第21話:勝利の美酒
色々なことが片付いた。
まずは、嫁の浮気相手である「浮気男1号」には慰謝料500万円を請求し、汚されたマンション3630万円を買い取らせた。その後、住むのか、転売するのか、そこまでは知らん。どこでどんなふうにカネを工面したのか分からないが、弁護士経由で支払ってきた。だから、このマンションは来月までで出ていくことになった。
その後、浮気男1号は奥さんと大げんかの末、離婚。さらに、勤務先の病院にどこからか不倫の噂が流れていずらくなり退職。その後、どうなったのかは誰にも分からない。
ちなみに、浮気男1号の奥さんには連絡をして、浮気男1号が浮気していた情報をリークした。そしたら、情報量を払うので資料が欲しいと申し出があり、100万円渡されたので全額マコトに渡した。色々動いてくれていたし。奥さんにはうちの嫁との不倫の情報のほかに、複数愛人がいる旨の情報も全部渡したので、円滑に離婚ができた上、慰謝料もふんだくって行ったと聞いた。
「浮気男2号」は詐欺をしていたので、刑事事件の方が先に動いてしまうとこちらが慰謝料をもらう前に塀の中に行ってしまう。そしたら、出てくるまで話がほとんど進まない。本当は500万円請求したいところだったが、100万円だけ払わせた。
支払いが終わった直後になぜか警察が来て詐欺容疑で逮捕されて行った。なぜか、大量の資料が警察に持ち込まれていたので、浮気男2号が釈放されることはないだろう。その他の被害者2人の女性には、「浮気男2号」が塀の中から出てくるのを待ってもらって慰謝料を請求してもらうか、あのままでは騙されていることも気付くことが無かっただろうから、それから解放されたってことで納得してもらうしかないだろう。
「浮気男V3」以降がいるかもしれないが、それはもういい。必要ない。嫁のことはとことんまで見下げて、見限って、あきれ果てた。何があっても復縁はないのでこれ以上はどうでもいい。
ずっと折り合いの悪かった義両親とは誤解が解けたと思う。お中元、お歳暮はちゃんと送っていたのだけど、それは嫁が送ったと嘘をついていたらしい。お返しの品は食べ物が多かったらしく、嫁が1人で食べたり、浮気男と一緒に食べたりして俺にはその存在も知らされていなかった。
嫁は義実家に、俺の稼ぎが悪いので、生活費は嫁が出している、と嘘をついていたらしい。たしかに、俺は高給取りじゃないけど、マンションの支払いと光熱費、食費、その他交通費とか、義両親への仕送り、などなどこれらのことは全て俺の給料から支払われていた。義両親も嫁が言ったことを鵜呑みにしていたらしい。
俺が毎月送っていた5万円の仕送りも嫁が送っていたと思っていたらしい。高々5万円だが、毎月毎月送っていたので、それを当てにした生活をしていく。俺と嫁は離婚したので、当然仕送りも止めた。そしたら、義両親の生活がままらなくなってきたらしい。幸い義父は定年まであと10年以上あるので、支出を減らして収入を増やすことでなんとかなってくるかもしれない。
ちなみに、嫁の慰謝料はやっぱり義両親が立て替えたらしく、家こそなんとかなったけど、家の裏にあった田んぼは売ることになったらしい。気の毒な気はしたが、分割にしたら嫁は……いや、元嫁は確実に逃げる。多分、1回か2回しか払わないだろう。かなり自信がある。
そして、俺は有休を大量にもらったので、引っ越しまで家の中でダラダラしていた。やることはやった。もらうものはもらった。追い出すものは追い出した。
嫁に関してはまだまだ余罪があった。病院の勤務はいつの間にか正社員から日勤のみのパートタイムになってた。
後は、家に仕掛けておいたボイスレコーダーによると電話での声が入ってたんだけど、托卵計画があった。要するに浮気男1との子どもを俺の子どもとして育てさせる計画だった。ほかにも、俺に生命保険をかけていた。(ちなみに、カネの出所は俺)いつか殺されるかもしれなかった。「死んでほしい」とか「死ねばいい」とか「死ねばいいのに」とか複数回嫁の発言があった。元々嫁が浮気男1を家に招き入れたときの声を録音しようと思っていたのが予想外のものがとれた。「ATMだと思ってる」はさすがに凹んだ。
