護衛
翌日、早速学校に潜入した。
朝一番に校長室で高坂と仕事の打ち合わせ、この仕事は、大神彩がサマエルに狙われていると言う事は校長と職員しか知らないので悟られないようにとお達しがありそして、職員室で日雇いの用務員として先生方に挨拶し高坂とそこで別れた。
「君が今日、日雇いで来た子か?」
「はい、河上心太です」
「河上君ね、僕は辰巳仁。辰巳でいいよ」
「分かりました」
辰巳さんは見た所四十代だろう。手を見ると切り傷が至る所にあった。
「河上君はいくつ?」
「十八です」
「じゃあ高卒でここに?」
「はい、特にやりたい仕事もなかったので日雇いのバイトで食い繋いでいます」
「そっか、まあ詳しくは聞かないけどさ、所で焼き芋好き?」
「大好きです」
「じゃあおやつは焼き芋だ」
用務員の仕事は意外と多かった、落ち葉を掃除やマンホールの中に溜まった泥を取るなどそこまで重労働はないかと思ったら今度は届いた荷物を指定の教室に運び込んだりと学校をぐるぐると動き回った、朝から動き周り働き、兎に角やることが多く時間が過ぎるのがあっという間に感じた、そして時刻は十二時が近づいた頃休憩として辰巳さんが焼き芋を焼いていた、その甘く美味しそうな匂いに釣られてつい辰巳さんの所へ行ってしまった。
「おお、河上君。丁度いい焼き具合になったから呼ぼうとしていたんだよ」
「いたただいて良いんですか?」
「うん、美味しいよ」
「ありがとうございます」
「お昼はどうするの?」
「パンとおにぎりです」
「それで足りるの?」
「いつもこれくらいですしそれに少しでも、食費浮かしたいですし」
「そんなんじゃ駄目だよ、食べ盛りなんだから」
「もう高校生じゃないんですから、食べ盛りは終わりましたよ」
「それでも、若いんだからちゃんと食べないと」
そう言って僕に弁当を手渡してくれた。
「これは?」
「いつも娘が作ってくれるんだ、今日は一人日雇いで若い人が来てくれるって言ったら、今の若い人はあんまり食べないだろうからってもう一つ作ってくれたんだよ」
「そうですか」
「もしかして、手作りとか駄目だった?それなら僕が二つ食べるし足りなければ焼き芋あるから」
「いえ、頂きます」
弁当は普通より少しでかめで蓋を開けると、ぎっしりと詰まった栄養満点のおかずにこれでもかと詰められたご飯見ただけで分かる辰巳さんの娘さんの愛が詰まっているのが伝わってくる。
それを、一口、もう一口冷たいお米が癖になるそしておかずも冷凍食品ではなく一つ一つ手作りなのが分かるとても温かいお弁当だった。
「河上君?」
「はい?」
「どうしたの?泣いているけど、もしかして口に合わなかった?」
それを聞いて自分が泣いているのに気づいた。
「えっとどうしたんだろう」
手で涙を拭いた、涙は一時的なものでそれ以上は流れることはなかった。
「いつもはご飯は一人?」
「いえ、同居している人がいるのでその人に」
「ルームシェアってやつか?」
「そんな感じです」
「そっか、で、どう?娘のお弁当」
「とても美味しいです、それに懐かしい味がします」
「お母さんのご飯でも思い出した?」
「そうですね、でも僕が十五歳の時に亡くなったんです。でもそれまでは毎日お弁当作ってくれてそれを思い出したのかもしれません」
「そっか、大変だったな」
「でも、そんな経験をしている人間は沢山いますし、自分が物心ついているまで生きてくれた事は恵まれていました」
「そうだな、でもいつ親が亡くなっても優しいご飯を思い出せる事は幸せだ。俺は料理なんて出来なかったけど妻が亡くなってから娘が料理覚えられるように料理のノートなんて残して死んでったもんだから俺も娘に感謝しているよ。俺は思うんだけどさ、[いただきます]って食材にだけじゃなくて作ってくれた人にも向けられるって思うんだ」
