自由人ルーク⑤
朝から予想外の出来事があったが、その後は順調に歩き進めて今はキエルの町が見える位置に居る。
勿論、町の方からは見えないように森の中だ。
ここで私とアルノーとマォの3人は待機し、ダルクとコレットが偵察に出掛けるのだが。
「ちょっと裕福な商人風を装ってみますね。では行きましょうかコレット」
「はいお父様」
「「「 ・・・ 」」」
どこからどう見ても普通にご令嬢である。
上手く化けたものだ・・・ いや今までの姿が化けててこちらが素だろうか。
「凄いな、人ってあんなに変われるんだ・・・」
「私も驚いたよ」
「俺もだ・・・」
やはり思う事は同じだったようだ。
「思ったよりも人の往来は少ないな」
「そうだな。まだ復旧作業の人材募集が掛かっていないのだろうか」
「2人が戻ってくりゃ何かしらは解るだろ。
今のうちに儂等は休ませてもらおうぜ。ふふふ、ちょうどいい物があるんだ」
そうしてマォが取り出したのはチョコレートだった。
「妃殿下から貰ったんだけどさ、3つしかなくてな。
今がチャンスじゃね?」ニヤリ
「おかん、悪い顔になってるぞ」
「ん?じゃぁアルはいらねぇんだな?」
「いや要るけども!」
勿論私もすこぶる良い笑顔になる。
ひょいと摘まんで口に入れれば、ほろ苦さと甘さのバランスがよく旨い。
やはり疲れた時は甘い物に限る。コーヒーにも合うな。
森の中には香りが強めの植物もあるのでコーヒーの匂い程度なら誤魔化せる。
さすがに肉を焼くのは駄目だが。
マォ曰くこの匂いの強い植物は虫よけにもなるそうだ。
マォが夕飯の準備に取り掛かったので私は周囲で薬草採取をする事にした。
先程コーヒーを飲みながら確認しただけでも結構な種類が生えている。
これから辺境の地で暮らすなら薬草の種類は多い方がよい。
乾燥させておけば一冬はもつだろう。
マォ殿に全部を採取せず、根と一部の葉も残すようにと言われた。
そうする事で来年以降も採取できると言う事らしい。なるほど。
そうこうしている間に2人が戻って来た。
なんとも言えない微妙な表情をしているのだが、何かあったのだろうか。
そう言えばモファームは何処だ。見当たらぬのだが。
マォも辺りを見回し首を傾げている。
もこもこっ ずざぁ~っ にょきっ
「うぉあっ! びっくりしたぁ。もっちゃん?・・・土の中も走れるんだ・・・」
ああ、人目を忍んで地中を走って来たのか。
マォは知らなかったのだろう、驚いていた。
モファームは嬉しそうに頬擦りをしているが、先に土を振り落とす方がよいと思うのだがな。痛そうである。
ああぁぁ、そこで土を振るったらマォに掛かるではないか。
もこもこもこっ にょーん にょにょーんっ パラパラパラ
「・・・」
私にも掛かったではないか。
誰だと思えばおや? 私が使っていたモファームではないか。
「閣下とアルノー殿のモファームです、陛下が遣わして下さったようです」
ほう、珍しく陛下がいい仕事を・・・ゴホンッ
それはまぁ置いておいて、ダルクはまだ私を閣下呼びしている。
宰相職は辞したのでそろそろ普通に呼んで欲しいのだがな。
「ダルク、戸籍上は家族なのだからいい加減にその呼び方を変えたらどうだ」
「しかしですね、私にとっては閣下は閣下で・・・」
「ふーん、いつまでも他人行儀なんだ。儂寂しい・・・」
「うっ・・・」
マォにそう言われてしまえばさすがにダルクも観念したようで
「え、いや、その。他人行儀といいますか・・・
解りました、なるべく善処します・・・」
「その敬語もね? 逆に怪しまれるよ」
「そ、そうで・・・ソウダナ。ワカタ・・・」
なんだそのカクカクした喋り方は・・・
まぁその内慣れるであろうと思いたいものだ。
マォにモファームの名前を聞かれ、無いと知られると付けてやれと言われた。
確かにこれから一緒に生活していく上で名前がないと不便やもしれぬ。
モファームの毛に着いた土を払ってやりながら考えるが浮かばない。
「アルノー、浮かんだか?」
「いや、浮かばないな。ルークは?」
「私も浮かばぬ」
2人で唸っている間に夕飯の時間になってしまった。
これだけ考えても浮かばないとは思わなかった。
食後に町の様子と噂話の報告を受けたのだが・・・
ケイルの崖崩れはオーガが原因で討伐隊の募集が掛かっている
これは解る。
斜め上を行く噂が出回っているけどおおむね同情的だった
いや随分と省略したな。詳しくと聞いても目を逸らされた。解せぬ・・・
アルノーはちゃっかりと【もふりん】という名前を決めていた。
私はまだ思い浮かばないのだが。
そのもふりんの手綱に陛下からのメモが括りつけられていたと。
古狸共に追跡禁止令を出したと書かれていたが、守るのだろうかあの古狸共。
そして私のモファームにもメモ書きと小さな布袋が結び付けられていた。
マォに対する謝罪と無事宰相職を引き継いだ報告、それと一族の了承を得られいつでも協力が可能な事が書かれていた。もっともこれは弟と事前に話し合っていたので最終確認の報告だ。
スェイキョウ商会がこちら側に付いてくれたのはありがたい。これで商品と情報の入手は問題ないだろうと安心できる。
モファームが3匹になったのも嬉しい誤算だった。
3匹いれば皆で分散して乗れるので移動も楽になる。予定よりも早く辺境の地へたどり着けそうだ。
今夜の見張りもモファームとモモで引き受けてくれると言う。
お陰でゆっくりと眠れそうである。
モファームに寄りかかり目を閉じる。
そうだ、名前を考えねば・・・
名前、名前、なま・・・ ぐぅ・・・
読んで下さりありがとうございます。