表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/29

第5話:2つのメールソフト

「もう一個メールソフト見つけた」


 マコトがなにを言っているのか分からなかった。嫁のiPhoneにはメールソフトが付いていた。それを見ると勤めている病院からの連絡事項とか、通販のダイレクトメールとか、コンビニが新しい商品を発売したお知らせとかしかなかった。


 一応、病院からの連絡事項の中身とかも見たけど、普通の連絡事項のみ。疑わしいところはなかった。連絡事項のみなので、あまり長い文章もなく、よくある「縦読み」による暗号であることなどもなく、「院内感染に特に注意してください」とか「インフルエンザの患者さんが増えているので注意してください」とかそんな感じのものだった。


「もう一個って?」

「メールソフトは、受信するメールを設定したら受信する。つまり、メールソフトAとメールソフトBに違うメアドを登録したら、それぞれに違うメールが届くんだよ。会社とプライベートみたいに使い分けることもできる」


 目から鱗だった。メールなんて1つだと思っていた。俺はマコトとの連絡はLINEだったし、いまさらメールってのに気が向いてすらいなかった。


「ん!?」

「どうした!? 浮気確定か!?」


 マコトの反応は思ったものと違った。


「ない。メールがない。送信も受信もどっちも1通もない」


 それは「そのメールソフトを使ってない」ということでは!? 俺はマコトが驚いていることに対して驚いていた。


「早弥香さんのiPhoneの画面って必要なアプリが並んでるんだよ。まとめ表示じゃなくて、必要なものをすぐ使えるように表示して……」


 言われてみれば、嫁のiPhoneの画面にはアプリがたくさん並んでいた。右にスワイプしたらそっちもアプリが並んでいる。つまり、トップページは「一軍」のアプリが並んでいるってこと。要するに、「よく使うアプリ」の一つらしい。


 履歴で確認しても、よく使う「ペイ」アプリはトップページ(一軍)、あまり使っていないアプリは次のページ(二軍)に配置してあった。


 じゃあ、この送受信メールが全くないメールアプリは使われているのか!? 改めて俺が開いてみても送受信が全くない。削除フォルダを見ても全くない。完全に削除してしまえば、削除フォルダにも残らないけど、毎回そんな面倒なことをするか?


「えーい、なんだこれ!」

「あ! そんな適当に押したら!」


 俺は頭に来てポチポチ押した。すぐにマコトに止められそうだったが……。


「「あ」」


 そこにはあるものが表示されていた。


「下書き」のエリアに大量のメールがあった。



『今日は楽しかったよ』

『幸せだった』

『もう今日また会いたい』

『さやの体が忘れられない』

『今日会えるね』

『もう濡れてる。すぐ会いたい』

『ぶち込んでやるからな』

『犯して。全部めちゃくちゃにして!』

『お前だけだ。嫁とはすぐに分かれる。お前と出会うために俺の人生はあった』

『私の全部はあなたのもの。旦那には指一本触れさせてない!』



 眩暈がするようなやり取りが大量に出てきた。


 俺はそのままトイレにダッシュでさっき食べた若鳥の唐揚げも、豚キムチ炒めも、揚げ出し豆腐も、枝豆も全部吐いてしまった。胃液が出るまで全部吐いた。胃液って透明のきれいな黄色だなぁなんて冷静に考えている自分がいた。


 便器に抱き付いてげーげー言ってる俺の横でマコトが水を持ってきてくれた。水があった方が吐きやすかったけど、全部吐いても止まらなかった。苦しかた。きつかった。それほど、俺は嫁が好きだったらしい。見知らぬ浮気相手のことを考えたら無意識に嘔吐えづきがとまらない。


 残念ながら各メールには画像は添付されていない。


 マコト曰く、不倫の証拠としてメールやラインなどの文字だけだったら弱いらしい。「冗談です」って一言言ったら真実味が薄れるのだとか。何としても画像が必要なのだという。


 裁判の上ではそうなのかもしれないが、俺にとってはメールの内容だけで十分ダメージがあった。なんか俺の結婚生活の全部、俺の人生の全部を否定されたみたいな感じすらする。


 俺はマコトに背中をさすられながら、「そんなことしなくていいんだよ」と思いながら、便器から離れられずゲーゲー吐いた。うまく吐けない時は水を飲んで喉に指を入れて吐いた。全部の固形物が出てしまって、黄色い胃液しか出なくてもとにかく俺は吐いて過ごした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