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19(オスカー視点)

 オスカーがマリーンのもとを訪れるようになってから、二年が過ぎようとしていた。

 オスカーは十四歳になり、マリーンと出会った頃よりも『獅子』らしくなった。

 背は伸びて体には頑強な筋肉がつき、大人と間違われることも増えた。もともとはっきりとした顔立ちだったが、それをさらに強調するように顔の彫りの深みが増した。

 世間からの評価は『美少年』から『美丈夫』というものに変化していき、それに比例して──以前からうるさかった令嬢たちがさらにうるさくなった。

 獣人の令嬢たちにまとわりつかれることほど鬱陶しく無意味なことはないとオスカーは思う。

 番に出会っていない今は否定するだろうが、彼女たちは番と出会った瞬間にオスカーへの気持ちなど忘れてしまう。令嬢たちがオスカーに向けているのは、『仮初め』の気持ちなのだ。

 番と出会い一瞬にして惹かれてしまったオスカーだからこそ、それが確信できる。

 とはいえ、人生で番に出会えない可能性は当然ある。令嬢たちがよき婚姻相手を見つけることに必死になる気持ちも、受け入れることはできないが理解できなくはないのだ。

『番がいる』と断っても、彼女たちはその言葉を自身の気持ちを断る建前だと思って引かない。

 それは、オスカーが自分の番がマリーンであることを世間に公言していないからだった。

 獣人は番を見つけると、番べったりになる。常に番を側に置き、四六時中離さない。しかしオスカーは番を側に置いていない……どころかそれがどこの誰かも公言していないのだ。

 だから皆が『番がいる』を方便と思うのも当然のことではあった。

 すぐにでも『マリーンが俺の番なのだ』と叫び出したいオスカーだったが、そういうわけにもいかない。

 ──マリーンは、未だに消えない世間の噂に晒されて苦しんでいるのだ。

 そんなマリーンに『十も年下の獣人に言い寄られている女』というさらに世間の興味を引く噂を加えてしまうことを、オスカーは絶対に避けたかった。

 

 *


 オスカーはペンバートン公爵家の屋敷の自室で、マリーンのところに顔を出しに行く準備をしていた。その時、部屋の扉がノックされコリンがひょいと顔を出した。

「オスカー坊っちゃん、お耳に入れたいことが」

 返事をする前に扉を開けるな、許可をする前に話をはじめるな──など言いたいことはいろいろある。

 しかし、一番言いたいことは……。

「……コリン。僕はもう十四歳だ。坊っちゃんはやめろ」

 見目も大人に近づき、『坊っちゃん』という響きに外見がそぐわなくなってきている。にも拘わらず、コリンはオスカーを『坊っちゃん』と呼び続ける。オスカーはそれが不満だった。

「そう言われても、坊っちゃんは坊っちゃんですからねぇ」

 コリンはそう言いながらへらりと笑う。八つ年上のコリンは、オスカーのようを子ども扱いしている──というよりも弟のように思っている節がある。それが嬉しくないわけではないが、そろそろ大人のように扱ってほしいものだとオスカーは拗ねた気持ちになるのだ。

「まぁいい。話せ」

 ふっと息を吐いてから、オスカーは話の先を促す。

 するとコリンは、その表情を引き締めた。

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