宰相ルーク⑭
2時間ほどの仮眠を取って捜索を再開する。
夜間は危険なのではとの声もあったが、その危険な状況下にマォ殿は居るのだ。
確かにアルノーは辺境のハンターであった経験があるのでこの様な状況にも慣れているだろう。
だがアルノー1人でしかないのだ。複数の敵に襲われでもしたら何処まで対応できるか不安ではある。
いくらアルノーが付いていてマォ殿も強いとは言え危険な事に変わりは無い。
「招き人は人ならざる力を持って居ると聞きますし、大丈夫なのでは」
「おまっ、ばか!」
1人の騎士の発言を隣の騎士が静止しようとしたが遅い。
今なんと言った?
「招き人様は人外、ですか。そうですかそうですか。
ならば捜索など無用だと言いたい訳ですね、貴方方は。
無駄なお時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。
このまま帰還していただいて結構ですよ。
そちらの騎士団長には私の方から報告しておきますので。
どうぞ、速やかに御帰還ください」
「宰相閣下・・・」
止めようとした騎士がすがるようにこちらを見るが知った事ではない。
やる気がないのならば足手まといになるだけである。
「ささ、ご遠慮なさらずにどうぞ。
カカオ、我々は参りましょうか。
遠慮はいりません、思う存分好きなように全力で捜索なさい」にっこり
「親父殿、カカオの全力はマズイ」
リオルが何か言っているが今の私は怒っているのだ。
多少の無茶くらいどうと言う事は無い、マォ殿に何かあったらどうするのだ。
こうまで言われても意気揚々と帰還していく騎士と、それでもと付いて来る騎士とに別れた。
帰還を選んだ騎士達にはそれ相応の対応をさせてもらうとして。
今はマォ殿の事が先だ。
そして全力のカカオは・・・ 凄かった。
木々を渡り歩くなんてものじゃない、糸を器用に使って飛んだ。
ふわり なんて可愛いものではない。騎獣といえど魔獣である。
それはもう、とても豪快に飛んだ。
内臓も脳も揺られて気持ちが悪い。うぇっぷ
確かに全力でとは言ったが・・・
「親父殿!見つけたらしい」
「本当か!」
ボスンと着地したカカオの前には・・・小さな、とは言え普通の鳥よりは大きいのだが。
「これは・・・コカト・・・バジリスクか」
「バジリスクにしては小さいような」
ゲシッ
蹴られた。バジリスクに。
カカオとバジリスクがスリスリ頭をすり合わせている。
体格差も伴って何とも言えぬ光景なのだが。
不意にカカオが私を咥えて
・・・
何故に咥える。しかも2回目。そして毎回何故に私なのだ。
「カカオ?」
ツットットットット カサカサカサカサッ
走り出すバジリスクの後をカカオが付いて走り出した。私を咥えたまま。
「うぉぉっ 揺れる揺れるカカオ揺れまくって目が回 ひぃえぇぇぇぇ」
「閣下ーーー!」「親父ーーー!」
と叫ぶ声が後方から聞こえた気がするが私としてはそれどころではない。
カカオに咥えられているせいで体が左右にプランプランと揺れて吐きそうである。
「カカオ、少し降ろしてくれないか。吐きそうだ」
行き成りピタッと止まるものだからガクンと揺れた。
バジリスクがじっと私を見つめている。どうしたのだろうか。
クゥオォークゥオォー、クォケッキョーキョー
なんだなんだ、行き成り。驚いたではないか。
その時目の前の茂みがガサガサと揺れて私は再び驚いてしまった。
「閣下?」
現れたのはアルノーだった。
どうやらこの先にマォ殿が待機しているらしい、ならば通信魔道具も使えるだろう。
「マォ殿!聞こえるか」「へぇっくしょいっ」
「・・・・」
私が声を掛けるのと同時にクシャミが聞こえた。どうやら間が悪かったらしい。
「風邪か?」
「すまん、ちょっとササミの羽が へっくしょい」
まぁ無事でよかったと言う事で・・・
マォ殿の居る場所へ向かいながらアルノーが説明してくれた。
朝食代わりのベリーを食べていたらかすかに人の声が聞こえたのだと。
恐らくそれは私の悲鳴とリオルとダルクの叫び声だろうな・・・
もっとも悲鳴だったなどと言えないのだが。
話している内にリオルとダルクもなんとか追い付き無事マォ殿と合流出来た。
「おかん!」
「「「マォ殿!」」」
「キュイ~~~」
駆け寄ろうとした私を飛び越えてカカオがマォ殿に抱き着いた。
抱き着いたというよりも、捕食されているようにしか見えないのだが・・・
「ぐぇぇ おもっ ぐるぢぃ」
カカオも加減はしているはずだと思いたい・・・
「マォ殿が戻ってこなくて
捜索隊を組んでいる最中にカカオが親父殿を咥えて走り出すもんだから
我々も大慌てだったんですよ」
「まったく閣下も閣下です。カカオを諫めるどころかそのまま突っ走るんですから」
「そう言うならダルク、お前も咥えられてみればいい。
ブラブラと揺られて頭と目が回って吐き気がするのだぞ!
そのような状態で諫めるなど出来るかぁぁぁぁ!」
「「「 ・・・ 」」」
「それにしてもここは何処ですか。よく此処に居ると解りましたね」
アルノーがしれっと話をすり替えた。
「小さなバジリスクと途中で遭遇してな。カカオが気が付いてくれたんだよ。
ササミの匂いがしたんだろう、攻撃するそぶりもなかった。
バジリスクも付いて来いというようにこちらを振り返りながら移動していて
後を付いて行ってみれば狼煙が見えた」
「ふっ、閣下はまた咥えられて連れ去られたんですけどね~」
「おのれダルク。私に何か恨みでも・・・ありそうだな」
「ええ、時々行方不明になったと思ったらマォ殿の フガフガフガッ」
「余計な事は言わなくてもよい」
ダルクがいらぬ事を口走りそうになったので手でふさいだ。
「そのバジリスクは?」
「あー・・・それがだな」
そう、バジリスクは・・・
『 ンギャークルルル クルッポーゥ 』
奇妙な雄叫びを上げ踊りながら移動しているのだ・・・
その為到着が遅れていたりする。
マォ殿に『変な間を空けるんじゃない』と怒られた。
その後休憩を取り城へと戻った。
戻り道は再び山の中の道なき道を駆け抜けたのだが、さすがに水中は無かった。
きっとマォ殿が居たからだろうが、それならば普通に街道を通って欲しかった。
戻って来てから私とダルクは2日間寝込んだ。理由は筋肉痛。
わざわざ陛下がその様子を見に来て大笑いしながら戻って行った。
大笑いして帰るとか何をしに来たんだ陛下は。暇人か!
なおマォ殿は翌日には疲れも取れて元気だったそうだ。
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