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13(オスカー視点)

 街から職人を呼んだところ、壊れた玄関扉の修理には数日は要するとのことだった。

 職人が言うには扉を取り替えるだけなら突貫工事で一日で終わったそうなのだが、コリンの馬鹿力によって木枠まで歪んでしまっていたのだ。

 そして扉の修理が終わるまでの間、オスカーとコリンはマリーンの屋敷に滞在することになった。


(マリーン嬢の側に、まだいられるのは嬉しいが。本当に、この男は)


 応接間の長椅子にどかりと腰を下ろして呑気な顔であくびをしているコリンを横目に睨みながら、オスカーはため息をついた。

 コリンはオスカーの従者であり、長くの間ペンバートン公爵家に仕える騎士だ。騎士としての腕前はたしかで人もよいのだが、せっかちで早とちりが多く、今回のような失態を演じるのも稀な出来事ではない。


「扉の修繕が終わるまで、お前は扉の前で寝ずの番をしろ」

「坊っちゃん!?」


 寝ずの番を命じれば、コリンは尻尾をピンと立てて悲痛な声を上げた。


「当然のことだろう、大事な番の家に賊などが入ったら困る」

「ですけど、寝ないと死んでしまいますよ」

「知らん」


 隣から「きゅーん」と哀れを誘う鳴き声がした気がしたが、オスカーはそれを無視した。


(……賊が入ったとしても、マリーン嬢を守り切る自信はあるが)


 こんな見目であっても、オスカーは身体能力に優れた獅子である。賊が何人侵入してこようと、それに負けるつもりはない。


「このあたりにはあまり人が来ませんし、大丈夫ですよ」


 オスカーたちの会話を聞いていたマリーンが、くすくすと笑う。愛する番の愛らしい笑みに、オスカーはついつい見惚れてしまった。


「お茶の用意をしてきますね」

「やや、ありがとうございます!」


 オスカーが「大丈夫だ」と言う前に、コリンがばふばふと尻尾を振りながら答えてしまう。「この男は」と胸の内で悪態をつきながら、オスカーはマリーンの後ろ姿を見送った。

 マリーンやほかの人間の気配を完全に感じられなくなってから、オスカーは口を開いた。


「……コリン、頼みがある」

「なんです、坊っちゃん」


 コリンは黒の瞳を瞬きさせながら、オスカーの次の言葉を待った。


「彼女の前夫のことを、調べてほしい」


 わずかに間を置いてから、オスカーはそう告げる。それを聞いたコリンは大きな耳をぴるぴると揺らした。


「はぁ、それはお安い御用ですけれど。前の夫のことなんて、気にしなくてもいいでしょうに。番の過去を気にするなんて、坊っちゃんらしくないですよ」


 実際には、番の過去を気にする獣人は多いのだが。コリンは、『過去を詮索するなんて、マリーンへの配慮がないのではないか』と言いたいのだろう。


「ふつうの離縁なら、俺だって調べたりはしない」


 ……たぶん、おそらく。調べないはずだ。

 そんな言葉をオスカーはこっそりと心にしまった。


「ふつうじゃない離縁なのですか」

「……そうだ」


『私の場合は、結婚はもうこりごりだと思っているので困りますね』

 マリーンがそう言ったことを思い返す。

 番を傷つけ、孕ませたのにも関わらず捨てた男が……この世にいるのだ。その男がマリーンを捨てなければ、オスカーとマリーンが出会うことはなかったのだろうが。それに感謝をする気は一切湧かなかった。

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