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AIH

翌日、ライブ会場では朝から沢山の人で賑わっていた。

私と舞は始発で会場まで行き、グッズを買うために待機列に並んでいた。

「凄い列だよね」

「私、始めて来たからこんなに、朝から並ぶとは思わなかった」

既に始発で向かったとは言え最前列の人達が見えない程に並んでいて、自分達が買いたいグッズがあるのか不安になってしまう。

「グッズ買えるかな?」

「スタッフさんも大体予想はついているから、多分直ぐ売り切れはないと思うよ」

舞は何度か乃木坂のライブに行った事があるらしくそこら辺は全部任せていた。

所で霞ちゃんは何処にいるのか今回も、さっぱり分からなかった。


列は中々進まない、それでも友達と並んで居れば時間は直ぐに過ぎていく。

「そう言えばさ、舞は誰が推しなの?」

「私は藤沢さくらちゃんかな」

「そうなんだ。なんで?」

「やっぱり可愛いからさ、それだけじゃなくて踊りもしなやかで儚くて全員いても目に入っちゃうくらいに魅力があるんだよ」

なんだか、乃木坂の話になると一を十で返してくる舞に驚きながらいつも乃木坂の話になるとこうなることを思い出した。

私が乃木坂を本格的に好きになったのは間違いなく、舞の影響だった。

それまでは、私は好きではあったがライブに行く事や毎回全てのMVを見ることはしなかった、だが偶々舞が乃木坂のライブ映像を見ていた事で話しかけた事がきっかけだった。

「そう言えばさ、仲良くなったのも乃木坂のおかげだよね」

「そうだっけ?」

「そうだよ、ライブ見ていてそれで私が話しかけたんだよ」

「そうだっけ?」

舞は覚えていないようだったけどそれでも、私はそれで良かった。

「さくらはだれが好きなの?」

「やっぱり藤沢さくらちゃんかな」

「なんで?」

「同じ名前で同い年だからかな」

「関係者あるんだ」

「まあね、それから大神彩ちゃんも好きだよ」

「最年少の?」

「うん」

「なんで?」

「河上君、覚えている?」

「さくらの彼氏だっけ?」

「そんなんじゃないから」

「ごめんって、そんなに怒らないで、それで河上君がどうしたの?」

「親戚なんだって」

「えー!!」

「私も信じられなかったけど、小さい頃よく遊んでいたらしいよ」

「意外な共通点だね」

「本当だよね」

「それで、小さい頃の彩ちゃんってどんな感じだったの?」

「人見知りする感じだったらしいよ」

「そうなんだ」

「人見知りする子が今では多くの人の前でパフォーマンスする、なんて信じられないって言っていたよ」

「そうなんだ、所でいつから河上君とそんなに親しくなったの?」

「え?」

やばい、話過ぎた。こんな所で今まで秘密を貫き通してきたのにここでばれるわけにはいかない。

「家が近くて朝一緒に学校に行ったり夏休みとか、散歩する公園でよく会っていんだよ」

「へー」

舞は怪しみつつなんとか誤魔化せたと思いたい。

それから、私達はグッズを無事に買えてお昼ご飯を食べたり、幸い都会に会場があったので渋谷で買い物したりとライブが始まる時間まで楽しく過ごせた。でも、霞ちゃんが何処にいるかはライブで隣の席に座るまで気付かなかった。霞ちゃんの気配を消す術は私には見破れないと思うくらいであった。


