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宰相ルーク⑯

翌朝、私は早速行動に移す。

ダルクには申し訳ないがこの計画を話すわけにはいかない。

だがさすがに陛下に何も言わない訳にもいかず、アルノーと2人で政務室に来ている訳だが。


眉間に皺をよせ考えを纏めながらチラチラこちらを伺ってくる陛下。

対する私とアルノーは深く溜息をつく。


「やはり」「無理ですよ」

「ぐっ、どうし」「無理でしょうね」

「ならばせ」「却下」

「くっ、せめて最後まで言わせろ!」「嫌です」


こうなると思ってはいたので人払いがしてあって良かったと思う。




「マォ殿はこの状況での生活が精神的に限界を迎えたようです。

 【元の世界に戻すか、城と言う名の檻から解放するか選べ。

  儂いい加減ぶちキレて暴れるぞ】だそうですよ」


マォ殿からの伝言を伝えるとエルフィンは崩れ落ちた。

それはもう見事に椅子から崩れ落ちた。

エルフィンにとって城が檻だという考えは浮かばなかったのだろう。

古狸共はうるさいが生まれ育った場所でもあるしな。

エルフィンに古狸共が獣人や騎獣に対してアレコレとふざけた事を上奏してきた事を伝える。


「そのような報告私には上がってきておらんぞ」

「おかしいですね、私からこちらに上げていたはずですが。

 それにマォ殿に余計な護衛を増やして付けたのも陛下の指示でしょう」

「む、そうだったかな。ああ古狸が五月蝿く何か言っておったあれか。

 護衛を増やすのはマォ殿の安全の為にと思ったがマズかったか」

「「・・・」」

「エルフィン、最初の頃を思い出せ。マォ殿は過剰な護衛など好まなかっただろう」

「言われれば確かに。だがあの頃と今では状況が」

「何も変わっておらぬよ。

 エルフィン、お前古狸共が五月蝿いからと楽な方に流されておらぬか?」

「そのような事は・・・」

「ないと断言できるか?

 お前が民の事を考え激務に追われているのは理解している。

 だからといってマォ殿の事をおざなりにしてよい訳ではないんだ。」


エルフィンは黙り込んでうなだれてしまった。

確かに古狸が居る限りは今の体制を変えようにも無理だろう。

法案を変えるにしろ、官職や騎士の資格条件を変えるにしろ国王の一存で、宰相の采配でとはいかぬ。

会議を起こすにしても必ず古狸共がはびこっているのだ。

そんな中でも少しづつとはいえ改革が進んだのはエルフィンの頑張りの成果でもあるのだが。


「マォ殿の言う事も一理ある。

 私も人の事は言えぬが

 あの古狸共も一度ダンジョンやモンスター討伐を経験してみればよいのだ。

 ・・・

 無理だろうなぁ」

「無理でしょうねぇ。あれこれ言い訳してやらないでしょうねぇ」

「ならばなんとか城に留まり改革に手を貸してもらう事はできないであろうか

 マォ殿の考えや知恵は貴重だと思うのだが。」


この一言で私はキレた。


「マォ殿にこれ以上ここに留まれと?

 これ以上自由を奪い軟禁生活を強いて国の為に手を貸せと?

 彼女にそんな義務も義理もありませんし、させたくもありませんよ我々は。

 お忘れですか、彼女はただの被害者なんですよ。

 彼女は家族も友人も人生のすべてを奪われて此処に連れて来られているのです。

 もっとも私もつい忘れそうになってしまいましたが」


いくらマォ殿が気にしてないと言ってもそんなハズが在る訳ない。

家族や友人、これまでの生活。自分が築き上げた物すべてを失っているのだ。

明るい笑顔に見とれてその下に隠された悲しみや苦しみ。

なぜ気付いてあげられなかったのか、もっと寄り添うべきだったのではないか。

今更後悔しても過去に戻れる訳ではないので、二度と後悔せぬようマォ殿と向き合うと決めたのだ。

きっとこれからもマォ殿には苦難が降りかかる。

その時傍に居て真っ先に手を差し伸べたいと思ったのだ。

誰よりも近くでマォ殿の笑顔を守りたいと・・・


「すまない・・・

 わかった、古参貴族達に口も手も出させはしない。

 だが此の事が他には漏れ伝わらぬよう細心の注意が必要だな」


例え妃殿下であろうと王太子殿下であろうと決して話さぬようにと言い聞かせた。

あの2人が周囲に話すとは思わないが、どこで誰が聞き耳を立てているか解らない。

こうして陛下の許可をもぎ取り出立日を聞かれたので答えた。

「やはり」「無理ですよ」

「ぐっ、どうし」「無理でしょうね」

「ならばせ」「却下」

「くっ、せめて最後まで言わせろ!」「嫌です」

結果冒頭のこの会話が延々と続いたのである。


「1日では王位継承が終わる訳なかろう!」


エルフィンが壊れた。


「何を言い出すんですかねこの陛下は!

 そんな事無理に決まっているでしょうが!」

「どうせお前達も付いていくのだろう?俺だって付いて行きたい!!」

「「 いや無理だろ! あんた国王だろ!! 」」

「好きで王家に産まれた訳ではない!」

「子供みたいな屁理屈言ってるんじゃない!

 今アンタが退位して王太子殿下に同じ苦労を背負わせるきか!」

「ぐぅっ・・・」

「今からでも準備を始めればよいだろう」


この際不敬だのなんだのは知った事ではない。子供じゃあるまいし。

ついアルノーと素で突っ込んでしまった。


「解ったから愚痴くらいは聞いてくれ」


まぁ愚痴くらいならよかろう。


私とアルノーは疲れ切って政務室を後にした。

帰宅途中マォ殿にどう報告するかと悩んだが

「結論だけでよいのでは? 陛下の承諾得ましただけで」

アルノーの一言で、それもそうかと思った。

正直陛下の相手で疲れたし、古狸達のアレコレで面倒くさくなっているのだ。

さっさと抜け出したい、切実に。

読んで下さりありがとうございます。

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