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第17話:本人も気付かなかった病

『カードを使えるようにして!』

『あなたどこにいるの!?』

『生きていけない!』


 変なメッセージが嫁から来るようになった。これはどういうことだろうか。


 俺は病院を退院して自分のマンションに戻っていた。ベッドやテーブルなど見ただけで吐き気がするものは処分した。それでも風呂は使えないので近所のスーパー銭湯を利用することにした。


 そして、なぜか咲季ちゃんが来ていた。スーパー銭湯じゃなくてうちのマンションね。


「哲也さん、夕飯なにがいいですか?」


 病院は昼ごはんまで食べて退院した。家に帰るとやっぱり何もしたくない。咲季ちゃんがご飯を作ってくれるって言うなら甘えたい。


「冷凍できないもの……」

「ぷっ、なんですか。それ。普通、肉系とか、あっさり系とか、そんな言い方じゃないですか? 保存方法とかって……」


 嫁が俺の冷凍ストックを浮気男と一緒に食べてたから……。


「おっきなじゃがいもたっぷりのカレーはどうてすか?」

「カレー?」

「じゃがいもが冷凍できません」

「ああ……」


 じゃがいもを冷凍したら繊維が壊れて解凍した時に歯ごたえが悪くなるのだそうだ。


 ご飯は作ってもらわないと俺には自分で作るという選択肢はなかった。なんか、力が入らないのだ。身体的に問題があるというよりは、心の問題かな。立ち上がる力が出ないのだ。ご飯は作ってくれて本当に助かっている。


 部屋もマコトと咲季ちゃんが片付けてくれたのだという。絵にかいたようなゴミ屋敷だった。ベッドやテーブルの話は入院中に俺が嫌だと言っていたので、マコトが処分してくれたらしい。


「お風呂は……入れないんでしたね」

「ああ、汚いかもしれないけど、今日はご飯食べたら歯を磨いて寝る。どうにも全てにやる気が起きない……」


 食後に咲季ちゃんが訊いてきた。俺は自宅マンションの風呂に入れない。ちょっとしたトラウマだ。浮気男と嫁が一緒にイチャイチャしながら入っているのを見てしまったから……。


 正直、着替えも面倒なんだ。心療内科とか行った方がいいのかもしれないが、それも面倒だ。俺はご飯を食べた後、新しくなったソファの上にごろんと横になった。義妹にだらしない姿を見せるのもどうかと思ったが、体裁を取り繕う心の余裕すらない。


「哲也さん、大丈夫ですか?」


 キッチンで洗い物をしていた咲季ちゃんが、タオルで手を拭きながら俺の顔を覗き込む。そして、麦茶を持ってきてくれた。


「ああ……。ありがと……」


 麦茶は嫌いじゃない。俺は一年中冷たい麦茶を飲んでいるほど。いつか咲季ちゃんにも話したのだろうか。


「私が元気にしてあげましょうか?」

(ぶーーー!)


 人は驚いたら本当にお茶を吹くんだな。盛大にぶちまけた。


「ふふふ、冗談です」


 いたずらっ子の顔をした咲季ちゃんが背中を向けた。そろそろ帰るつもりだろう。少し暗くなってきたので、送って行きたいがその元気がない。心と身体は密接につながっているのだと実感した。


「帰りますね。離婚前の男性の家に泊ってしまったら、私も弁護士さんから内容証明を送られてしまいますからね」


 本当に揶揄っているだけなのか。


「これ……」


 俺はかっこよく(?)財布から1万円札を出した。ここから義実家まではタクシーで5000円もしないと思うけど、5000円札が無かったのだ。かといって、この1万円をケチって彼女になにかがあったら俺は一生後悔すると思う。


「大丈夫ですよ。まだ、バスで帰れますし」

「どこかに連れ込まれてSMプレイでもされたら俺の胃に穴が開く。助けると思って持って行ってくれ。実際はバスで帰って差額はお小遣いにしてもいい。助けると思って」


 そう言うと、少し考えた咲季ちゃんは「お兄ちゃんありがと♪」と笑顔で言って帰って行った。家を出る前、タクシーアプリで手配していたから、ちゃんとタクシーで帰っただろう。


「お兄ちゃん」の意味はよく分からないけど、メイドカフェとかに行ったら「ご主人様」とか言われるのにそれくらいの金額は払うことになる。あの整った顔の義妹に「お兄ちゃん」とか言われたのだから、それくらいの価値はあるのかもしれない。


 実際は、食事のための材料とかかって来てくれているし、部屋も片付けてくれたりしている。ゴミ袋を買うことだけ考えても相当量必要だったはずだ。


 俺はベッドに沈み込む様な感覚に囚われながら静かに眠りに落ちて行った。あの時、咲季ちゃんが「元気にしてあげましょうか?」って言ったとき、俺が「じゃあ、よろしく」って答えたらどうなっていたのか……。なんて、俺は鬼畜かな。相手は義妹だし、まだ学生だ。どろどろの不倫離婚劇を繰り広げている真っ最中の汚い大人の世界に引き込むべきではないだろう。


 咲季ちゃんが似ている女優ってなんていう名前だったかな……。少し意地悪そうな目をしているけど、かわいいんだよなぁ……。そんなことを考えながら、女優名を思い出しながらスマホをタップして、水着姿を画像検索したが、全然立たなかった。


 あれ? 俺ってED的な!? 相当トラウマになっているようだ。自分でも気付かなかった……。どうすんだよ、この気分は……。


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