「そうですね」
それから、ご飯を食べて焼き芋に手を伸ばした。
「どう?うまいでしょ?」
「はい、甘くて美味しいです」
焼き芋を食べていると、女子高生が話しかけてきた。
「あ、辰巳さん。焼き芋?」
「そうだよ、食うか?」
「うん」
女子高生は三人隣に座っていると次から次へと人数が増えて七人まで増えた。
「辰巳さん、この人は?」
「日雇いで今日、来たんだよ」
そう言うと一斉に俺の方を見てきた。
「えっと、河上です」
「河上さんっていくつ?」
それから俺への質問が始まった。
「十八」
「じゃあ高卒か、で彼女はいるんですか?」
「残念ながらいないね」
「え~勿体ない顔、滅茶苦茶良いのに」
「言われたことないけどな」
「今までもいなかったの?」
「高校の時、留学でフランスに行ったときに一人だけ」
「まじ?バイリンガル?」
「まあそうだね」
「写真ありますか?」
俺はスマホを出してフォルダーを開き当時の写真を見せた。
「え?この人?」
「そうだよ」
「こんな美女どうやって捕まえたの?」
「お互い日本人でそれから日本の話では盛り上がってね」
「名前はなんて言いうんですか?」
「愛」
「綺麗な名前だ」
「今はどうしているの?」
「今は遠くの落ち着いた場所で暮らしていると思うよ」
「連絡取り合ってないんですか?」
「うん、喧嘩別れしちゃってそれっきり」
「なんで喧嘩別れしたんですか?」
俺は少し過去を思いながら、これくらいならいいよなと心の思い出を語る。
愛は意外と嫉妬をするので、あんまり話したくなかったがこれくらいならと口を開く。
「きっかけは些細で覚えてないくらい下らないことでね、でも謝る前に愛は僕の前から消えたんだ」
「探さなかったんですか?」
「探したよ、でも留学期間が決まっていたから結局そのまま」
「勿体ないな、こんな可愛い子逃すなんて」
「自分でもそう思うよ」
「じゃあ私、彼女候補に立候補していいですか?」
「冗談でも初対面でそう言う事言うもんじゃないよ」
「え~、意外と本気なんだけどな」
「そう言えば今は夏休みだけど、登校あるんだね」
「そうですね此処の高校は登校日が一日だけあります」
「まあ登校日って名目でちゃんと、宿題しているかの確認とこの後午後から全校集会で夏休み終わりの確認で終わりです」
そう言うと、女子高生は宿題やったかなんて確認で登校しないといけないなんて「面倒くさいよね」、なんて愚痴が始まった。
「そう言えば今日、教育実習で一人先生来たでしょ?」
「はい、高坂先生って言って滅茶苦茶イケメンでもう皆メロメロですよ」
「でも、あれは確実に彼女いるよね」
「それに、授業面白かったし」
高坂は仕事を忘れていないか、心配になった。
それは急な出来事だった。
俺たちの数センチずれた所で花瓶が落ちてきた。
「きゃー」
直ぐに女子高生の悲鳴で教室から窓を開けて何事かと、こちらを除く生徒がいた。
上を向くと人影があり、直ぐに学校の中に入り階段で屋上に向かったが、もう既に人は居なく騒ぎを聞いた先生が下で集まっていた、その中に高坂もいた、そして校門の直ぐ近くに軽自動車が止まっていて、今にも走りだそうとしていたのを見つけ、高坂が直ぐに軽自動車に向かうのと同時に俺は屋上から飛び降り地面に着地した。
それを見た女子高生や先生が口を開いて、びっくり人間を見る目で俺を見てきたが、それより今は花瓶を落とした犯人が乗っているであろう軽自動車に向かう。