一方、河上は朝早く出かけた安藤とは対照的にばっちり睡眠をとり朝九時くらいまで寝ていたい。

「おはよ~」

あくびをしながら階段を降りると既に高坂が朝ごはんをテーブルに並べていた。

「睡眠ばっちりとったのに朝から、あくびしながら降りてこないでください」

「酷いな、睡眠は必要不可欠なんだぞ」

「それは分かりますが、それより昨日は珍しくよく眠れたのでは?」

「そうだな、昨日会場で目を使い過ぎたのだろう」

「なるほど、もうご飯できているので早く顔洗って食べてください」

「ほーい」

洗面所に行き顔を洗って、リビングに戻る。

「そう言えば安藤はどこ行ったの?」

「もう会場に向かいました」

「いつ?」

「始発で向かわれたので朝、四時くらいに」

「早くない?何しに行ったの?」

「グッズを買いに行ったんですよ」

「朝から?」

「はい、因みに今の時間では五時間くらいかかるそうですよ」

「え?そんなに並ぶの?」

「はい、まだ発売してないのでまだまだ分かりませんがSNSではこのような呟きが」

高坂が見せてくれた写真には大行列で、先が見えない程に人が並んでいる写真だった。

「こんなに並んでもグッズと言うものは欲しいものなのか?」

「人それぞれでしょうけどファンは欲しいグッズがあれば、並んでまで買いたい人が

多いのでしょう」

「そうなんだ」

そこまでして欲しい物がなんなのか気になった。

「実際、何が一番売れているんだ?」

「そうですね、まあ名前入りのタオルとか名前入りのペンライトとか色々ありますけど、まあ一番は写真ですかね」

写真、そんなもの手に入れてどうするんだとも思う。

「写真なんか買って飾るのか?」

「そうですね、まあ今までの写真をケースに入れて保存する方もいらっしゃるし、写真の中にはサインが入っているものもあるそうですよ」

「それは、彩ものあるのか?」

「それは乃木坂なのであるでしょうね」

「じゃあ、一つ買ってみるか」

「でも、中はランダムなので確実に手に入れるのは大変ですよ」

「そんなものなのか」

「はい、それにファンを辞めた人は処分に困るそうですが」

「それは、困るな。で結局どうするんだ?」

「さあ、それは知らない方がいいです」

確かに知らない方がいいことだと思うが、未だに知りたいと思う欲求はまだあるみたいだ。

いつか、誰かに言われた。人類は知りたいと思う欲求に負けた時が負けだと、それは俺にとっては一番起きてはいけない事だ、俺がそれに負ける時がくれば世界は自分の思うままになるとそれは犯罪の権化だと思う危険な人間。


「さあ、出かけようか」

時刻は十時半、だらだらとしてはいられずに着替えて家を出る。

会場の設計図は頭に入れた。イレギュラーさえ起きなければ、ある程度の事態は免れる自信はある。だが、相手はサマエル、何をしでかすかは分からない。それは前提でこっちも動くが一番懸念でバットエンドはアイドルの中にマラクがいる可能性だ、これは目を使い予め危険はないと断定出来るがもしサマエルが俺に感知出来ないような仕組みがもし出来ているなら?そんな疑問で埋め尽くされる、以前彩の護衛を務めた時に起きた、顔に傷がある男の様な見たこともない色で見えた事もあり俺に感知出来ないものがあるのかもしれない。それを思い出し以前の顔に傷がある男についての調査結果を昨日京野さんから電話で聞いた。実は彩の護衛から数週間が経っていた、これは細部まで調べる必要がありそれを聞いた時から、悪い予感はしていたが全部調べるまで時間がかかると言う事で数週間が経ってしまったということだった。

