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第13話:義両親の苦悩

 翌日に先に電話がかかってきたのは病院からだった。


『重黒木さんの旦那様でしょうか?』


 歯切れ悪そうに電話してきたのは多分看護師さんだろう。


「はい」

「その……病院の方に警察の方も来られているのですが、奥様は……その……混乱されておられるようで、一度病院に起こしいただければ

 、と……」


 看護師さんも困ってるな。そりゃそうだ。本来の仕事は「看護」だろうし。


 うちの近くの救急病院なら嫁の勤める病院なのだが、激しく拒否したのだろう。少し遠くの病院だった。そんなことが可能なのか!? 嫁のことを知っている病院なら身分は証明されて話が通りやすかったろうが、嫁が変なことをしたので話は余計にややこしくなっている。


 警察が来て嫁に話を聞くだろうけど、「混乱して」浮気男は暴漢じゃない、とか言うだろう。


 義両親も義妹も家に帰っただろうし、話を聞ける相手がいない。そりゃあこまるよなぁ。


 よくよく考えたら、あんな特殊な縛り方をされるほど全裸で黙って待っているのもおかしい。さすがに段々嫁が言ってることが正しいと思ってくるかもしれない。


 まだ電話はないけど、警察も浮気男に事情が聴取すると嫁の名前を知っていたり、2人分の食器がキッチンに置きっぱなしになっていたり、浮気男の話を信じ始めるかもしれない。


 警察は家の中の写真をいっぱい撮っていったから、後から気づくこともたくさんあるだろう。


 それでもいい。ここで重要なのは、「俺が浮気されたという事実」が警察の記録に残ることだから。


 次は警察からの電話だと思っていたら、意外にも義実家からで、電話の主は義妹の咲季ちゃんだった。


『哲也さん、父も母も寝込んでます。いい気味だと思います』

「えー、それは申しわけない……」

『いえ、ずっと、お姉ちゃんばかり信じて、哲也さんを悪く言ってましたから、いい気味です』


 話しぶりから義妹も姉である嫁に煮え湯を飲まされ続けていたのかもしれない。


 咲季ちゃんの話によると、普段義両親はやはり礼儀などには厳しいらしい。それなのに、お中元やお歳暮は嫁に向けてのプレゼントのなっていた上、俺にはその事実が知らされていなかったことにショックを受けている、とのこと。


 電話一本入れるだけで回避できたはずだしね。むこうからしたら、礼儀に厳しく言っていたのに、自分達のほうが不義理をしていたのだから。


 もちろん、嫁の不倫はショックだろう。単なる不倫ってわけではなく、SMプレイ中に警察と病院にドナドナされて行ったのはもはやトラウマレベル。


 精神的なことだけじゃなくて、仕送りの件もある。義両親から一度もお礼を言われたことはない。それもそのはずで、嫁が送っていると聞いていたそうだから。


 離婚後は当然義両親への仕送りはストップする。義両親ともアラフィフ。まだ定年じゃないから自分達の仕事の収入源もあるからいきなり破綻はしないだろう。


 それでも、月に5万円というのは大打撃というわけではないだろうけど、地味に効いてくるはずた。


 そして、最初に電話してくると予想していた警察は最後に連絡してきた。


「あのー……、重黒木さん。先日の住居侵入の男なのですが……」

「はい。逮捕してくれましたか!?」

「それがその……」


 警察も実に話しにくそうだった。不法侵入のレイプ犯なら刑事事件として即逮捕・起訴で裁判なのだろうけど、嫁の浮気相手となるととても微妙な話になるのだという。


 総括すると「奥様とよくお話ししてみてください」とのこと。浮気男が警察に拘留され、一晩警察署で過した事実は変わらない。


 俺は次のステップに移行することにした。嫁の病院に行き、お見舞いすることにしたのだ。もちろん、ボイスレコーダーを稼働させてから会う。これはネット掲示板で調べた知識だ。


 もうこれ以上の証拠は必要ないけど、単なる嫌がらせだ。報復と言ってもいい。


 ○●○


「よう」


 嫁の病室では、看護師さんとなにか話をしていたようだが、俺の訪問で一気に空気が変わった。


 嫁は一気に顔面蒼白。ほんとに病人みたいだ。急な入院だったから、嫁は病院から借りた服を着ている。ベッドの上に仰向けて横になっているので、いよいよ病人みたい。


 看護師さんは空気を読んで逃げるように病室から出て行った。


「ちがっ、違うの! 誤解なの!」


 いきなり言い訳から始まった。


 何が違うというのか。なにが誤解なのか。俺はまだ証拠を出したりはしないし、嫁を泳がすことにしている。こんなとき、人はどんなことを言うのか少し興味があった。


 そんなことを楽しみにしてるあたり、俺はもう壊れていたと思う。


「知らない男が入ってきて、私は言われるがままに……」


 あー……、浮気男のせいにしちゃったかぁ……。こっちが全部知ってるのを気づかずに。


「そっか、大変だったな。あの男は刑務所に入れていいか問い合わせが来てるから、存分にやってくれって答えていいんだな?(嘘だけど)」

「あっ……えっと……えー……」


 嫁の目が泳いでいる。あからさまに挙動不審だ。「嘘ついてます」って顔に極太マッキーで書かれているようだ。


「あのー……ごめんなさい! ホントはあの人のこと知ってるの……」

「じゃあ、知ってる人が急に入ってきて、お前を裸にして……。やっぱり刑務所か死刑だな!(適当ー)」


 あわわわ、と慌て始める嫁。いつも上からの発言が常だった嫁が俺の一言で右往左往しているのが面白い。気持ちいい!


「実は、ごめんなさい! あの人とは秘密の関係で……。でも、身体の関係はないの! 遊びだったの!」

「お前は遊びで全裸になって、赤い縄で亀甲縛りされる女だったのか……。気高い感じが魅力だったのに……」

「それ! それなの! そう思われるプレッシャーに押しつぶされたの! 私はっ!」


 すごいなぁ。今初めて聞いたわ。話の流れから相手のせいにする能力に長けている。こんなこととは知らなかった……。


「実は……あの男、すぐに奥さんが警察に行かないと刑務所に行くことになりそうなんだ。あいつの連絡先と住所知らないか?」

「知ってる! 知ってるわ!」

「じゃあ、この紙に書いてくれるか?」


 相手が既婚者ってのはマコトの報告書で知ってたけど、こいつも相手が既婚者ってことを知ってたことが判明した。ダブル不倫ってことか。最悪だな。


 まあ、これで話の辻褄は合うな。明日には嫁の実家と浮気男の家に弁護士から内容証明が届く。


 そこには嫁と浮気男が不倫していたことが書かれてあり、我が家は離婚するので損害賠償することが書かれている。


 嫁と浮気男達が本格的に慌て始めるのはこれからだ。俺は「おだいじに」とだけ言って病院を出た。バツが悪かったのか、嫁は一言も言わずに俺の背中を見送った。


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