信頼
「ライブには行くんだよね?」
「まあ、あくまでも俺は仕事としてだけどな」
「いいな~、私も舞台裏とか行ってみたい」
駄目だと思っているがそれでも、羨ましいのは変わりなかった。
「駄目に決まっているだろ、遊びじゃないんだぞ」
「分かっているよ」
まあ、それもそうだよなと思った。
「で、ライブはいつなんだ?」
「明日だけど」
「そっか」
「そう言えば、宿題やっているの?」
ふとした疑問を話してみた、河上君は夏休みで沢山仕事をして家を空けていたものあり宿題はどうなっているのか知りたかった、でも仕事で色々家にいない度に仕事は休暇中だと聞いていたのに大変だなとも思っていた。
「終わっているよ」
「いつ終わらせたの?」
「夏休み前に全部やった」
「それって可能性なの?」
「まあ、実際終わらせたしな」
びっくりしながら私ももう終わっているし、焦りはなかったが休むための夏休みなのに河上君は多忙だ。
「心太様!!」
高坂さんが焦った様子で駆け込んできた。
「そんなでかい声出さなくても聞こえているよ」
「早く準備してください」
「なんで?」
「今日はライブの打ち合わせって言ったじゃないですか!!」
「そうだった」
そう言って河上君は急いで自分の部屋に行って、着替えを終えて戻ってきた。
「行きますよ」
「まだ、朝ごはん食べてないのに」
「だから昨日のうちに準備してない心太様が悪いんでしょ!!」
二人で玄関先に向かって行くのを、霞ちゃんが送って行った。
「忘れ物はございませんか?」
「うん、身一つあればなんとかなるし」
「心太様、行きますよ」
「はいはい、あ、ちょっと待って」
「なんですか?」
「霞、安藤の事を頼むぞ」
「はい」
そうして出て行ったが、少し心配し過ぎだろうと思った。
「ちょっと心配しすぎじゃない?」
霞ちゃんに言うと霞ちゃんも意外と反応は違った。
「当たり前ではないでしょうか」
「なんで?」
「当日、サマエルの人間が何処に潜んでいるか分からないのですよ。安藤様も狙われている事もありますし」
「そうだった、でも最近は危ない事は起きてないけどな」
「油断させるのが狙いかもしれません」
「そうなんだ」
「はい、奴らも過去そう言う事で犯罪を成功させていた例もありますし」
「じゃあ霞ちゃんも明日行くの?」
「はい、チケットも隣り合わせです」
隣り合わせなんてあり得るのだろうかと疑問が出た。
「そんな事できるの?」
「心太様がチケットを用意してくださいました」
「そこまでしたんだ」
「当日、私が車で送り迎えをしますので安心ください」
「良いよ、電車で待ち合わせして行くから」
「そうですか、では私も電車で」
「霞ちゃんは普通にしていてよ」
「ですが」
「私がサマエルとかマラクに狙われていれるのは舞には言ってないし、ばれたらそれはそれで舞にも危険が及ぶでしょ?」
「そうですか、では当日は隠れていつものように見守ります」
一方、河上は。
「なんで準備してなかったんですか?」
「そう、怒るなよ」
「怒りますよ、相手はサマエルが絡んでいるんですよ」
「分かっているって」
「どうせ、夜更かししたんでしょう」
「してない」
「噓ですね、目の下にクマできていますよ」
「噓」
スマホのカメラで確認してみると、確かにクマが出来ていた。
「言えよ」
「夜更かしした心太様が悪いです、何やっていたんですか?」
「乃木坂のライブ見ていた」
「お、遂に乃木坂の素晴らしさに気づきましたか?」
「違う、ライブは毎年同じ場所でやるならどんな場所か気になっただけだ」
「そうですか」
高坂は少しだけ残念そうにしながら運転を続ける。
それから、少し乃木坂の豆知識やライブがどの様なものなのか教えてもらった。
俺はアイドルなどアーティストのライブに行った事がないので、それについての常識なども教えてもらった。俺にはとっては心底どうでもいいものばかりだがそれをマナーとして、いる人間がいることを忘れてはいけない事も理解してはいるので黙って聞くことにした。
そんな高坂の長い話を聞いたお陰で車で、何時間も過ごした気分になったが目的地にはきちんと着いた。
「着きました」
「お前のお陰で長い出勤になったよ」
「またまた」
「言っとくが冗談じゃないぞ」
「さあ、元気に行きましょう!!」
高坂は朝から元気だった。
車で地下駐車場に止めて入り口には今野さんが立っていた。
「お疲れ様です」
「どうも」
「今野さん、わざわざすいません」
「いえ、ではこちらを首にかけてください」
渡されたのは関係者と書かれている、カードだった。
「こちらをつけて頂ければある程度の場所は出入りできるので、つけていてください」
「分かりました」
とぼとぼと暫く歩いて色んな場所の説明を受けた。
ある程度の部屋は見て目を使い前もって、爆弾などを仕掛けられてないかを確認した。
「高坂、疲れた」
「そうですね」
高坂には事前に目を使って会場の中を回ると言っているので、気を遣ってくれるかと思ったがこいつは自分が楽しんでいて配慮などが欠けていた。
