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シンプルな追放ざまぁ冒険者物語

作者: 但馬いぬ

「トマス! お前がいると気持ち悪いんだよ! 追放だ!」



 冒険者の酒場に怒号がひびいた。

 その声は、3人組のS級冒険者パーティ『竜の牙(ドラゴン・タスク)』のリーダー、剣士グスタフのものだ。

 馬鹿みたいに逆立てた金色の怒髪がさらに天をつく。


「待ってくれグスタフ! 気持ち悪いって……そんな理由があるかよ!」


 これにはトマスも納得できず、反論する。

 ふだんは物腰落ち着いた整った顔立ちも、今回ばかりは困惑にゆがむ。

 実力不足を理由にパーティを追放されるならまだしも、こんなわけのわからない理由で追い出されてはトマスもたまったものではない。


「本当の理由を言ってくれよ、グスタフ。オレはそんなに役に立たないか?」


 トマスはグスタフの真意を問いただそうと尋ねた。

 謙虚で心優しいトマスは、こういう時はまず自分を疑ってしまう。


 彼は自分をいましめることに余念がない。

 冒険から帰ったあとは、ベッドの中でも、シャワーを浴びているときも、トイレに入っていても、いつも自分の反省点を洗い出している。

 それはトマスの美徳でもあり、しかし相手につけ入られる欠点でもあった。 


 もちろん役に立たないなんてことは無い。

 このパーティ『竜の牙(ドラゴン・タスク)』をS級冒険者パーティたらしめているのは、ひとえにトマスの剣士としての腕前があってのものだ。

 同じ剣士であるグスタフや、その他はその恩恵にあずかっているに過ぎない。


 だがグスタフは、厚顔無恥にもここぞとばかりにトマスを責め立てる。


「気持ち悪いったら、気持ち悪いんだよ! お前みたいな奴がいるとパーティの士気に関わるんだ! リーダーとしてこれを放っておくわけにはいかないんだよ!」


 グスタフはあくまで気持ち悪いなどという曖昧な理由を主張した。


 実の所、グスタフはトマスを役に立たないなどとは口が裂けても言えない。

 このパーティを支えてきたのはトマスであることを、彼は重々承知なのだ。

 現に、彼はモンスターとの戦いの中で幾度も死にかけ、その度にトマスに命を救われている。


 普通ならば感謝を述べて頭を垂れるべきだ。

 にもかかわらず、プライドの高いグスタフはあくまで上から目線を崩さない。

 おそらく彼は感謝どころか、トマスの実力に嫉妬しているのだろう。

 そしてグスタフがトマスを追放したい理由は他にもある。


「それに、ルーシィも言ってるぜ。トマスと居ると気持ち悪い。トマスと居ると、腐肉みたいな匂いがするってよ」


 ルーシィとはこのパーティ『竜の牙(ドラゴン・タスク)』の回復役(ヒーラー)である。

 今はグスタフの指示によって買い物に出かけて、この場にはいないが。

 誰にでも愛想を振りまき、愛されキャラを自称する図太い女だ。


 グスタフはルーシィに恋慕していた。

 だがルーシィはこのところトマスの実力に惹かれ、すり寄っていた。

 それがグスタフには気にくわなかったのだろう。


「ルーシィが……そんなことを。そんな……」


 お人好しなトマスはこれを信じ、ショックを受けた。

 実力では随一であるトマスといえどやはり人間。ショックを受けることもある。

 つい1か月前も戦闘の中で、永遠の愛を誓った最愛の恋人と死別したばかりで、やはりトマスは大きなショックを受けた。


 その心の隙間にルーシィは入り込み、トマスもまた傷心をいたわってくれるルーシィに惹かれようとしていたところだった。

 その矢先にこれである。



「役立たずかどうかを理由にしてほしいなら、じゃあ言ってやるぜ」


 落ち込むトマスに、ここぞとばかりに追い打ちをかけるグスタフ。


「お前が恋人の魔法使いアリアと死別して悲しいのは仕方ないにしてもな、戦闘に集中できてねえんだよ! 俺たちは命をかけて戦ってるんだ、いつまでも引きずってるんじゃねえ!」


「それは……すまん」


「永遠の愛を誓ったとか言ってたか? でもアリアだって、俺たち冒険者の仲間だったんだ。最悪の事態だって覚悟してただろうさ。それをいつまでもメソメソされたら迷惑なんだよ!」


「そうだな……本当にそうだ」


 言いくるめられて反省してしまうトマス。

 これまでの貢献を考えればグスタフなどは地に頭をこすりつけて感謝すべきなのに、トマスはつくづく誠実で真面目な男なのである。

 最愛の恋人を失ったのを引きずることは人間ならば当然といえる。

 心優しいトマスであればなおさらだ。


 にもかかわらず、トマスの弱みをあげつらうばかりのグスタフの態度はどうだ。

 こういう人間にはどんな天罰が下ってもおかしくない。


「とにかく、お前は追放だよトマス。二度と俺たちに近寄らないでくれ。こうやってお前を叱ったあとは、なぜかいつも夜になると宿屋の家具がガタガタ鳴って気持ち悪かったんだ。今後はぐっすりと眠ることができるだろうさ」


 こうして愚かなグスタフはトマスを追放してしまった。


 パーティを支え続けたトマスを追放してしまった馬鹿なグスタフとルーシィの今後は、凋落の一途をたどることはもはや間違いない。ざまぁみろだ。


 そして優れた実力と人格を備え、かっこいいトマスは、こんな馬鹿なリーダーの元でなければ、どこまでも大成することができるだろう。


 でも浮気はだめだよ。

 私たちは永遠の愛を誓ったんだからね。

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ひえっ……
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