結果は信じられないことだった。


『京野さん、わざわざ電話ありがとうございます』

『まあ、お前と電話することは普通はないから新鮮だ』

『それで結果は?』

『あいつはサイボーグだった』

『サイボーグ?』

『ああ、詳しく言うとAIロボットだな』

『そんな事が可能性なのか?』

『分からんが警察ではAIHと読んでいる』

『AIHか』

『詳しく調べ上げた所、まだ日本では再現不可能な物だった』

『日本では無理と言う事ですか?』

『ああ、海外でも調べてもらったが現状、海外でも再現するには相当時間がかかるということだった』

サマエルが現代の科学力を超えたのか?それとも以前から研究をしていたのか分からないが完全に人間ではない事が分かった

『それに関してはお前の方に説明はなかったのか?』

世界政府について言っているのだろう。京野さんは世界でも業界的にも数少ない世界政府に牙をむく人間でそれについて多くのお偉いさんと喧嘩をしていた。

『残念ながらこっちには情報はありません』

世界政府は俺からコンタクトをとる事も出来るがサマエルなどの情報で、進捗があれば報告が来る手筈になっている。

『そうか、折角お前に電話したがこっちは何も得られなかったな』

『そんな性格しているんだから奥さんと子供に逃げられるんですよ』

『うるさい、もう切るぞ』

『待ってください、他には?』

『他に特に目立った報告はないが強いて言えば、逮捕した顔に傷がある男はあれからピクリとも動かないし、調査では彼らAIHは人間を超えた力と頭脳を持っているらしい』

『そこまで重要な情報を何も言わずに、切るつもりだったんですか?』

『俺だって忙しいんだ、これからアイドルの警護もあるし』

『それって乃木坂ですか?』

『なんで知っている?』

『俺も仕事受けたので』

『そうか、じゃあ当日話したいことあるから時間作れ』

分かったと言う前に電話を切られてしまった。

全く、勝手な人だ。でもある程度の情報は手に入った。後は世界政府次第だ。

それから数日後が現在になる。


俺達は会場に着き、また関係者のカードを首からぶら下げて道を歩いていた。

「高坂、腹減った」

「さっき食べたばかりじゃないですか」

「良かったらお弁当あるので後で食べてください」

今野さんが今回も案内をしてくれた。

「あの?もう戻っても良いですか?」

今とある部屋でスタッフが何人か集まっていた。それは俺の指示で事前にスタッフの写真を見て怪しい人間を集めていて、今丁度全員集まった所だった。

数は五人、目を使い既に選定は出来ていた。

「もう、良いですよ」

「え?」

「なんで此処に集まったのか教えてください」

「それはもう必要ないので仕事に戻って良いですよ」

スタッフ達は文句を言いながら部屋を出て行った。

俺はスタッフの中でとある一人に声をかけた。

「あの?」

「はい?」

「貴方の名前を教えてください」

「は?」

「それだけで結構なので」

「阿部涼香です」

「どうも」

阿部涼香と言うスタッフも部屋を出て行った。

「高坂」

「はい」

「今野さんももう良いですよ、後は俺達と警察に任せてください」

「分かりました」

俺は部屋を出て、一人外にあるスタッフだけが使える関係者の喫煙所まで歩いた。そこには約束をした人間と会うためだった。

「どうも」

「おお、此処に人は暫く来ないようにしているから話せるぞ」

「気遣いどうも」

「で、あれから情報はあったか?」

「いえ、世界政府に問合せても新しい情報はないと」

「本当に情報がないか、何か言いたくない事があるのか」

「信じてないんですね」

「あいつらに信頼を持った事はないし、それはお前もそうだろ河上」

「そんなに殺気出さないでください、確かに信頼関係なんてものはないですが情報と言う面では利用はできます、でも何か隠したいことがあると言う事は考えたくはないですね。あいつらが隠し事をする時は大体悪い事しか起きないので」

「だな、俺もあれから色々調べたがAIHは世界各国の警察機関にはいなかったから比較はできないが内庁や含民間の企業にも応援を頼んで調べつくした結果がこれだ」

渡されたのは調査を詳しく書かれていた、紙だった。

目を通しながら京野さんの話を聞く。

「そこに書いてある事だが、奴は筋力と言う概念がない程に力が強かった。対人で戦闘したら相当厄介だったな」

この調査結果を見た時ふとした疑問が浮かんだ。

「こいつは力が端に強いだけですがこれは、頭をいじればどこまで行くんでしょうか?」

「これは俺の想像の域を出ないが想像もできない不可能犯罪を可能にする輩も出るかもしれない」

「じゃあ神鹿狼奈のコピーとか」

京野さんも同じことを考えていたのだろう、煙草をふかしながら目を閉じて頷いた。

「それも可能かもしれない、だが幾らこんなAIロボットを作れたとしてもあいつの頭脳を再現するとしたら一体作るのに相当な時間がかかるとみている」

「そうですか、後は能力が低くなっても量産できないことを祈るしかないですね」

「そうだな、今サマエルが誰の指示で動いているか分からんが幹部がAIHにいる事も視野に入れて動かないといけないな」

「それぞれの分野で人間を超える奴らが居るとすればもうそれは、ただの犯罪集団ではないですな」

「元々、ただの犯罪集団ではないですけどな」

「そうですね」


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