第12話:突入!そして、予定外の事象
「今だ。行くか」
モニターを確認しているマコトが言った。
特別慌ててはいなかった。静かに音がしないように注意しながら、カギを開け自分の家の玄関に入った。明らかに普段のうちのにおいじゃないにおいがする。
マコト、弁護士さん、義両親、義妹も後に続く。義妹はどうかと思ったが、本人が絶対に行くと言うので許可した。まあ、義妹も成人だしね。
短いけれど家の廊下を進み、寝室に向かった。そっとドアを開けると独特のむっとした空気とにおいがした。そして、嫁の喘ぎ声というよりは唸り声のような音がしていた。
「はい! そこまでー!」
「うわっ! なんだきさまっ!」
俺が部屋に入ると浮気男が真っ裸で俺に噛み付いてくる。
……あ、物理的に噛み付いて来たんじゃなくて、精神的にね。肩とかに歯型が付かないタイプ。まあ、心には傷が残るからあんまり違いはないか……。
「なんなんだ、きさまはっっ! このっ!」
俺は浮気男に飛びかかられ2発殴られた。見事に唇が切れて血が出ているのが分かる。頬は殴られるとガツンと衝撃がきた。感覚はなく、どうなっているのかも分からないほどだ。
俺が殴られて床に倒れた頃、マコトは部屋に入ると瞬殺で浮気男を制圧してくれた。そして、浮気男の腕を後ろに回してねじり上げた。やつは地面に顔を押し付けて苦痛に悲鳴を上げる。その後も何か叫んでいるけど、マコトが押さえ込んでいる。
肝心な嫁は全裸の状態で真っ赤な縄で縛り上げられている。あとで聞いたけど、あれは「亀甲縛り」っていって縛った縄の形で六角形になってる縛り方。腕は後ろ手に手錠がかけられている。足は足かせ。完全に拘束されていた。
口にはゴルフの練習用のボールみたいなやつ? プラスチックのボールみたいなのが口にはめ込まれて、その球の穴からよだれを流していた。これも後で聞いたけど、ボールギャグっていうらしい。紐で顔に固定されている。要するに猿ぐつわ。
要約すると、二人はSMプレイを楽しんでしたようだ。浮気男は全裸で黒いビニールのムチを持っていた。一方、嫁も全裸の上、真っ赤な縄によってSM縛りで縛られている。手足は手枷・足枷で拘束されていて口も猿ぐつわ。しゃべることすらできない。
「うぐーぐ、うぐーぐ」とか言ってるけど、俺は日本語しか分からない。無視することにした。
ここで俺がすることは……。床に這いつくばって動けない嫁にそっと毛布をかけてやること。相変わらず、猿ぐつわてしゃべれないけど、それはそのままで。
そして、マコトがしたことと言えば……。
○●○
10分後には2人の警察官が俺のマンションに来ていた。マコトの通報によるものだ。
「通報頂いたのはあなた?」
「はい、知らない男が家に侵入して大暴れしました。妻は縛られてレイプされた可能性があります!」
俺は唇を押さえ、それでいてケガは警官に見えるようにしながら受け答えをした。
「では、その暴漢は!?」
俺の証言とケガを見て、警察官の目の色が変わった。2人の警察官が室内に飛び込んだ。
残念ながら、警察官は普段銃を持っていないし、警棒もほとんど使わない。しかし、柔道などの武術を身に付けていて一般人よりは頼りになる。
そして、室内でその2人の警察官が見たものは、床に組み敷かれた全裸の男。
「こいつが俺の相棒を殴りました。だから制圧しました。逮捕してください」
「「あ……はい……」」
捕物はすぐに終わった。マコトが制圧しているのだから当たり前だ。浮気男は全裸に毛布1枚でパトカーにドナドナされて行った。
俺達は後から応援で来た別の警察官に話を聞かれた。
「どういうことですか?」
レイプの疑いもあることから男性警官1人と若い女性警官も1人いた。30には行ってないくらいかな。
「義理の両親と妹と友達を連れて自宅に帰ったら、妻が知らない男に乱暴されていて……。出会い頭に2発殴られました」
「それは大変でしたね! で、奥さんは?」
みんなでベッドの方を見た。全裸な上に赤い縄で亀甲縛りされている。その上手足は枷がハマっている。更に、猿ぐつわ。毛布をかけてやったのは、俺が優しい夫だからだ。……いや、せめてもの情け……かな。
女性警官がボールギャグを外そうとしていたが、外し方が分からないみたいで難航している。
その間も嫁は「んーんー」と何か言ってるけど、外れないものはしょうがない。普段そんなものの外している人は少ないし、俺達は一切手を貸さないから。ハサミで切る方法なんかはとっくに思いついてるけど、一応刃物だし危ないかもじゃない? 女性警官もテンパってるし、なんの指示もないから俺達は笑いを堪えて真剣な顔をしていた。
そのうち救急車が来て、嫁は全裸亀甲縛りのまま毛布にくるまれて担架に乗せられて連れて行かれてしまった。付き添いは一番ダメージが大きそうなお義母さん。同乗は一人までだったので、お義父さんと義妹は病院を聞いてタクシーで追いかけることになった。
本当は嫁と浮気男を全裸のまま正座させて尋問するはずだったけど、浮気男がうちに家主である俺の許可なく勝手に入って、俺の嫁と行為に及んでいたことが警察の記録により証明されることとなった。
「えーっと……」
俺が次はどうしたらいいのか困っていると、弁護士さんが続けてくれた。
「浮気男はこの時間なので、そのまま帰ってこないでしょう。奥様も病院で泊まりになるでしょう」
「じゃあ……、今日は解散ですね?」
俺とマコト、弁護士さんはとりあえず解散となり、翌日以降に警察官などの対応について弁護士さんからアドバイスをもらって終わりになった。