その他、「別れさせ屋」を使って俺有責で離婚する計画まであった。犯罪のオンパレード。もはや俺のことを人間として見てすらいないと分かった。
生活費とかは俺が全部出してるから、自分の遊ぶカネしか稼いでなかったみたいだし、もらった分から次々使っていたらしい。もうダメだ、あの女。ダメだと思っていたけど、本当にダメだ。中身が腐ってた。
○●○
「お姉ちゃんの家具とかは実家に送っちゃったんですか?」
「そうだよ。あの大量のカバンとかもまとめて送った。売ればいくらか生活の足しになるだろうと思って」
そう、会話の相手である義妹……いや、元義妹の咲季ちゃんが引き続き家に来てご飯など面倒を見てくれている。姉の不貞のお詫びだろうか。義実家から言われてんのかな。
「咲季ちゃんも家に帰りなよ。俺達はもう他人なんだから」
「私には目的っていうか、ここにいる理由がありますから」
そう言うとソファに座ってる俺の後ろに立って耳元に顔を近づけてきた。
「もう他人なので、なにがあってもおかしくないですね」
「……」
彼女が思わせぶりに言ってる内容が分からないほど俺はラブコメの主人公のような残念な脳みそはしていない。
義理とはいえ一度は妹だと思った子だ。今更男女の関係になるとは思えない。歳だって違うし。俺は28歳、彼女は21歳。7個も違う。彼女が小1のとき俺が中2? 中2が小1をどうにかしてたら確実に犯罪だ。俺が小2のときに彼女は生まれた。小2でも赤子になにかを……いやこれは重犯罪だろう。
今の彼女はさわやかな笑顔だし、顔はやっぱり美人だと思う。美人の笑顔って眩しいって表現が的確だと思う。
なぜか甲斐甲斐しく世話をやいてくれるし、俺が一番弱ってるときに助けてくれた。
「今日はマコトさんいないんですね?」
「ああ、あいつは自分の会社があるから」
なるほど、マコト狙いか。合点がいった。あいつは独身だし、ちょっとオラオラ系だけどいいやつだし、会社も経営してるしカネも持ってる。
控えめに言って優良物件だ。俺が女だったら養ってもらいたいくらいだ。まだ大学生だけど、成人女性。見た目もワイルドでいいのだろう。見た目が良くて、カネ持ってて、面倒見がいいとか最強では!? 咲季ちゃんも魅了されてしまったってか。
「はぁ……。さっぱりしたけど、俺にはなんにもなくなったな……」
誰に言ったわけじゃない。ふと気づいてしまったんだ。俺の実家はおやじが早くに他界して、おふくろももういない。
唯一の家族だった嫁とも切れた。嫁の実家とはあんまりうまくいかなかったし、今は誤解が解けたとはいえ、お互いに変な空気だし。それも、縁が切れたからこれから良くなっていくことはない。自然な感じで疎遠になっていくだけ。葬式とかももう行かないと思う。
咲季ちゃんも今日帰ったら、次からは遠慮しよう。もう甘えてはいけない人だ。マコトとはそれとなく間を取り持つみたいな感じにすればうまくいくだろう。咲季ちゃんもかわいいし、人もいい。お似合いの二人だ。
「どうせ会社お休みですし、昼間からお酒飲みませんか?」
咲季ちゃんがキッチンの下から日本酒を発見したみたいだ。とっておきのちょっといい日本酒。俺はもう離婚届は出したし、独り身だ。問題ない。咲季ちゃんも帰りはタクシーを呼んであげるし、少しなら一緒に飲んでもいいだろう。お礼もあるし、気晴らしもしたいし、酒もひさかた飲んでない。
「つまみをウーバーするよ」
「あ、私作ります。ちょっとしたものですけど」
「……ありがとう」
最後だし、少し甘えとくか。
そうだ、例のおやじの「博多切子」のぐい呑がある。日常使い用のグラスもあるし、それで飲むか。俺達は酒を楽しむことにした。
(ピンポーン)咲季ちゃんが料理を作ってくれ、それをつまみながら酒を楽しんでいるとマコトが来た。ちょうどいいので家に招き入れた。さっきの会話から、咲季ちゃんはマコト狙いのようだった。ここで勝利の美酒を酌み交わすことで二人が仲良くなればいいと持った俺だった。