高坂が時間を稼いでくれたおかげで軽自動車に、俺も追いつき窓ガラスを割って運転席から犯人を引きはがし殴り合いが始まったが実際は、俺が一歩的に軽く意識を失う程度に殴り、事は終わった、高坂も他の犯人を捉えた所で、犯人は二人だった。
気を失った犯人は見ると俺と同い年か大学生か、それくらい若い青年だった。
青年二人を縛って空いている教室に運んだ、教室の中には教員が複数人いて警察に電話していたり起きるまで待つ人もいたが、俺と高坂は少し離れた教室で校長と三人で話をしていた。
「こういう事態を避ける為に君ら二人を、此処に呼んだんだが」
「申し訳ございません」
高坂が謝るが俺は違和感を感じていた。
「僕らは神様ではないので犯行声明でもなければ、事前に犯行を防ぐのは不可能です」
「心太様!!」
「まあ、いいですよ。幸い怪我人もいなかったし」
「ただ変ではありますね」
「変?」
「あの場に大神彩はいなかった」
「確かに、ではなぜ?」
「分からんでも、イレギュラーな事態が起きているのは確かだし後はあの青年が目を覚ましたら聞くしかないな」
そんな会話をしていると教員が一人駆け込んで来た。
「校長!!犯人が起きました」
「で、犯行理由は?」
「それが、奇妙なことばかりこと言っていまして」
俺と高坂は犯人の青年がいる教室に行くと確かに目を覚ましていて、その場にいた教員の一人は今にも殴りかかろうとしていた。
それを高坂が止めて俺は青年と会話を始めた。
「君らいくつ?」
「んー、三つ」
青年は笑いながら可笑しな事をいいだし、反省の色も見せなかった。
「お前らいい加減にしろ!!」
一人の教員が怒鳴った。
「もういい、こいつらと会話は恐らく意味をなさない」
俺がそう言うと高坂が会話に入ってきた
「どういう事です?」
「ノンガウセだ」
「ノンガウセ?」
「南アフリカで流行し、今日本でも売買されている違法薬物」
「こいつらは薬物やっているって事ですか?」
「ええ、ノンガウセは今、日本でとても安くて手ごろに手に入ることで。若者で流行していて特徴は通常の薬物と同じで首に異常な程の汗、そして脳に興奮作用が送り込まれて通常の会話が出来なくなる程になる、それでもやめられないのがこいつらがやっている薬物です」
「何?君ノンガセ知っているの?」
「知っているが」
「じゃあノンがセちょうだ~い」
「お前らはノンガウセもらう為に花瓶を屋上から落としたのか?」
「そうそう、いつもは金取られるんだけどね、今回仕事が上手くいけば金はかからずにいつもの倍ノンガセ貰えるって言われたの、凄い良い話でしょ?ねえ失敗しちゃったからその話もなくなっちゃったけどね~」
青年は笑い転げてふざけ倒している。
「こいつらどうかしてる」
教員が信じられない者を見る目で青年たちを見ている、そんな目で見られているとは思っていない青年達は薬をくれと言い出して止まらない。
「お前らを雇った人間は知っているか?」
「知らな~い、トークが直ぐに消えるアプリでやり取りしていたから」
「分かった」
「ねえ、教えたんだからノンガセ頂戴よ」
「黙ってろ」
ノンガセをくれと懇願する青年を教員が相手にしながら警官が来るなり、生活安全課などで警官が複数到着し程なくして青年達は連れていかれた。
それから、数分経って教員は体育館で全校集会を始めていた。
「なんだか大変な事になっちゃいましたね」
「まあ、でもノンガウセを使っているのに会話ができたんだ、まだましだ」
「所で誰の指示であの青年を動かしていたのでしょうか?」
「恐らく俺はサマエルだと思っている」
「だとしたらなにが目的なんでしょうか?」
「分からんただ今回のサマエルの狙いは大神彩だ、それに関わる事だろう」