「これで大体の説明と場所になりますが何か、確認したいことはありますか?」
「僕はないですが、観客の方も見たいのでそちらを見に行ってもいいですか?」
「ああ、どうぞ」
「じゃあ私も」
「お前はリハーサルが見たいだけだろ」
「そんな事ないですけど」
「まあいいや、お前には事前に見ておいてほしい場所をピックアップしているからそっちに行ってくれ」
「分かりました」
高坂は残念そうにスマホを確認し俺達は別行動をとった。
俺は観客席まで行くまで、これまですれ違った人間を目で見たが怪しい人はいなかった。
宛が外れたかと思いながら色んな観客席に行った。目を使いすぎて疲れが溜まったので目は使わずに観客席でリハーサルをしているアイドル達を見ていた。
各々立ち位置を確認したり指示を飛ばしている、怖そうな大人がいたりとライブが出来るまでの過程を見ていた。明日の当日には今以上の人間が入り混じるだろう、だから当日、目を使えば情報過多で倒れてしまうだろう。勿論、バイトなどで当日に合流するスタッフもいるのでどこから藤沢さくらを狙うかは分からない、以前俺は事後行動だと言ったが殺人を大観衆の前で行わせる訳にはいかない、そんな決意でリハーサルを見る。
狙撃なら人目につかない場所で行うだろうが接近で殺してくるかもしれない、色んなバリエーションを頭の中で確認する。いつだって予想外の方法で俺達の頭を悩ませているサマエルは当然本気で殺しにかかるだろう、どうやれば、どう準備すればいいのか昨日寝ずに考えた結果結論はもう出ている、その為にどんなスタッフが犯人かは大体予想がつく。それをピックアップして高坂にその場に行ってもらっているがあいつはちゃんと仕事をしているだろうか?そんな疑問が伝わったのか高坂が隣の席に座った。
「大神さんもいますね」
「そうだろうな」
「心太様にはあの子達はどう見えているのですか?」
「悪いがキラキラしているとは言えないな」
「そうですか」
高坂が乃木坂に執着している理由は分かっている。高坂には娘がいる、生きてれば同い年の子はいるのだ。それが自分の娘と重なっているのかもしれない。
「どうだ、お前にはあの子達はどう映っている?」
「私が語れば長くなるのを知っているでしょう」
「そうだったな」
「少し先ほど心太様との出会いを思い出していました」
「あれは衝撃的だったな」
「そうですね」
「今ステージに上がっている子達からは、不穏な色は見えないから安心しろ」
「そうですか」
「少なくとも、あのアイドルの中で藤沢さくらに殺意を抱いている人間はいない」
「それは良かった」
「一つ選択肢が消えた」
「そうやって絞り出すやり方は変わりませんね」
「お前と出会う前からこのやり方は変わってない」
「そうでした」
「で、どうだった?」
「やはり、当たりでした」
「やっぱりか」
「はい、あそこなら誰にも気づかれずに殺せそうです」
「そうか」
やはり、俺の予想通りだった。それならサマエルが本腰入れて仕掛けてくる場所も分かったならやることはもうここにはない。
「じゃあ、帰るか」
「もうですか?」
「だってもうやることないし」
「でも折角なら最後まで見たいです」
「俺は寝てないんだぞ」
「それは知りませんよ」
「馬鹿言うな、今にも寝そうなんだ」
「だから知りませんって」
「もうここで寝る!!」
「やめてください」
こうして、諦めた高坂は俺と共にライブ会場を後にした。
「お帰りー」
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
「どうだった?」
「何が?」
「何がってリハーサル」
「どうもこうもない」
「微妙な反応」
「仕方ないだろ、仕事なんだから」
「そっか」
そう言うと、安藤はそそくさと自分の部屋へと行ってしまった。
「あいつ、そんなに興味なさそうだったな」
「まあ、自分が明日行くのでそれ以外の情報は頭に入れたくないのでしょう」
「そういうものか?」
「分かりませんけど」
「高坂って意外と適当だよな」
「人生適当に過ごせられる方が楽です、それは何よりも心太様が分かってらっしゃるのでは?」
「それはそうだが」
「霞」
「はい?」
「明日はどうするんだ?」
「ライブ中も安藤様について行こうと思ったのですが、ご一緒になられる方にバレないようにと言われました」
「まあ、そうだよな」
「で?どうするつもりだ?」
「はい、それについては安藤様の友達としてついて行こうかと」
「やめとけ」
「はい、やめたほうがいいですね」
霞は、はて?と疑問でいっぱいだったが答えは出ていた。
「それはなんで、でしょうか?」
「霞は一番苦手な演技力が試されるんだぞ」
「それはばっちりです」
「どこからそんな確信がでてくるんだよ」
霞は最後までやる気だったが逆にばれた時にどうするんだと言われ、なにも言い返せなかったので黙って陰から見守る事にしたらしい。




