自由人ルーク⑦
ゲシッ ツンツンッ
「・・・」
まだ夜が明けきらぬ頃、モモに起こされた。
起こされるのはいいとして、顔面を鷲掴みにするのは止めて貰いたい。
突くのもやめて貰いたい。
「どうしたモモ」
グイッと何かを押し付けられた。
紙?・・・
次にペンを押し付けられた。
無いかを書けと。 何を・・・
あぁそうか。返信をしていなかったな。私とした事がついうっかりと。
「解った、すぐに書こう」
まさかモモに指摘されるとは思わなかった。
崖崩れの件は了解した事とモファームが増えたので当初の予定より早く到着しそうな事を書き記してモモの足に結ぶ。
「これでいいだろう。モモ頼んだぞ」
モモは任せろと言わんばかりに頷いて走り去っていった。
ササミの子だと言うのに優秀だなと思う。
モモを見送った後に皆も起き始めた。
「ハンモックはいいですね。
温泉の効果もあるのでしょうが体が随分と楽になりましたよ」
「ああ、そうだな」
「あれ、モモちゃんが居ない」
「あー、モモならササミの元に戻って行ったと思う」
先程の出来事を伝えると驚いた後に笑われた。
いや正確に言えば笑うのを耐えている。
バジリスクに顔面掴まれて起こされる人間など早々居る訳もなく・・・
朝食の後は再び移動を開始した。
開始したのはいいのだが、モファーム達が選ぶ最短ルートが尋常ではなかった。
「ちょぉぉぉっ!」
「うぉぉぉぉっ」
「ひぃーぇーーーー」
「・・・」(気絶)
食べた物が逆流してきそうだ。と言うか内臓が全部口から出てきそうだ。
落ちる落ちる落ちる落ちる 吐く吐く吐く吐く 出るーー!(ナニカガ)
ほぼ垂直に切り立った崖を走って降下するとか聞いてないぞ!
ダルクは白目をむいているしコレットは顔面蒼白になっている。
マォですら引きつった顔になっているではないか。
アルノーは流石と言うべきか平然として・・・なかった。
キリッとした表情のまま意識が何処かに行ったらしい。
私はと言うと、なんとか耐えたものの膝が笑って立てなくなっていた。
ついでに言えば腰も抜けていた。
本来2日は掛かる迂回ルートを通らずに済んだのでかなり時間が短縮できたと思う。
ただ精神的疲労と少しばかりの人間としての尊厳が失われたが。
多少の差はあれどモファーム達が汚れてしまったのでマォが魔法を使って洗ってやっている。
何で汚れたかは聞かないで欲しい(遠い目)
ちなみに私は洩らしていないからな?
皆して疲れたので今日は早めに休む事にし野営できそうな場所を探すことにした。
幸いすぐに良さそうな場所を見つける事が出来たので、荷を下ろしてハンモックを設置して準備を整える。
背の高い木々に囲まれた場所なのでまず人が足を踏み入れる事はない。
マォが昼食をどうするか聞いてきたが皆食欲は無かったので飲み物だけで済ませる事にした。
私は胃がすっきりしそうなハーブティーにして貰った。
「それにしても・・・
マォ殿と出会ってから色々な経験が増えましたね」
「そうだな。マォと出会う前のこれまでの経験はとても平凡だったのだなと思う。
奇想天外と言うか、予想外の出来事が多すぎて」
「ですよね。でも正直私は今とても楽しいのです。
気心の知れた仲間、家族と共に日々新しい事を経験出来る。
これを幸せと言うのでしょうかね」
「確かにな。私も今幸せだと思えるよ」
「それに気苦労も無くなりましたし、心なしか頭頂部も元気を取り戻したような」
「やはりダルクも思ったか。私もだ」
「まぁ私達のぶんまで陛下の頭頂部が心もとなくなっていそうですが」
「それは・・・諦めていただこう・・・」
申し訳ない事にすっかり陛下の事を忘れていたなどと言える訳もなく。
「まぁ今の今まで綺麗に忘れていたのですけどね」
「ぶっ、お前もか」
「仕方ないでしょう、日々楽しく新鮮な事が多いのですから」
私達がそんな会話をしている間にマォとアルノーがヌゥラットを狩って来た。
ヌゥラットは兎の様な鼠の様な見た目で赤みの旨い肉である。
「匂いが出ても大丈夫らしいから、今日はこいつを焼こう」
マォが嬉しそうに手慣れた様子で解体していく。
久々の新鮮な肉にありつけるからだろう。
こういう時はコレットも意気揚々とやってきそうなものだがと辺りを見回せば。
コレットはまだぐったりとしていた。
「あの高さから一気に駆け降りるのは駄目だ・・・」
相当なダメージを受けたようだった。
しかし夕飯が出来上がる頃にはコレットも落ち着いたようでガッツリと食べていた。
勿論我々もガッツリと食べた。
そのせいで今度は全員食べ過ぎでぐったりする事になったのだが。(苦笑)
マォ「うぅ・・・うますぎるこの肉が悪いんだ・・・」
ダル「マォ責任転嫁は駄目ですよ」
私「次は胃薬を用意しておこう」
コレ「腹八分目で辞めりゃいいだろ」
私「今とてそう思って無理だったではないか」
アル「確かに・・・」
コレ「いや、焼く肉を少なめにすれば・・」
アル「足りなかったらどうする」
コレ「そこまで少ない訳じゃないだろう」
アル「俺はたらふく喰いたいんだ」
マォ「その結果がコレだろうが」
ダル「物事何事も適度がよいと言う事ですね」
私「そういうダルクも食べ過ぎているではないか」
ダル「こんかいは少々、皆に釣られて」
マォ「ダルク、責任転嫁はいかんよなぁ」ニヤニヤ
ダル「うっ・・・」
そんな会話をしていると、気が付けば皆眠りに落ちていた。
仕方がないなぁと言わんばかりにモファームが火の番をしていたらしいと気付いたのは翌朝だった。
読んで下さりありがとうございます。