宰相ルーク①
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『おかんは今日も叫んでいる』のスピンオフとなります。
セリフなど『おかんは今日も叫んでる』と重複する部分があります。
お暇潰しに、楽しんでいただければ幸いです。
「げ!無表情男!」
初対面でのマォの第一声がこれだった。
今思えば何という出会いなのかと思う。
当時の私は旧ウォール国で宰相を務めていた。
日頃から仕事は山積みで忙しい日々を送っていた。
けして私や国王が無能なのではない、古狸連中が無能過ぎるのだ。
頼むからこれ以上無理難題を押し付けて仕事を増やしてくれるなと思う私の美しい銀髪は1本、また1本とお散歩に出掛けたまま帰ってこない。
このまま頭頂部が閑散としたらどうしてくれようか。
「閣下、本日はこの後に急ぎの物はございません。
たまには早めに切り上げて休まれてはいかがでしょうか?」
宰相補佐官であるダルクにそう声を掛けられた。
確かに此の所まともな休みを取っていない気もするし、急ぎの案件も会議も無い。
なるほど、これは良い機会かもしれぬ、久々に息子の所にでも行ってみようか。
そう考えながらダルクが煎れてくれた茶に手を伸ばす。
「補佐官殿ー!閣下ーーー!! 大変です!
第二王子が禁術で招き人様を悪態で刺されました!!」
ぶふぉっと茶を噴出したが何を言っているのか把握しきれない。
ただまたあの第二王子がやらかしたのは理解した。
「落ち着いて解るようにゆっくりと説明してくれないか。
ダルク、彼にも お茶を」
「畏まりました」
彼が落ち着いたところで改めて話を聞けば・・・
まず第二王子が禁書を持ち出し召喚を行った。
禁書は禁書庫に収められており王子であろうが王妃であろうが国王の許可なく入室は出来ないはずである。となれば警備の者は何をしていたのか、調べる必要がある。
次にどういう訳か時を同じくして第二王子が暗殺者に襲われた。
だが招き人が具現した瞬間と同時だった為に王子は無事だが招き人が刺された。
そして刺された重症の招き人に向かい自分の想像とは違うと罵倒した。
何をしているんだ・・・。警備の者も警護の者も何をしていたのか。やすやすと暗殺者を近づけるとは本来あってはならない事だ。騎士団長とも相談せねばなるまいな。
そして王子殿下の側近は何をしているのだ。諫めるなり力ずくでも止めねば側近の意味がないであろう。
暗殺者が現れた場合は自分の身を挺してでも守るべきだろう。側近の意味を理解しておるのか。
そもそも教育係はどうした。禁書が何故に禁書たるかを教えなかったのか。ここも調べなければなるまいな。
それよりも自分の身代わりとなった相手に対して治療を施すでもなく罵倒・・・
私は頭痛がしてきてこめかみを押える。
「陛下への報告は」
「すでに上がっております」
陛下は即座に謝罪と見舞いに訪れたいという。
王子の側近の中には確か甥も居た気がする。
私も行った方がよいだろうかとも思ったがまずは招き人の処遇を考えねばなるまい。
何と言う事だ、せっかくゆっくりしようと思ったのに。
私の自慢の銀髪が集団でピクニックに出掛けてしまいそうだ。そうなったら陛下になんとかしてもらうか。いや陛下の頭頂部も大丈夫であろうか。
冷めきったお茶を飲みほし、王の元に足を運ぶ。
甥が関わっているとなれば自然と足取りも重くなってくる。
「陛下、此度の件ですが今度ばかりは第二王子殿下に厳しく処罰をお願いします」
「ああ、解かっておる。
若さゆえの暴走でいつかは落ち着くかと期待した私が愚かであった。
まさか異世界の方を巻き込んでしまうとは。
私はこれより招き人殿を見舞ってくる」
「陛下が直々にですか?」
「そうだ、これは王としてというよりは親としてだな」
「しかし」
「長居はせぬ故、これくらいの我儘は通させてくれ」
そう言われてしまえば引き止める事もできなくなる。
陛下の気苦労は痛いほどによく解る。
何故なら同じように頭頂部の毛髪達が散歩に出かけているから。
しかも私よりも少しばかり面積が・・・んっ、んんっ。
そうして見舞にと出かけて行った陛下だが中々戻って来ないのでダルクと様子を見に行く事にした。
陛下には申し訳ないが早急に考えなければならない事があるのだ。
教えられた部屋の前に来た時、怒鳴り声が聞こえ私の体がビクリと飛び上がった。たぶん5㎝くらい。
「っざけんじゃねぇぞこのクソガキがぁぁぁぁ!
拉致っといて老婆だから捨て置けとかマジありえねぇ!
そもそもが儂まだ老婆言われるほど年喰ってねぇわぁぁぁ!
なんか用があって呼んだんじゃねぇのか、あぁん?
それともあれか、嫁でも呼んだのかっつーの、くそがぁぁぁぁぁ!
召喚術ってそない誰でもがほいほい使えるもんじゃねぇんじゃねぇの?
誰か止めろよ、無理なら陛下に報告でもしろよ!
暗殺者が紛れてたって護衛は?警備は?どうなってんだよ!
しかもなんで儂が身代わりになっとんじゃい、訳わからーん!
クソガキ王子も護衛も警備も全員再教育した方がいいんじゃね?
もっとも儂がそんな心配する必要もないんじゃけど!
さっさと怪我治して元の世界に帰しやがれぇぇぇぇ!!」
少々、嫌かなり口は悪いが言ってる事はごもっともな事だと思う。
そしてかなりご立腹な様子だ。私が逆の立場だったとしても怒り心頭であろう。
「閣下、陛下と招き人様はお取込み中の御様子。
我々は大人しく政務室で待つ方がよろしいかと」
確かに、今ここで私が入室して場の流れを中断するのはよろしくない気がする。
最初が肝心とも言うし、ここはお二人で気の済むまで対話していただくか。
心の中で陛下にエールを送りそっと踵を返した。
部屋に戻って招き人の今後の処遇や王子への処遇も考えねばならぬ。
また息子の所にも騎獣達の所にも行けないではないか。
(私の休日と自慢の艶々な銀髪を返して欲しいものだ。
陛下もにいい加減ガツンと王子に言って欲しい物だ。
我が弟にしても側近の心得くらい叩きこんでおいて欲しい)
「ぬぉぉぉぉ、サブレを撫でまわしたぁぁぁぁい!」
「閣下。心の声、願望が駄々洩れにございます」
「あ・・・」
コホンッ、私としたことが。
幸い執務室にはダルクしか居ないので良しとしよう。
ダルクとは公爵時代からの付き合いなので気心もしれているし何より信頼できる相手だ。
多少素が出ても問題はない。はずだ。
生真面目なはずのルークがマォに感化されて行く様子を楽しく笑っていただければと思います。
目に留めて頂きありがとうございます。