自由人ルーク④
上流の浅瀬に辿り着いた時、思わぬ物と遭遇した。
『 グォ? 』
お互いに立ち尽くす。
マォは「これ熊か」などと言っているが熊は熊でも魔獣の熊でフォレグリズリーだ。
確か雑食性で凶暴だったはず。
マォが後ろに下がれと手で合図を出してくるので、そっと後退する。
どうするつもりであろう。
「えーっとね、儂等そこ通りたいんだけどちょっとだけ道譲ってくんないかな?」
ぶっ、話しかけるんかーい!
ハッ、思わずマォの口調になってしまった。
モモがため息をついて前に出て行く。
鶏って溜息もつくのだったか・・・いや鶏ではないのだが。
モモ『 クォーケッ ケケケッグォックォ?』(通りたいんだけどいい?)
熊 『 グァ? グォガグァ 』(痛い事しない?)
モモ『 クォッケ ゲケッグォ 』(しない。心配ない)
熊 『 クゥオン グァグォ 』(魚横取りしない?)
モモ『 クォッケクォッケ クォーケッコゥ 』 (しないしない、通るだけ)
熊 『 オンオン クゥー 』(じゃあいいよ)
「「「「 ・・・ 」」」」
待て待て待ってくれ。
バジリスクとフォレグリズリーが会話とか聞いた事がないのだが!
しかも道を譲ってくれるとかも聞いた事が無いのだが!
報告書や魔物図鑑でも見た事もないぞ!
これはあれか、我々が知らなかっただけで実は共存可能?
「閣下、今のうちに通らせてもらいましょう。呆けるのは後にして下さい」
「あ、ああ。これはあれだな。
魔物や魔獣に対する考え方を改めた方がよいかもしれぬ」
「そうですけどね、今はほら早く渡ってください」
全員が渡り終えるとマォは木の実を地面に置いていた。
聞けば通行料に置いて来たと言う。なるほど、私も何か置いて来れば良かったかもしれぬな。
そう思い、次の機会があるかは不明だか歩きながら私も木の実を採る事にした。
下流に向かい歩いていると、マォのリュックの上で何かが動いているのが見えた。
(うっ、これはまずいのではないだろうか)
「アルノー、止まってこっちに来てくれ」
「どうかしました?」
手招きでアルノーを呼ぶ。
今言ってマォがパニックになっても困る、
「マォのリュックにいるあれって・・・」こそっ
「うわっ・・・ホワイトマンバ・・・」
「やはりそうか・・・」
私の記憶違いであればと思ったが残念合っていた。
小型の蛇型魔獣で見た目は美しいのだが、スピードと毒は上位に入る。
襲われる=死につながる種だ。
どうやってあそこに居るのかは解らぬが出来ればそっと立ち去って欲しい。
「おかん」
「どした?」
「リュックの上に蛇が乗ってる」
「ちょ・・・誰か蛇に詳しい人は?」
「「「「 ・・・ 」」」」
マォ以外は皆名前くらいは知っている。
だが言える訳がない。
驚いたり騒いだりと刺激を与えてはならんのだ。
マォはそっとリュックを降ろし蛇の姿を確認するとウットリしながら綺麗だと呟いた。
確かに見た目は美しいのだがな。
「えーっと。君は誰かな?」
いやいやいや、何故に蛇に名を聞く。蛇に聞いても答えないだろう普通。
「毒は無さそうだし無害っぽいから森に放してあげよう」
何をもってそう判断したんだマォ!
いや掴むな、手に乗せるな、撫でるんじゃない愛でるんじゃなーい!
見た目に騙されるんじゃない!
蛇も蛇で嬉しそうにウットリして・・・するんじゃない!
そしてその勝ち誇った眼はなんだ!クソッうらやま・・・そうではない!
「閣下、落ち着いて下さい」
「解っておる・・・」
マォが少し離れた場所に放してやり、今日の野営地に向かって進む。
道すがらベリーを摘んだり木の実を摂ったり。
幸いな事にたまに魔獣と遭遇しても戦闘にはならずに済んだ。
マォには不思議な魅力があるのだろうか。
まさかとは思うがこれも【特性:おかん】の効果か?・・・
考えながら歩いていたからか、ゴンッと太い枝にぶつかってしまった。
「大丈夫ですか閣下」
「ああ、大丈夫だ」
少しばかりジンジンと痛むが自業自得である。
考えるのは後にして今は周囲に注意を払ってしっかりと歩こう。
夕暮れ前には目的の野営地に到着した。
河縁の岩場でちょうど手頃な窪みがある場所なので風よけにもなりそうだ。
夕食はパンと軽く炙ったソーセージ。
このソーセージもマォが作ったと言う。何でも作れてしまうのだな。
「ん?そりゃぁね。山の中の僻地に住んでたからある程度の物は作れるさ」
半自給自足生活をしていたのだと言う。
なるほど、だから逞しいのかもしれない。
この場所からキエルまでは半日くらいの距離だ。
あまり急ぐ必要も無いので今日は少しゆっくり休もうと言う事になった。
とは言え見張りは必要なので昨夜と同じ順番で行う。
特に何事も起きずに朝を迎え朝食を摂る。
「ぶっ」
マォが固まった。
「おかん、どうし・・・うわぁ!」
「なんだ、どうし・・・うぉっ!」
アルノーと私が近付き目に入ったのは・・・
カップの中で満足そうにゲップをする昨日のホワイトマンバ・・・
「コーヒー淹れたハズなのにコイツ飲んだらしい。
蛇にカフェインて大丈夫なんじゃろか?どう思う?」
「どう思うと言われても。カフェインがまず何なのかが解らないな」
「そうじゃなくてマォ。連れて来たのか?」
「いやまさか。昨日 野に放ったじゃん」
では何故にここに居るのだろうか、しかもカップの中。謎である。
「しゃーない、言い聞かせて放ってくる」
そう言ってマォは河から少し離れ森の中に向かって行った。
言い聞かせるって・・・
言い聞かせて何とかなる物なのか?
「閣下。深く考えても無駄だと思います。マォ殿ですし?」
「まぁ確かにそうだな。おかんだしな」
「そ、そうか。そうだな。マォだしな。うむ、そう思う事にしよう」
マォが相手ならば何が起こっても不思議ではない。
実際この数日でそれを目の当たりにしたし
世の中理屈や常識を覆すような不思議な事も起こるものなのだと実感した。
気を取り直してコーヒーを飲もうとしたら
無い! さっきまで入っていたのに無い!
こぼしたのだろうか。
「ゲフッ」
「 ・・・ 」
カップの横にホワイトマンバが居る。しかもゲップをした。
お前か!お前が飲んだのか!貴重な朝のコーヒーを!!
「お、お、おのれぇぇぇぇぇぇ!
貴様何故私のカップに入っておるのだぁぁぁぁ!
えぇい!吐け吐き出せ!私のコーヒーーーーーーーーッ!」
カップごと蛇を揺さぶった。
「閣下落ち着いて下さい、何が・・・ぶっ」
「どうしたルー・・・ マジかっ」
「なんだルー・・・ク。 お前また飲んだのか!」
その後ダルクに新しくコーヒーを入れて貰い ホワイトマンバは懇々とマォに説教された後再び森に放たれたのであった。
(二度と戻ってくるんじゃぁないぞっ!)
読んで下さりありがとうございます。