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小倉アイスバーとかき氷メロンふたたび ~コンビニ・イートインの僕らふたたび

<屈折系男子/山ちゃん vs 癒し系男子/高瀬>

中2の夏が終わった。土曜の午後、いつものコンビニのイートインで、山ちゃんはBLコンビと言われる高瀬に話しておこうと思っていることがあった……。中2の夏の連作短編、完結です。

 コンビニの外はどんよりと暑い。雲の厚い、でもその向こうから太陽の熱が滲み出しているような、そういう午後だ。

 夏休みが終わり、中2の夏がまあどうってこともなく終わり、2学期が始まっている。 土曜の午後、塾に向かう途中で、僕たちは暑さにやられた、みたいな感じでコンビニに入り、アイスを食べる。僕はいつもの小倉アイスバー、高瀬はかき氷メロン。

「ね、山ちゃん、僕って癒し系かな」

 高瀬が相変わらずの甲高い声で呟く。

「何で?」

「夏休み中に、二人の人からそう言われた」

「そだね」

 僕は気のない返事をした。

「あ、何か、反応うすっ!」

 高瀬はぽっちゃりの色白で、一緒に暇つぶしに通った市民プールのおかげで結構日焼けしたはずなのに、しばらく赤くなって、それですいっと色が抜ける。見た目ゆるキャラな高瀬は、ばあちゃんっ子で大事に育てられ、感情はいつも豊か、かつ表現も素直だ。

「いや、否定はしてないじゃん」

 ジブリ・アニメの再放送とかで、高瀬は小6くらいまではしょっちゅう泣いていた。それは少し、羨ましくもあった。

「――高瀬、あの、さ」

 僕にはでも今日は、癒し系云々ではなく、高瀬に話しておこうと思っていることがあった。

「え? 何、山ちゃん」

「うん。昨日の放課後、帰り別だっただろ?」

 僕も高瀬も帰宅部で、たいていは一緒に下校するのだけれど。昨日は違った。

「実はさ、昨日、榊に話したいことがあるって言われて、で、職員室に行ってたんだ」

 榊は担任教師だ。

「それって」

 高瀬は分かりやすく青ざめ、げっそりした声で言った。

「何か、悪いことしたの?」

「そうじゃなくって。……文化祭委員をやらないかって」

 11月に中学の文化祭がある。2学期が始まるとすぐにクラスごとに2名の委員を決め、その委員が中心になってクラスの出し物を準備していくのだ。始業式の日のホームルームで候補を募ったけれど、誰も立候補せずに担任預かりとなった。たいていは、ウェイ系から1人、非ウェイ系から1人。部活でも試合や出し物をしたりするから、自然、帰宅部にクラス委員のお鉢が回ってくる。無論、僕は非ウェイ系担当だ。

「で、何て答えたの? やっぱり断ったの?」

 高瀬は少し心配そうに尋ねた。

 僕は小6の秋から、目立つようなことは一切断ってきた。ことごとく断って、断って、断ってきた。

「うーん、そうなんだけど、なんだけどさ、――受けることにした」

「そっかあ! そうなんだ」

 僕の小6からの「拒絶の歴史」を知っている高瀬は驚いたみたいで、でも、嬉しそうだった。

「正式には週明けのホームルームで決まるけど、いちおう、高瀬にはその前に言っておこうと思って」

「ありがとう、山ちゃん。うん、良かったよ。山ちゃん、僕ホントは、山ちゃん、もっといろいろやればいいのにって、ずっと思っていたから」

「高瀬がそう思ってるのも分かってたし」

「ま、そうだろね。僕たちは、ウェイたちにBLって言われるくらいだし」

 僕が中学受験の準備をしていて、小6の秋に突然それを止めたことは、いつも一緒にいた高瀬は知っていた。でもその理由が父さんの失業だってことまでは、多分、知らない。ただ余程のことがあったんだろうってことは、分かっていたと思う。

 僕は勿論ショックだった。腐ったし、拗ねた。でもひねくれた僕は高瀬のように素直にそれを表すことが出来ず、内向していった。と同時に僕は、方向感覚みたいなものを失ったように思える。東京の受験塾まで週に何回も通い、家でも夜遅くまで勉強していた、そういう莫大な時間が急にぽっかりと空き、振り向けていたエネルギーも行く先を失った。当初のショックが収まった後も、僕は新しい行先を見つけることが出来なかった。ずっと迷い続けていた。いや、今もだ。迷い続けている。かつて受験の勝者だった父さんの今の苦労している姿もまた、僕を惑わせる。

 そして、たぶん、あれから2年かかって少しだけ分かったのは、「明確な行先」ではない。分かったのは、「明確な行先」なんかそもそも無いのかも、ってことなんだ。だから、無いなら無いなりに、やっていくしかない。

「でさ、山ちゃん、委員は全部で二人でしょ。榊先生、もう1人の委員は誰だって? あれでしょ、ほら、ウェイ系からでしょ、だいたい」

「あ、それ。うん、もう1人はさ、――ウェイ村だって」

「えー、ウェイ村なんだあ」

 ウェイ系の上村。僕のいとこの里奈の幼馴染みで、スポーツ万能少年。中学に入り、バスケ部で先輩とぶつかり、彼なりの正義を通して退部、結局、ウェイに走る。むっちゃモテる要素満載男子。たぶん、里奈もウェイ村が好きだ。気に食わない男子。だから僕と高瀬は、上村に「ウェイ村」ってあだ名を付けた。

「いいの? 山ちゃん」

「――悪いヤツじゃないんだよな」

「それは僕も分かってる」

「そう?」

「あの、さ、さっき、僕のこと癒し系って言った人、2人いるって言ったでしょ? そのうちの一人は、ウェイ村」

「マジか」

「山ちゃん、何か、ごめんね、隠してたみたいで」

「別に、俺ら、それこそBLカップルじゃないんだし。構わないけどそんなの」

 話しているうち、いつの間に、時間が過ぎている。そろそろ出ないと、塾に間に合わない。小倉アイスバーは棒だけになり、かき氷メロンは空のカップになっている。

「行くか」

 僕が促すと、

「うん」

 高瀬も立ち上がった。

「でも何か楽しみ」

 カップをゴミ箱に捨てて、コンビニを出ながら高瀬が言う。

「そう?」

「うん。実は、僕のことを癒し系って言ってくれたもう1人って村尾さん、山ちゃんのいとこの村尾里奈ちゃんなんだよね」

「え? なにそれ。おまえら、どこで会ってんだよ」

「へへへ、それはヒミツだよ」

「なんだそれ」

「村尾さんと約束したから」

「だんだん、ムカついてきた」

「ねえ、山ちゃん」

 高瀬は、明るい明るい曇り空を見上げながら言った。

「なんか、ちょっと楽しい秋になりそうじゃないかな?」

 それは、そうかもしれなかった。

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