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(──オスカー様、また大きくなっているわ)


 花束を持って屋敷を訊ねてきたオスカーを目にして、マリーンは目をぱちくりとさせる。

 オスカーは会うたびに成長している。蛹から蝶になんて比喩があるが、その比喩どおりの劇的な成長だ。

 背は見上げるほどに大きくなったし、細身だった体にはしっかりとした筋肉がついた。顔立ちも、少年の愛らしいものから青年の面差しに変化しつつある。それも絶世と言っても過言ではない美青年のものに……だ。

 これでまだ、成長途中の十四歳だというのが恐ろしい。

 成人する頃には傾国の美青年になっているのではないだろうか。そんなことをマリーンは思う。


「オスカー様。また背が伸びましたか?」

「ああ。伸びた!」


 挨拶も忘れてマリーンが訊ねれば、オスカーは明るく笑ってそう返す。その笑顔と屈託ない様子は、出会った頃から変わらないものだ。


(大きくなっても……やっぱり怖くない)


 以前オスカーに『大丈夫』と言ったものの、少しだけ不安だったのだ。

 成長したオスカーに、ほかの男性に感じるような拒絶を覚えたらどうしようと。そして、柔らかな彼の心を傷つけたらどうしようと。

 幸いなことにそのようなことにはなっておらず、マリーンはほっと胸を撫で下ろした。


「アルレットはどうしているんだ?」


 マリーンの側にアルレットがいないことに気づいて、オスカーは首を傾げる。


「今は、ジャクリーンとお昼寝をしています」

「そうか。では少しだけ……俺とデートしてもらえないだろうか?」


 オスカーはマリーンの手を取り、甲にそっと口づける。そして、金色の瞳でじっとマリーンを見つめた。

 昔は正面から向けられていた視線は、今では頭の上の位置からになっている。

 そう。オスカーの背丈は、マリーンより頭ひとつぶんほど高くなっていたのだ。


「えっと、その」


 絶世の美貌でじっと見つめられると、落ち着かない心地になってしまう。

 マリーンは目を泳がせながら、なんと答えようかと思案した。


「街へ行こうなどとは思っていない。少しこのあたりの散策を一緒にしてほしいんだ。……ダメかな?」


 オスカーはそう言うと、乞うようにマリーンに視線を送る。

 今まで、オスカーとマリーンは屋敷の部屋や庭だけで過ごしていた。

 それは、オスカーがマリーンが人目につくところに行くのを嫌がっていることを理解しているからだ。


(オスカー様は……どこかで私の離縁の経緯を知ったのでしょうね。それで、気を遣ってくださっているのだわ)


 オスカーの行動をマリーンはそう解釈していたし、それは正しい解釈だった。

 十も年下の彼に気を遣わせてしまっていることが、情けなく感じてしまう


「……愛しい人とデートがしてみたいと、欲が出てしまったんだ。無理なら断ってくれていい」

「まぁ」


 オスカーの言葉は、本当に真っ直ぐだ。そして、優しさに満ちている。


「マリーン様。私とジャクリーンでアルレット様のお世話は問題なくできますよ」


 そんなサンからの一押しもあり、マリーンはオスカーの誘いを受けることにしたのだった。

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