宰相ルーク⑮
やっと筋肉痛も緩和され業務に戻って見れば
(ちっ、鬱陶しい)
ササミを処分しろだとかマォ殿の護衛を増やせだとか、自分が手厚く保護するから寄越せとか上奏書が山の様に積み上がっていた。
陛下も陛下で何を考えているのか、勝手にマォ殿の護衛を増やしていた。
この時点で私はもう嫌な予感しかしなかった。
ササミの件については不可抗力だと思うのだ。
誰がああなると予想出来るのだ、あれが予想できる特殊能力でも持って居る人物が居るのであれば是非ともこのクソめんどくさい宰相職になっていただきたい。さぞかし手腕を発揮してくれるのだろう。
古狸連中にしてもだ、ただ単に自分の要望をいい文句を言うだけなら誰でも出来るし楽なものだろう。
まずは自分の責務を果たして欲しいのだがな。
陛下も決して悪い人では無い。
が、王としてみるならば些か心もとない部分もある。
完璧な人間など居る訳が無いのは解っている。私とて完璧ではない。
だがな、古狸の相手が面倒だからと適当な対応をするのはいかがなものか。
陛下は気付いているのだろうか。
その対応がマォ殿の首を絞める事になっていると言う事を。
マォ殿は日に日に食欲が落ち覇気も無くなってきている。
もっとも常に監視の目があれば私とてそうなるだろう。
このままでは駄目だと言う事は解っているし心配でたまらない。
いっその事マォ殿を連れて逃げ出すか。
宰相職に執着している訳でもないしな。
「閣下、すべて声に出ていますが?」
「ぐへ・・・声に出ていたか」
「はい、出てましたね。早まったマネはしないでくださいね」
「あ、ああ」
「そもそも閣下、マォ殿には自分の気持ちを伝えているのですか?」
「私の気持ち?常に心配しているのと感謝しているのは伝えておるぞ」
「いえ、そうではなくて。
閣下、自分の気持ちに気付いて・・・ないですよねぇ」
「ん?」
「明らかにマォ殿に対して好意を寄せていますよね、閣下」
「当たり前だ。マォ殿の人柄に触れれば好意を持って当然だろう。
確かに口は悪いかもしれぬし少々気も短いかもしれぬが。
誰に対しても媚びる事もなく平等に接している。
料理も上手い。
何よりも気丈に振舞っているが、たまに見せる気弱な笑顔が庇護欲をそそる。
そして」
「はいはい、すとーっぷ。
よく見てますよね閣下。
私はノロケを聞きたい訳ではないんですがね」
「ノロケてはおらぬだろう」
「いえ、十分ノロケかと。
閣下そう言う気持ちを纏めて 恋 と言うんですよ?知ってます?」
「ほう、恋と言うのか。
恋?!」
ダルクにそう言われて、マォ殿に対する気持ちを思い返してみた。
確かにマォ殿が獣舎に住むと聞いた時近くで様子を見ていたいとか一緒に料理が食べたいとか思った。
トラウマで倒れた時は私が寄り添い温めてあげたかったとか、通信魔道具も指輪が良かったとか・・・
そうもっとも身近な存在が私であればいいのにと・・・
ボンッ プシュゥー
「うわっ閣下! 閣下ー!」
どうやら私はマォ殿に恋慕の情を持ち合わせていたらしいと自覚した瞬間、顔に熱が集まり意識が遠のいた。
とは言えすぐに正気を取り戻した。
「よし、このままではいかん。
まずはマォ殿に現状を伝えて今後の相談をしよう。
マォ殿の健康を取り戻さねば」
「そうですね、閣下の気持ちを伝えるのはその後にでも」
「ああ、そうだな」
返事をしてみたものの、伝える・・・
不肖ルーク・ウォーカー45歳。遅咲きの初恋だ。自分の気持ちを伝えるなど人生最大の難問である。
(マジかーーーーー!)
声に出して叫ばなかった自分を褒めたいと思う。
その夜、食後のお茶を飲みながら話を切り出した。
「一部の貴族がマォ殿を危険にさらしたとササミの処分を陛下に訴え出ている。
この際だから騎獣も不要なのではないか
モファームで良いのではとの声まで上がり始めている」
「なんだと?」
今まで聞いた事の無い低く重苦しいマォ殿の声。
今までのうっぷんもあったのだとは思う。
「あの誘拐犯である王子は寛大な処置を求めて
騎獣であるササミには厳しくしろと。
今まで共に戦って国を守って来た騎獣達も不要だと」
マォ殿の意見がもっともだと思う。私とてそう思うし腹も立っている。
「儂決めたわ。要らねぇつーなら騎獣連れてここ出て行くわ」
ここまでは想定内だ。
「ここを出てどうするつもりだ」
大事なのはここからだ。
「人間その気になりゃどうとでもなるさ。
それにどうする気かなんて言う気もない。探されても連れ戻されても嫌だ。
生きた屍の如く覇気のない生活とか儂らしくもない。
そうだよ、なんで我慢してんだよ儂。儂もっと自由に生きていいはずじゃね?」
「俺はおかんに付いて行く。駄目だとか言うなよ、俺達は親子なんだからな」
確かにその気になればなんとでもあるだろう。しかも異世界から来たマォ殿が現になんとかなっている、自由もこれから取り戻せばよい。しばらくの生活資金ならアルノーと私の貯蓄でなんとかなる。
など考えていたらマォ殿とアルノーの2人で話が進んでいた。
「まてまて、お前等少し落ち着け。俺の立場もあるんだ」
「ルークは宰相だしなぁ。よし、今の話は忘れろ聞かなかった事にしろ」
「できるかぁーっ!」
「えー・・・」
「えー、じゃない。3日。3日待て。
3日じゃなくてもいい、2日でなんとかする、してみせる」
「なんとかするって何を?」
「重要案件だけ適当に片づけて引き継いでくる」
「「ん?」」
「俺も付いて行く!」
置いて行かれてたまるかと私は焦ってしまい、つい「俺」になってしまった。
「あの時どれほど心配したと思うのだ、俺だけ置いて行かれるのはもう嫌だ。
気が付いたんだよ。
マォ殿が好きだと思うこの気持ちは人として好きなのだと思っていた。
だがどうやら違ったらしい。
マォ、この先共に居させてくれぬか」
勢いで言ってしまった・・・
「ルーク、落ち着け? な? 冷静に考えろ」
「俺は冷静だぞ。俺とてそろそろ城務めを辞めてもいい年齢なんだ。
余生を好きにしてなにが悪い」
いや心臓がバグバグと早打ちしているので冷静ではないかもしれぬが。
「別に伴侶にしてくれとは言わぬ。ただ一緒に暮らしたい。
傍に居たいのだが駄目だろうか」
この後もマォ殿の了承を取り付けるまで頑張って説得をして頼み込んだ。途中でアルノーが助け船を出してくれなんとか了承を取り付けた。
よし、2日の間にさっさと片付けてやる。
まずは弟に連絡だな。宰相を押し付けてやる(ニヤリ)
読んで下さりありがとうございます。