心の重さ
俺は皇居の前に立っていた。
「此処で合ってるんだよな?」
入り口の前でおどおどしている俺を見て警備の人が話しかけに来た。
「君、大丈夫?」
「あ、えっと禁錮室に行きたくて」
そう言うと警備員さんは顔をしかめて、警備室に戻り何やら確認をとっていてそれを終えたのか俺の所に戻ってきた。
「身分証とかあるかな?」
「あ、はい」
俺は生徒手帳を見せた。
これは顔写真もあるので信じてもらえるだろう。
「確かに、今から案内するね」
それから俺は皇居の中に入ったがそれはそれで、何回か身体検査を受けた。
何回も体を確認されて、最後にスマホをとられてこれまた厳重だなと思いながら地下に続く階段を歩いて行くと一つの扉の隣に巫女姿の女性が立っていた。
「お待ちしておりました。貴方が河上心太さんですね」
「はい」
「ではお開けします」
巫女さんは、でかい鍵を持ち扉を開けた。
扉も良く見るとでかく鍵のでかさも納得だった。
「河上様にお見せできる資料は既に奥の机に置かれているので、それ以外の書類を閲覧するのはお控えください」
「分かりました」
「ではどうぞ」
「どうも」
中に入ると色んな棚に資料が整頓されていた。
前にアクセスできるとかい言いながら見れるものは制限されるのかと、突っ込みを入れたくなったがそれはやめて奥の机を見ると一つのファイルが置いてあった。
「これか」
俺は椅子に座ってファイルを見る、そこに書いてあったのは目についてだった。
この目は蒼眼と言うらしい、明治に最初に存在が明かされその後役百五十四、現在の警察機関ができると同時に蒼眼を持つ人間が現れてその人物が死ぬまで蒼眼は二人は存在せず蒼眼を受け継いだ人間が死ぬか、蒼眼の輝きを失った場合のみ蒼眼を受け継ぐ人間がでると書いてあった。
そして、蒼眼を持つ人間は警察機関に所属するとだが、この数十年は存在が確認されなかった。
それ以外は蒼眼の見える色の感情がよく書き記いしてあった。
これが本当なら俺はその蒼眼を受け継いだのだろう、でも俺が体験したあのピンク色の霧が何なのか気になった。
ファイルには蒼眼以外書かれていなく、俺はファイルを閉じて部屋を出た。
「もうお済みですか?」
「はい」
「ではまたお会いできることを心からお祈りしております」
「どうも」
なんか、この巫女さん言葉遣いが丁寧だがそこまで丁寧だとこちらも身構えてしまう。
俺は地上に上がると警備員さんが立っていて、外まで案内してもらい俺は皇居を出た。
翌日、俺は千代田区霞が関の警視庁の前に止まる車の中にいた。
「班長、今日はなんで僕が?」
隣でハンドルを握っているのは、未解決事件専門捜査室の同僚の蒼真君だった。
「悪いね、俺の周りで気軽に車を出してくれるのが蒼真君だけだったから」
「それは良いんですけど、今日は休みですよね?」
「ああ、この前の件頼んだよ」
「何か事件ですか?」
「いや、私用だよ」
「そうですか、じゃあ今度なにか奢ってください」
「分かったよ」
それから数分待って、香坂ひよりがこちらに向かって歩いてきた。
「乗って」
「はい」
今日は香坂ひよりと約束した日だった。
「今日はありがとうございます」
「いえ、僕は班長の指示があればどこでも行きますよ」
「班長?」
「気にしないで」
外で班長と呼ばれるのは少し恥ずかしい。
それから香坂ひよりから香坂管理官について聞いたり、蒼真君の過去の話だったりと時間が過ぎるのが早く感じた。
「着きましたね」
「うん、じゃあ俺達は行くから蒼真君は例の件を調べておいてくれ」
「分かりました、なにかあれば直ぐに連絡してください」
「はい」
「一昨日の手紙持ってます?」
「はい、これです」
手紙を受け取る。
「これから僕は集中するから、話しかけられても答えられないから着いて来てね」
「分かりました」
ひよりさんはどう言うことか分からなくて困惑しているが、目を使うと他の四感は機能しないのでそこは無視したりするのは良くないので予め言っておいた。
そして俺は目を使う。
手紙から紅梅色の線が繋がっている場所を探した。
どうやら父親は亡くなってないし、香坂管理官には愛情を感じているらしい。
それから、数十分歩いて山の上のコテージを見つけた。
「ここだね」
「ここですか?」
「うん、間違いない」
「どうして分かるんですか?」
「まあ、ひよりさんを見つけた僕を信用してほしいな」
「分かりました」
一瞬ひよりさんがインターホンを押す時、躊躇いが見えたが次の瞬間には押していた。
「はい」
中年の男の声で出てきた。
「香坂 梓の娘のひよりです」
「え?」
そう言った瞬間玄関が勢い良く開いた。
「ひよりか?」
「お父さん?」
「なんで此処に?」
「僕が連れてきました」
「君は?」
「ひよりさんの知り合いで、親戚に警察がおりまして失礼ながら調べさせていただきました」
「そうですか、とりあえず中に入ってください」
「お邪魔します」
中は田舎の奥多摩の山に立っている、コテージの中という感じで木製の壁に自然を感じた。
ソファーに座ってお父さんがお茶を出してくれた。
「ひよりに会うのは小さい頃ぶりだから、随分前になるね」
「私は記憶がないから」
「そうだね、三つのころだからしょうがない」
家族の会話に俺がいるのは少し違和感だし、通常なら俺は席を外した方が良かっただろう。でも俺は此処にいないといけない。
「お父さんは亡くなったと聞いていたのになんで、こんなことになったの?」
「それは、俺が悪いんだ」
「理由は言えないの?」
「俺の経営している会社が倒産してそれで、梓と幼いひよりに迷惑をかけるわけにはいかなかったんだ」
「そんな理由で死んだことにしていたの?」
「申し訳ない」
ひよりさんは信じられないと言った様子だった。
「俺の不手際で迷惑かけたな」
「私は…」
「ひより?!!」
玄関から香坂管理官の声がした。
玄関に中に入ればこちらの様子は見えるので、それでこちらを見る様子は驚きで身動きが取れない様子だった。
「なんで此処に」
「お母さんこそ」
「それよりなんで君がいるの?」
「僕?」
「君意外にいないでしょ」
「まあ、それはいいとしてもう分かってるでしょ?」
「そうね、貴方がここにいると言うことは何を示しているのか?
