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第8話:1週間のガマン

「まぁ、待て。ジュウ、冷静になれ」


 俺はこのとき嫁を殺す勢いだったが、マコトは俺のことを止めた。ガッチリ羽交い締めにされて止められた。


 これではまだ証拠として弱いと言うのだ。


「メールもあるし、写真や動画もある。これ以上の証拠はないだろう!」


 マコトは公園の花壇の縁石に腰かけ、眉間を揉みながら落ち着いた感じで答えた。


「たしかに、早弥香さんの痴態画像に動画って言えるな」

「じゃあ!」


 まあ待て、とマコトは手のひらをこちらに向けた。


「このチンコは誰のものだ!? 俺達は普段チンコを出して歩いていない。これだけじゃ相手を特定できない」

「そりゃそうかもしれないけど、嫁を問い詰めれば!」


 そこまで言って俺は気づいた。俺が問い詰めたくらいでは嫁は絶対に口を割らない。それくらい気が強い女なのだ。それは俺が一番知っているはずだった。


 たしかに、嫁の生活環境の周囲にいる男達全員にチンコを見せろと言って回ったら、俺の方が逮捕されるだろう。しかも、俺にホモ疑惑が浮上するかもしれない。


 これはいかん。


「俺が早弥香さんの行動を追跡して浮気の確固たる証拠を掴んでやる。そして、相手の男も突き止めてやる」


 これほど頼もしいと思ったことはなかった。


「もちろん、休みの日は俺も行く!」

「まあ、気持ちは分かるが、俺に任せろ。ジュウでは早弥香さんがホテルに入って行ったのを見ただけでそこに突撃していきそうだ」


 たしかに、その通り。俺も自分の行動が想像できる。


「すまん、よろしく頼む……」


 マコトにお願いするのが最善だと考えた。


「証拠は集める。だけど、一番大事なのはジュウの気持ちだ。お前は今後どうしたい? 早弥香さんとの復縁か? それとも離婚して復讐か? それによって俺も行動を決める必要がある」

「……離婚する。そして、嫁も間男も徹底的に潰す。完膚なきまでに潰す。二度と表を歩けないようにしてやりたい!」


 俺は今の気持ちを包み隠さず言った。花壇の縁石に座ったマコトの前で俺はうなだれて泣きながら言った。心の中にある本当の気持ちを。


「……分かった。1週間待ってくれ。その間、極力今の生活を続けてくれ」

「……1週間? ……分かった」


 なぜ1週間なのか? そんなことは分からない。何をするかも分からない。でも、俺はマコトに全てを任せた。


 俺も一緒に尾行することだってできたはず。だけど、俺はマコトに任せることにしたんだ。



 ○●○


 その日の夜、嫁は珍しく家にいた。


「おかえりー、夕飯できてるよ?」


 耳を疑った。嫁が夕飯を作ったのはいつ以来だろうか。それどころか、最近では同じ家にいながら、ほとんど会話もしてなかったのに。


 もしかしたら、鷺谷果倫さんが嫁に連絡をしたのかもしれない。「旦那疑ってるよ。ヤバいから今日くらいは帰って夕飯でも作って点数稼いどきな」みたいな内容だろうか。


 リビングに行くとテーブルに餃子と味噌汁、ご飯って変なメニューが準備されていた。焦げて黒くなってる餃子……でも、これは冷凍食品の餃子だ。形で分かる。


 最近の冷凍餃子は焼くのは簡単で、冷たいフライパンに凍ったままの餃子を並べて、油も水もフタすらも不要で火をつけるだけ。それも中火にして5分程度で片面が焼ける。


 嫁の餃子はこれだけ焦げてるってことは、強火で1〜2分しか焼いてないってこと。中はやっと溶けたかどうかって段階。


 冷凍餃子は羽つきが多く、ただ焼くだけでパリパリの羽つき餃子になる。でも、これは羽とかない。ボロボロだ


 味噌汁は多分またダシがない。いつもそうだ。嫁は味噌を溶いたものが味噌汁だと思ってる。味とかどうでもいいんだ。なんとも思わないとか味覚障害かもしれない。めんどくさいのか、忘れてしまうのか、いつもダシを入れないんだ。もちろん、具もない。


 ご飯は……レンチンご飯をお茶碗によそったな。形が四角いままだ。


 これならパックのままでいいだろう。茶碗分洗い物が増えるだけだ。


「ほら、座って座って。あなたのために作ったの。温かいうちに食べよ♪」

「あ、ああ……」


 ホントは吐き気がして全く食べられなかった。でも、目の前のものは明らかにインスタントと冷食。嫁が作ったもんじゃないと自分に言い聞かせて食べた。


 もちろん、味なんかしない。こんなに進まない食事は人生で初めてだ。口に入れると吐き気がして、喉の先には進まないのだ。身体が食べ物として認識していないみたいだった。


 どこかの本で、嫁の浮気が分かったら失そうしたヤツがいたけど、今なら俺もその気持ちが分かる気がする。今日をなんとか切り抜けたら、きっと明日からはまた嫁と会う機会はほとんどないはず。


 マコトと約束した1週間を俺はなんとか切り抜けることだけに集中したのだった。


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