恐らく爆弾などを仕掛ける事はないとは思うけど、過去に例がなかった訳ではないので二手に別れ、爆発物がないか校内を見回るようになったが殆どは俺が目を使って校内を周り体育館の近くに高坂を配置する形になった。
数分間、外からの見て危険物があるような色はなかったのでこのまま用務員の仕事に戻ろうかと思っていた所辰巳さんに会った。
「さっきは凄かったね!!」
「辰巳さんは怪我はなかったですか?」
「俺は大丈夫だけど、さっき屋上から飛び降りてきたよね?」
「まあ、体は頑丈なので」
「そう言うことじゃないけどな」
「まあ、仕事しましょう」
「もういいよ」
「え?」
いきなり、くびになったのかとドキドキしてしまう。
「それは、どういう事ですか?」
「河上君って今日ただ日雇いで来た訳じゃないでしょ」
辰巳さんの言葉で本当の事を言いうべきか迷った。
「確かにただ日雇いで用務員としてここに来たわけではありません」
「そっか、じゃあ本来の仕事やりな」
「どういう仕事か聞かないんですか?」
「うん、言えるものなら最初から俺は知っているでしょう。でも俺に知らされてないって事は俺には知る権利がないってことだ。まあなんだ、世の中生きていく中で無知程恐ろしいものはないとか言うけど、俺は知らなくても生きていけるならそれで良いと思っているから」
「そうですか、でも最初に言われた仕事くらい最後までやりますよ」
「良いのか?」
「はい、投げ出すのが一番嫌なんで」
「そっか」
じゃあやろうかと辰巳さんが言いかけた時に、銃声と女性の悲鳴が聞こえた。
「今のは?」
「体育館の方ですね」
携帯に高坂から緊急事態の合図が送られてきた。
「さっきと言い、何が起きているんだ?」
「僕は体育館の方に行くので辰巳さんは警察に電話を」
「行くって相手は銃持っているんだぞ」
「大丈夫です、そう言う脅威から人を守るのが僕の仕事ですから」
それから辰巳さんはそうかと一言言い、倉庫から園芸用のナイフを俺に渡した。
「丸腰はまずいだろう、持っていけ」
「ありがとうございます、警察はさっき来たので直ぐに来てくれると思います、では」
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
そこから、走って園芸用のナイフを持ち体育館に向かう。
体育館の入り口近くには複数のお面を付けた長身の人間が五人いた、お面の人間たちは俺を見るなり銃を構えて銃口を俺に向ける、俺は眼鏡を外して目を使う。
目を使えば銃が向かってくる軌道が線で見えるし、当たっても痛覚を感じることもない。
だから臆せずに走りだし、園芸用のナイフで距離を一気に詰める。
銃弾を躱しながらナイフでお面の人間を刺し一人一人の動きを止める。それでも残った奴らは銃を撃つのを止めない、それすらも躱し何度もお面の人間を殺さない程度に刺して確実に動きを止める、俺はナイフで刺しても銃で蜂の巣にしても、死なないようなとある戦闘に特化した師匠に何度も殺されてかけながらも、訓練したので相手が銃を持ってようがライフル銃だとしても恐怖を感じる事はない、因みに目を使えば相手がどこに力を入れて次にどう動くのかも察知できるのだが師匠に目を使っても一発も殴る事すらできなかった。それを思い出し、戦闘訓練で体にしみ込んだ動きで相手の数を減らしていく、そうすれば一分もかからずに五人を戦闘不能まで落とし込んだ、一番後ろにいた奴の首根っこを掴みながら体育館のドアを蹴っ飛ばした。
中にいたのは、数にすると十人お面の人間がいた。
それぞれ銃を持ち生徒を取り囲むように一定の距離を保っていた。
「河上!!」
一番奥にいた人間が叫び、お面を外す。
