自由人ルーク②
移動を開始する前にしておかなければならない事がある。
この獣騎士団駐屯地の整地だ。
「では、やりますね」
フフフと楽しそうに微笑むダルクは少し怖い。
地面に両手を着き魔力を流し込んだかと思えば、建物が塵と化し元の荒れ地となった。
「建物の中にあった家具や小道具はどうなったんだ」
「木材は家屋同様土に戻りましたし、金属類も元の鉱石になっているはずですよ。
地中奥深くで」フフフ
「ダルク、そんな事まで出来るのか」
「地属性だけとは言えランクⅢですからね、これでも」
なるほどな。さすがと言うべきだろうか。
「さて、此処はこれでいいでしょうから出発してしまいましょう。
早めに町を抜けて森で少し休みたいですしね」
城壁に沿ってアルノー・コレット・マォ・ダルク・私の順で進んで行く。
巡回の騎士は居ないと思うが周囲の気配を探りながらゆっくりと。
姿を消す魔道具もあるにはあるのだが、下手に魔力を感知されても面倒なので使用はしていない。
正面玄関までは距離があるので裏手の通用門を利用する事になっている。
通用門の門番はこの時間だとまず人の出入りはないので油断しているはずだ。
思った通り門番は転寝をしていたので難なく抜け出すことができた。
この門番、意味があるか?と疑問にも思ったが。
門を抜け少しすれば城下町に入る。
さすがにこの時間は人もほぼ居ない。
極たまに酔っ払いが転がって居たり、巡回の兵士が通るくらいだ。
物陰に潜みながら大通りを避けて移動するので、まず遭遇する事はない。
小一時間程度で抜ける事が出来た。
町から少し離れれば森が広がっている。
整備された街道が通ってはいるのだが、人目を避ける為に私達は森の中の獣道を進む事にしている。
正直、ここまで長時間を歩く事など無いのでかなり疲れている。特に足が。
こんな事なら少しは鍛えておくのだったと思ったが、どうやらアルノー以外は皆同じ状態のようだった。
んむ、私だけではなくてよかった。
しばらく森の中を歩き、夜が白み始める前に1時間の休憩となった。
靴を脱いで足を延ばせば少し楽になった気がする。
マォ殿が竹筒に入ったコーヒーを温め直し、パンと共に皆に配ってくれる。
疲れた体に有難い。
「これはありがたい」
「朝晩と冷え込み始めましたからね。温かい飲み物は嬉しいですね」
「このパンも旨いな」
腹が膨れれば当然の様に睡魔がやって来る。
このまま寝てしまいたい願望はあるが、寝る訳にはいかない。
「さて空も白み始めましたし、そろそろ行きましょうか」
ダルクの合図で再び歩き始める。
森の中は魔獣の住処でもあるが、よほどのことが無い限り襲ってはこない。
無駄な争いを避ける為にこちらも魔物避けを持ち歩いている。
万が一にも手負いなどの凶暴な魔物に遭遇したとしても、このメンバーで負ける気がしない。
特にマォ殿。
何と言うか、森にも慣れている感じがする。
そんなマォ殿はダルクと何か会話をしつつジャレているようだ。
楽しそうで少々羨ましいと思った。
太陽が頭上に上り2度目の休憩を取る。
「このサンドウィッチも美味しいですねぇ」
「オレンジジュースの甘酸っぱさが疲れた体に染み渡るな」
昨日準備しておいたのだろう、サンドウィッチが配られた。
野菜と肉のバランスもよく、ボリューミーで旨い。
他にもまだ幾つか作り置きがあると言う。
マォ殿に負担を掛けたのではないかと思ったが
「暇だったからいいんだよ。ストレス発散にもなったし」
と笑っていた。
パン作りがストレス発散なのか。
私も一度挑戦してみてもよいかもしれぬ。
夕刻になると開けた場所に辿り着いた。
此処が今日の野営地となるらしい。
ダルクが決めたようだがよくもまぁ地図を見ただけで見つけたものだと思う。
野営と言っても天幕を貼る訳ではない。
大きな石や枝を少し避けて小さな焚火を点ける程度だ。
焚火を囲んでそれそれリュックを枕にして眠る事になる。
ぐっすりと、とはいかないだろうが体を休める事は出来るだろう。
夕飯にはマォ殿がシチューを作ってくれた。
シンプルな塩味だが肉のうまみも出て旨かった。
が、あっという間に無くなってしまいお代わりをしそびれてしまった。残念だ。
食後は交代でシャワーを浴びた。
まさか森の中の野営地でシャワーを浴びるとは思わなかった。
「こんな感じかなぁと想像したら出来ちゃったんだよねぇ」
さすがマォ殿である。
お陰で体がサッパリとした。
夜間は交代で眠る事にした。
大丈夫ではあろうが、万が一の為である。
最初はマォ殿とコレットに頼む事にした。
女性陣にはゆっくりと眠って貰いたかったからだ。
次はアルノーが1人で引き受けると言った。
私とダルクは今まで内勤だった事もありゆっくり体を休めてくれと言ってくれたのだ。
その心遣いに感謝し、そうさせてもらう事にした。
アルノーならば護衛として夜勤もあったし、元ハンターなので安心できる。
マォ殿達に任せて横になれば、自然と瞼は落ちて行き深い眠りにつく。
『ウキョーホッホッホ、ホゲッコー』
聴こえた奇妙な鳴き声で飛び起きた。なんだなんだ何が起こった。
読んで下さりありがとうございます。