ひよりさんは何が起きているのか分からないと言った様子だった。
「ひより、二階で話しましょう。そこで全て話すわ」
「分かった」
ひよりさんと香坂管理官は二階に行った。
「君は一体」
「一方的に貴方を調べた、それをお詫びすると共にそれは不公平でしょう。僕はこう言う者です」
俺は名刺を見せた、そこには先日蒼真君が嬉しそうに見せて来た未解決事件専門捜査室の名刺だった。
「未解決事件専門捜査室?」
「未解決事件を専門に調べる課です」
「君みたいな少年が?」
「まあそれは気にしないでください」
「分かった」
「僕は貴方を逮捕しないといけない」
「ってことは全て知ってると言うことだね」
「はい説明しても?」
「うん」
俺は調べた事実を語った。
「香坂梓は大学時代、短期間交際した男からストーカー被害と強姦被害を受ける。加害者は逮捕されるも、その後も粘着的に彼女を執拗に追い回し、警察やSNSを通じて虚偽の噂を流布。彼女の社会的信用を著しく傷つけた。
一方、梓はその後、同窓会でかつての恋人であり、後の夫となる男性と再会し結婚。間もなくして娘のひよりが生まれるが、元ストーカーは子の親権を主張し、DNA鑑定まで求めるなど、執拗に家族の平穏を破壊しようと画策。
元ストーカーの執拗な嫌がらせと社会的圧力に耐えきれなくなった夫は、追い詰められた末に元ストーカーを殺害。事件は闇に葬られ、夫は姿を消し、遺体も発見されないまま行方不明となる。これが僕が調べた事実です」
「間違いないね」
「それでなんで、手紙を?」
「写真が欲しかったんだ」
「写真?」
「ああ、ひよりの。自分勝手だと分かってる、でも成長したひよりを見たかったんだ」
何処まで行っても父親なのだろう。愛情が見える。
「その手紙はモールス信号だったがそれを解読したのは、最近だったんだそれで梓とは最近期間を開けて此処で会うようになったんだ。君にも迷惑をかけたね」
「いえ、もう直ぐ同僚がこちらに来ます」
「そうか、じゃあ待つか」
「待って!!」
「ひより」
「お父さんを逮捕しないで」
「ひより、俺が全部悪いんだ」
「お父さんは私とお母さんを守ってくれたんでしょ?」
「これはしょうがないの」
香坂梓は説明しようとするが、ひよりの目には涙が浮かんでいた。
それから奥多摩の警察署から捜査官と蒼真君と一緒に来て父親は逮捕された。
そんな現状を受け止められずに、ひよりは走って外に出て行ってしまってそれを梓と共に探していたが、小さな椅子が道においてある場所で座りながら泣いていた。
雨が降ってきた。
俺は傘をさしながらひよりに近づいた。
ここで梓が行くのは得策ではない。
「傘ささないと風邪ひくぞ」
「全部知ってたんですね?」
「ああ」
「それで逮捕するために一緒に来たんですか?」
「否定しないよ」
「なんで最初から話してくれなかったんですか?」
「話していたら君は、お父さんと気兼ねなく話せていたか?」
ひよりは黙っている。それは肯定の間だった。
「君のお父さんは人殺しだ」
ひよりは睨んでこちらを見る。
「殺しにどんな感情を持っていようが、罪は変わらない。でも君がお父さんを思うのなら会いにいってやるといい。罪の重さは変わらないが心の重さは変わるはずだ」
ひよりが流す涙がとめどなく流れる。
それから、ひよりは一人になりたいと言ったので梓の車に残して俺は梓とコンビニの駐車場で雨をしのいでいた。
「煙草吸うんですね」
梓は煙草を買って吸いだした。
「大学まで吸ってたの、でも警察に入って昇進したければ辞めろって言われたのとひよりが生まれることもあってね。こんなことがあれば吸いたいなって」
「そうですか」
「貴方も吸う?」
「警察官が未成年に喫煙を進めないでください」
「そう、でも貴方はいつか吸うと思うよ」
「なんですかその予言」
「まあ、この先貴方に振り起こることは普通の人間には耐えられない道な気がしてるの。だからそんな気がする」
「そうですか」
梓は一粒の涙を流した。
それを問うなんて野暮なことは聞かない。
煙がしみて流したのだと思った。