そいつはいつぞやか俺がナイフで顔に傷をつけた人間だったが、確かサマエルの幹部だと記憶している、だがそいつと最後に会ったのは体に爆弾を巻き付けて自爆し、死んだはずの人間だった。なぜ生きているか分からず混乱した瞬間に九人からの弾丸がこちらに向かってきた。
「用務員さん!!」
先ほど焼き芋を一緒に食べた生徒が叫んだ。
俺は目を使い全て銃弾を避け近くにいたお面の人間を制圧し、人質に取ったがそれは意味をなさなかった、瞬時に人質ごと俺を殺そうと銃弾が再び俺に向かってくる。それでサマエルはそう言う組織だと再認識し今度は人質を壁にして人質が持っていた銃を拝借し、生徒の上で銃撃戦が始まり、生徒は恐らく生きた心地がしなかっただろう、殆どが頭を抱えて伏せていた。
「高坂!!」
サマエルの人間が俺に集中している内に高坂が隠し持っていた、銃で反撃をした。
俺は近接戦闘までは行かずとも銃の訓練では常に、インターポールでも上の成績だった事もあり、それに高坂は俺以上の銃の腕前でサマエルのお面の人間達を九人を行動不能まで追い込んだ、今度は顔に傷がある最後の男は近くにいた大神彩を立ち上がらせ、人質に取り外まで行こうとした。銃の腕前があるとはいえ一般人であり護衛対象に少しでも流れ弾が当たれば俺達の負けだ、だが殺されればそれも元も子もない銃を構えているが顔に傷がある男は大神彩を連れて外に出ようとした時に銃を捨てることを俺たちに言い、捨てないと直ぐに大神彩を殺すと言い出した、高坂は直ぐに銃を捨てたが普段の俺なら大神彩を避けてでも発砲するが、状況が状況がなので安全を重視し銃を捨てた。顔に傷がある男は銃を捨てた所を見て大神彩に銃を向け殺そうとした、その瞬間顔に傷がある男の後頭部に銃口が向けられた。
顔に傷がある男に拳銃を向けたのは、京野さんだった。
「俺達の勝ちだ」
「まだだ!!こいつを殺せば俺の勝ちだ!!」
そう言って、引き金を引こうとした瞬間、俺の拳銃が先に顔に傷がある男の腕に当たった。そして動きが止まった瞬間大神彩は確保され、お面の人間達は駆け付けた警察官に逮捕されたのだった。
警察の確認によって怪我人はいなかった、不幸中の幸いだった。
「京野さん、来てくれたんですね」
「久々にお前の緊急事態用の連絡だったからな」
俺は事前に京野さんに[E]とだけ携帯に送った、これは海外で一緒に仕事をした際緊急事態の時だけ送るエマージェンシーの頭文字だった。
「京野さん、ちょっと」
部下の佐々木さんが京野さんに話しかけた、そちらを見たら驚きが隠せなかった。
そこには顔に傷がある男が複数の警察官に取り押さえられながら、パトカーに乗せられる所だった、先ほど撃った場所は腕だったが撃たれた後は、多少動けない場所に撃ったつもりだったのだが。
「どうした?」
「それが腕からは血は流れず皮膚が裂けた場所から金属のパーツが見えたんです」
「どういう事だ?」
「分かりません」
俺は直ぐに先ほどの男が乗っているパトカーに向かい、腕を確認する。
そこには確かに血は流れておらず、機械なもので腕が出来ているかのような様子だった。
目を使い体を見ると普通の人間から見られる情報は見えずに、色も可笑しかった、先ほどは興奮状態で細部まで見られなかったが皮膚が裂けた、機械部分には真っ白な色だった。これは以前AIロボットを見た時に見られた現象だった。
「お前は何者なんだ?」
俺が問うと顔に傷がある男は一言。
「神鹿狼奈様はどこにでもいるぞ」
そう言った瞬間に目は見開いたまま、まるで電源が切れたように顔がガクッと落ち動かなくなってしまった。
「どうした?」
遅れて京野さんと佐々木さんが来た。
「分からない、意識が落ちたのか電源が切れたのか」
