか。 さらっと聞き流したが毒も飛ばす事が出来るのか!
「すまん、報告遅れた。オーガの親子は無事治療済み。
ただ体力落ちてるみたいだから新鮮な肉が欲しい」
「了解、場所は・・・もっふるが解るか」
「じゃあやっぱりあの阿呆貴族の騒ぎは・・・」
「んむ、痛いの痛いの飛んでいけだな」
「「「 ハハハ・・・ 」」」
もう乾いた笑いしか出てこなかった。
いや、今更な気がしなくもないが。マォと居れば何が起きても不思議ではないような気になってくる。
では肉でも狩って戻るとするか。
と思ったのにすでにもっふるが狩っていた。ブルボックという大型牛の魔獣。
血抜きして解体・・・ 私に出来るだろうかと少し不安になる。
えぇい、男は度胸!と気合を入れたのだが、もっふるがスパスパと解体をしていた。
優秀だなもっふる。でもその戦闘モードの顔で血塗れなのは少々怖いやもしれぬが。
フンスと自慢げにこちらを向く。
血まみれのおどろおどろしい顔なのに、可愛く見えてしまう。
「後で川に寄って洗い流すか」
「キュイッ」 スリスリスリ
「・・・」
私まで血塗れになったではないか・・・ 仕方がないと諦めよう。
気を取り直して戻るとするか。
「もふりん、半分食べてもよいぞ?」
さすがに大きいので半身でよさそうだ。
もふりんは嬉しそうにガバッと口を広げて半身を丸のみにした。
顎が外れそうだと思ったが、うむ。
まさしく顎が外れていた。蛇と同じ構造になっているのだろうか。
それとも魔獣独特の構造をしているのだろうかなどと考えつつも残りの半身をもふりんに乗せてマォの元へと向かう事にした。
到着するとすでにダルクが居て休憩場所の荷物も移動済みになっていた。
「マォ、肉を持ってきたがこれで足りるだろうか」
「どれどれ・・・
ぶっ・・・ 半身かーい!」
オーガが食べるなら丁度良いと思うのだが・・・
マォが調理するのを手伝う。
葉で包んで蒸し焼きにするのか、野営にはちょうどいい調理法だな。
蒸しあがるまでに食事を済ませる事になった。
夜間は消え込むので温かいシチューが身に染みる。
食後にとんでもない事が解った。
マォがもっちゃんやオーガと従魔契約をしたと言う。
オーガの失わせた魔力を補うのに自分の腕を切って血を与えただと?!
思わずマォの手を取って傷を確かめる。
すでに血は止まっているようだが、なんと無茶をするのか。
「まったく貴方と言う人は・・・」
「マォがどんどん妙な事に・・・」
ダルクもコレットも呆れている。
マォには少し自分を大切にすると言う事を覚えてもらいたいものだ。
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