第7話:証拠は「雲」の中
マコトが嫁のiPhoneをポチポチやってる。俺には何もすることができないので、ただそれを眺めているだけだった。
「このメールアプリさ……」
「うん……」
マコトは作業に集中して、脳のリソースをほんの少しだけ俺との会話に使っている感じだった。マコトは常に画面を見ていて、操作しない方の手は時々親指の爪を噛んでいた。
俺はただマコトの方を見ていた。
「……ネットサービスの会社のもんで、メールはその一部なんだよ」
「うん……」
明らかにマコトのタップの指が速くなった。なにか気づいたようだ。横で見ていたら瞳が目まぐるしく動いている。こんなときはマコトが集中している時だ。凄い能力を発揮する。俺はひたすら黙って邪魔しないようにした。
多分、これが「物語」だったらマコトは主人公だな。だって、俺見てるだけだもん。
「あった! 写真!」
「マジか!? 見せてくれ」
「分かっ……いや、ちょい待て。ここじゃなんだから外に出よう」
マコトが変なことを言い始めた。嫁の浮気写真が見つかったんだ。今すぐ確認したい!
「まあ、いいから」
半ば強引に俺はファミレスの外に連れ出された。こればっかりは俺が正しいだろ!
○●○
マコトの説明はこうだった。今どきメール送受信アプリだけ出している会社はほとんどない……らしい。多分、googleとかYahoo!とかそんなことを言っているのだと俺は理解した。
だから、メールがあるのだから、画像フォルダもあるだろう、と。オンラインサービスとして。つまり、「クラウド」ってこと。簡単に言うと、ネット上のハードディスクみたいなもの?
嫁は病院での連絡事項はメールを使っているようだった。だから、今どきだけど「メールを使う文化」があるのだろう。
メールアプリを2つ使うことで、マイナーなヤツの中身を確認される可能性を低くできる。その上、開いた感じはぱっと見なんにもないので使ってないと思ってすぐに閉じる。
だけど、「下書き」トレイに入れることでメールの送受信はせずに、相手にメールを読ませることができるという。俺はここのカラクリが分からないでいたけど、どうも嫁と間男は1つのアカウントを共有しているらしい。嫁が自分のメールの「下書き」として書き込めば、間男が自分のメールとして「下書き」を見る。そんなところをチェックする人はほとんどいないので、どれだけやり取りしても見つかることはほとんどないだろう。
そして、このメールには画像や動画を添付しないルールにしているのだろう。そこには画像の1枚もなかった。
そこで、マコトが見つけてくれたのが「ネットワークドライブ」……「クラウド」ってやつだ。嫁が写真を撮ったものと間男が撮ったものがこちらも共有されている。しかも、オンラインに共有されたら、スマホ内の画像フォルダからその画像や動画が削除される仕様らしい。
つまり、撮った画像はスマホの中にはデータが無く、オンラインの画像フォルダの中に全部あるって訳だった。ここまでするか!?
○●○
「ありがとう」
「いや、ほら。ハンカチ」
「ありがと」
俺とマコトは近くの公園に来てから嫁のiPhoneを受け取った。そのオンラインの「クラウド」につないだのだ。そこには嫁の痴態と言っていい画像、動画がわんさか出てきた。
正常位は当然、定点撮影だったのか男の尻がバッチリ写ってた。しかも、結合部まで写ってる。
駅弁、騎乗位、バック……。「だいしゅきホールド」もある。洞入り本手、笠舟本手、唐草居茶臼……こいつら四十八手を全部制覇する気か!?
ああ……中出しして嫁の性器から白い液体が出ている「お釣り」画像もあった。
コスプレも仕事着と思われる看護服に始まり、メイド、セーラー服、ブレザー、バニーガール、巫女に初音ミク、レムにヨルにアーニャ……もう、なんでもある。俺は看護服だってプレイしたことないのに!
それが1枚1枚脱がされてヤられまくってる。脱ぎ掛けも多数。俺は猛烈な吐き気に襲われて胃の中のものを全部ぶちまけた。これがファミレスだったら損害賠償請求ものだった。マコトはそこまで考えて店から連れ出したのだろう。俺は素直に礼を言ったのだった。
現在の状況を俺は受け入れ切れていなかった。身体が受け付けていない。横隔膜が異常に痙攣して、吐くものなんて既にないのに吐き気が止まらない。内臓までも吐き出しそうなほどの吐き気。
口からは胃液、目から涙、鼻から鼻水。出るところから全部出てる。それでも俺は自分の感情が抑えられずに吠えるように泣いていた。
「うおーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」
相手の男の顔は写ってない。ヤツのナニは嫁の中にぶち込まれてる時と、嫁がしゃぶってる時だけ写っている。
それがまた悔しくて俺はどうしようもなかった。
そして、こんな状況なのに、俺のナニはギンギンに勃起していた。情けなくて、悔しくて……。
〇●〇
どれくらい泣いていただろう。どれくらい吐いただろう。俺は嫁にこの証拠を叩きつけて離婚することにした。なんなら嫁と間男を道連れに死んでもいい覚悟だった。