「電源?どういう事だ?」
「分からないが恐らくこいつが、動く事はもうない」
「なんなんだ?」
「取り敢えずこいつの体の全身調べてください」
「分かった」
それから、直ぐに教員に再度怪我人がいないか確認し、多少の切り傷などの軽傷以外はいなかったので安堵し俺は高坂と共に車で帰ろうとした時、京野さんに呼び止められた。
「河上」
「はい?」
「この子がお前と話したいって」
京野さんの後ろには護衛対象だった大神彩が居た。
「あの?」
「どうした?怪我はなかったか?」
「はい」
「じゃあなんだ?」
「心太様、年下に対してその話し方は良くないですよ」
「うるさい」
「やっぱり、心兄だ」
「ん?」
俺の事を心兄と呼ぶのは一人だけだった、昔から口が悪いのは自覚していたので年下にも怖がられていたのでこんな呼び方するのは小さい頃よく親戚の集まりで遊んでいた年下の子供だけだった。
「お前、彩か?」
「うん、久しぶり!!」
彩は千葉の親戚の集まりで遊んでいた彩だった、子供も俺と彩だけで年も二つしか変わらないのでよく親戚の家で会うとボールで遊んでいたりした、だが最後にあったのは俺が小学生の時で実に六年ぶりだった。
「彩だったのか」
「うん、もう最後にあったのは小学生だから最初は気付かなかったよ」
「そりゃそうだな」
中学生になったら親の仕事の都合で親戚の集まりには、参加出来なかったのと高校に進学してからは海外にいたので、気づけば六年経っていた。会うとよく俺の後ろについてきて一緒に遊んだものだ、友達が少ない俺にとって唯一懐いてくれた年下の女の子だった印象だったが最後に会ったとは見違える程に顔つきは可愛らしく大人びていた、俺が写真を見て何処かで見たことがあると感じていたのは彩だったからだ。
「あの?」
高坂がぽかんとしながら訪ねてくる
「なに?」
「えっとお二人の関係は?」
「親戚だ」
「え?」
「そうだ、今私、家族で東京に住んでいるんだ。だから家来てよ」
「アイドルの家に行くのはまずいだろ」
「大丈夫だよ、お父さんもお母さんも会いたがっていたし」
「じゃあこれ」
「何これ?名刺?番号しかないけど」
「取り敢えず、そこの番号か後ろに書かれている番号に電話すれば俺か、こいつにかかるからなにかあれば電話してくれ」
「分かった」
「じゃあ行くか」
「えっと、あの~」
高坂が明らかに混乱して固まっていた
「高坂~早く、運転」
「はい」
車に乗って自宅まで向かいながら高坂から質問攻めだった
「なんで親戚だって言ってくれなかったんですか?」
「だって俺だって気づかなかったんだからしょうがないだろ」
「それでもですよ!!」
「六年も会ってないんだから気づかないのもしょうがないでしょ」
「それはそうですけど」
高坂はため息をついて頭の中で整理しているという感じだった。
「所で名刺渡して良かったんですか?」
「名刺を渡す相手を選ぶのは許されているだろ」
「親戚だからですか?」
「それもある、俺にとっては世界で唯一の妹みたいな存在だからな」
「妹ですか」
「ああ、それに一度狙われた相手が俺が阻止したのは神鹿狼奈がサマエルのトップにいた時の話だ、だから現状それが変わる事もあるそれに彩はアイドルだ、ライブとかで大勢の目の前で殺される場合も考慮した結果だ」
「なる程」
「まあ、もし他に彩の周りに危害が及んだりしたらそれも守りたい」
「なんだか素直ですね」
「いじるな」
「あの?」
「なに?」
「大神さんの家に行く時私もついて行って良いですか?」
「ファンが家に行くのはあり得ないだろ、常識をわきまえろ」
「すいません」
「やっぱロリコンだ」
「やめてください」




