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第22話:元嫁のジュリメと俺の命の洗濯

 実は離婚後毎日、鬼のように電話とLINEのメッセージが届く。嫁からだ。離婚届を出す前は拒絶すると会話を拒んだとか無視したDVだとか言い始める人がいるらしく「離婚が成立するまでは着信やLINEは拒否しないでください」って言われていた。


 それでも既に離婚は成立した。もういいよな、と思いつつも少し面白いので泳がせていたってのもある。


『全部目が覚めたの! あなたのおかげよ!』

『私は騙されていたの!』

『今 すぐ近くに来ているの。会いたい』

『いつもあなただと思っていた』

『あなたの愛に包まれた生活が恋しい』


 色々な言葉で多い時で1日に100通くらい届く時もある。これはストーカーなのでは!? 十分怖いのでこれからはブロックすることだけは伝えておこうと思った。


(ピロロ……)電話をかけるまでもなく、嫁から電話がかかってきた。俺は「通話ボタン」を押した。


「なあ」

「! よかった! やっと出てくれた! 電話の調子がおかしいみたいで何度鳴らしても全然つながらなくって!」


 おかしいのは電話じゃなくて、お前の頭だろ。どうして電話の故障を疑えるんだよ。どんだけ前向きなんだよ。どんだけ頭がお花畑なんだよ。


「もう電話してくるな。迷惑している。俺は俺の生活を始めるんだ」

『てっちゃんは1人じゃ絶対にダメになるから! 私がそばにいないと!』


「てっちゃん」とか結婚して始めて言われたわ! どの口が「私がそばにいないと」だ。保険をかけて殺す計画も立てていたやつが何を言うか。


「電話は着信拒否、LINEはブロックするから、もう連絡してくるなよ」

『そんな……(ブツ)』


 元嫁の言うことなど全部聞いてやる必要はない。復縁を求めるメールなどが来ると、実は俺が必要とされていたって実感できて自己顕示欲が満たされるから嫌いじゃなかったが、これ以上はもはや恐怖。


 ストーカーになられても困るので、明確に言ってブロックした。してやった。


 これで解決。もう元嫁とのいざこざも終わり。……そのはずだった。



 ○●○


(ドンドンドンドン)「てつくーん」


 その日の夜から元嫁が玄関ドアの外でドアを叩くようになった。もちろん、LINEも止まらない。


(ドンドンドンドン)「お夕飯を作らせてーーー!」


 とんだホラーだ。


(ガチャガチャガチャ)「開けてーーー! このドアを開けてーーー!」


 ドアのカギを替えておいてよかった。


(ガチャガチャガチャ)「私はあなたの奥さんなのよ! ここを開けて!」


 いや、もう離婚しただろ。外に元嫁がいる以上、外には出られない。残念なことに咲季ちゃんもいない。マコトもいない。完全に失敗したと思う。


 ただ、元嫁が家の前で1時間くらい騒いでいたのでマンションの他の住人が管理会社経由で警察に連絡してくれたと人がいたようだ。元嫁は警察にドナドナされて行った。


 俺はこれ幸いと外に出ることにした。いい加減買い物もしたいし、外食もしたい。離婚が成立して気持ちは大きく変わっていた。離婚前は紙1枚と思っていたけど、大きく違っていた。一度は鬱症状が出ていた俺も外に出たいと思わせるほどまでには回復できていた。


 ネカフェに行ってマンガを読み、ショッピングモールの中をうろうろして、スタバに行っておすすめのコーヒーを飲んで、ドライブして山の上の方の景色のいいところにも行った。


 1日に命の洗濯をして家に帰ってきた。車を駐車場に停めて買い物袋を両手に持ってマンションのエントランスに向かう途中のことだった。


 郵便ポストの影に人影を見つけた。元嫁だった。


「あんたが私の人生を壊したのよ! なんで妹なのよ! 私だって同じじゃない! 私もお菓子が良かった!」


 訳の分からないことを言いながら元嫁は俺にタックルしてきた。肩から身体全体でぶつかってきたような形だった。腹にチクリと痛みが走った。


 元嫁は後ずさった。手には果物ナイフを持っていた。その刃には血が付いている。


 俺はショックで持っていた買い物袋は地面に落としていた。足から力が抜けて地面に倒れ込むように膝から崩れ落ち、座り込んだ。


「哲也さん……? 哲也さん!」


 遠くで声が聞こえた。多分、咲季ちゃん。またうちに来てくれたのか……? ダメだ、危ない。逃げるんだ。人間ショックを受けた時は声が出ない。体も動かない。俺は地面に額をぶつけ倒れ込んでいた。


「咲季!? ……私は悪くない! 私は悪くない!」

「お姉ちゃん!」


 元嫁は走って逃げて行った。 「カチャーン」と刃物が地面に落ちる音が聞こえた。


「ジュウ!」


 こいつもいやがった。マコトだ。もしかしたら、咲季ちゃんと一緒に俺の様子を見に来てくれたのかもな。


「おい! お前救急車!」

「はい!」


 咲季ちゃんが表の通りの方に電話しながら走っていった。


「ジュウ! 傷を見せろ!」


 ダンゴムシのように丸まった俺はマコトによって横に転がされ、シャツの腹の部分を捲られた。


「は!? どういうことだ……?」


 マコトが驚くのも分かる。俺はマコトのアドバイスで腹にジャンプを入れていた。久しぶりに買ったジャンプにはジョジョもこち亀もなかったけど、俺の腹を守ってくれた。


 マンガやドラマみたいに完全に無傷って訳にはいかないけど、元嫁に果物ナイフで指されたけど、薄皮1枚切られただけだった。マコトに「出かける時は腹にジャンプ入れとけ」って言われていた。冗談だとは分かっていたけど、「ホントに入れて出かけた」って言うために買っただけだったのに。


 素人が刺しに来ると、真っすぐ突いて来ない。斜めになるからジャンプが逃げて少しだけ切られた。切られたんだけど、あるとないとでは全然結果が違った。


 俺は咲季ちゃんが呼んでくれた救急車で運ばれて大事にはならなかった。マコトと咲季ちゃんが大騒ぎしていた。病院には元義両親が飛んできてくれて、病室で土下座されていた。元嫁は姿を見せなかった。それどころか、その行方は義両親も分からないそうだ。


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