第九十三話 この銃を使ったらいい
アライグマシティーは、東京23区を参考にした都市型ダンジョンだ。
その東京の新宿駅前が、雨傘神社の鳥居を潜った先となっている。
もちろん、ゾンビアクションサバイバルホラーだけあって。
「あ~~~~~」
「う~~~~~」
「はぁあああああああああ」
俺達を見つけたゾンビが、人肉を食らおうと殺到して来た。
そして言うまでもないコトだけど、ゾンビに噛まれたらゾンビになる。
もちろん大通連村雨なら、ゾンビなんか何万いても瞬殺なんだけど。
「こっちだ」
俺はそう言うと、駅前ビルの中の、1軒の店に駆け込む。
「待ってェな、ロックにぃ」
まずモカが、店に駆け込んで来た。
そしてモカは。
「ナンやのココ。初めて見るモンばっかや」
店を見回して首を傾げる。
ま、そうだろうな。
都市の構成は東京を参考にしたけど、設定はアメリカ。
銃砲店が普通にある場所としてプログラムした。
ここは、そんな銃砲店の中でも色々な種類の銃器が揃う店。
だからだろう。
「おお! まさかこれ程の銃が手に入るとは!」
ちょっと遅れて入ってきたジュンが、目を輝かせている。
いや、眼を輝かせてるのはジュンだけじゃない。
「こ、これは!」
「素晴らしい!」
「おお、この世界でコレが手に入るとは!」
「ここまで種類が豊富だと迷いますな!」
「実は疑っていたのですが……まさに圧倒的力ですな」
カキクケコも興奮して騒いでいた。
でもコレは、ダンジョンの入り口に設定したボーナスに過ぎない。
ま、確かに豊富な武器が手に入るので、ダンジョン攻略が一気に楽になる。
ダンジョンクリアを目指すなら、とてつもないアドバンテージだ。
でも今回の目的は、戦国エリアには存在しない高性能の銃。
つまり合戦で圧倒的な威力を発揮するアサルトライフルだ。
具体的に言うとⅯ16A4アサルトライフルを5000丁。
そして大量の弾薬を持ち帰る。
これが今回、アライグマシティーで行うべきコト。
ダンジョンクリアは、今はどうでもイイ。
「おっと、俺も武器を選ばないとな」
俺はそう呟きながら、自分用の武器を物色する。
拳銃じゃ射程距離が短いし、威力も低い。
かといって強力な弾を発射するリボルバーじゃ、連射力に欠ける。
となると。
Ⅿ4カービン
全長 756~838mm
重さ 3260g(本体のみ)
装弾数 20/30発
発射速度 700~950発/分
有効射程 500~600m
使用弾薬 5・56×45mm NATO弾
選ぶとしたら、これかな。
もちろん武器としての性能は、大通連村雨の方が遥かに上。
でもココに来た以上、やっぱりガンシューティングを楽しみたい。
というコトで俺はⅯ4カービンを装備して弾薬をマジックバックに収納する。
一方、ジュンとカキクケコは。
「これが、アメリカ軍が2022年に正式採用を決定したⅩⅯ5か。ワタシはコレにする。やはり最新型弾の銃を使ってみたいからな。それに弾はマジックバックに入れておけば幾らでも持ち歩けるし」
サイレンサーを取り付けたⅩⅯ5を選んだみたいだ。
Ⅿ4カービンが発射するのは5・56×45mmNATO弾。
対してⅩⅯ5が使用するのは、より強力な6・8×51mm共通弾。
強力だけど弾は大きいので、持ち歩ける弾数は少なくなるのが欠点かも。
でもジュンが言ったように、マジックバッグ持ちなら問題ない。
と、そこで。
「ロックにぃ。どないしたらエエか、分からへんのやけど」
モカが困り切った眼で、俺に泣きついてきた。
あ、そういやそうだな。
モカはこの世界で生まれたんだから地球の銃を知っているワケがない。
う~~ん、どうしようかな?
銃を撃つのは初めてだから、使いやすい銃がイイだろうな。
よし、決めた。これにしよう。
H&K ⅯP7A2
全長 638mm(ストック展開時)
重さ 1960g
発射速度 850/分
使用弾薬 4・6×30mm弾
装弾数 20・30・40発
有効射程 200m
備考 サイレンサー、レーザーポインター装着
「モカ、この銃を使ったらいい」
俺はレーザーポインター付きⅯP7をモカに手渡す。
「このスイッチを入れて、銃を構えてみるんだ」
「こうかいな」
モカが俺の言った通りにすると、壁に赤い点が浮かび上がる
「ほえ? ナンや、この赤い点?」
「その銃を撃ったら、その赤い光に命中する。だからゾンビの頭に赤い光が浮かび上がったトコで引き金を引けばゾンビの頭を撃ち抜ける。簡単だろ?」
ついでにサイレンサーも付いてるから銃声が小さいのもイイ。
もちろん、俺のⅯ4カービンもサイレンサーを装着してる。
「うん! これやったウチでも使えそうや!」
「後は、実際にゾンビを撃って練習だ」
「なんか楽しくなってきたわ!」
楽しそうなモカには悪いけど、ⅯP7を選んだ理由は、もう1つ。
ココにある弾丸には限りがある。
そして5・52×45mmNATO弾は全部、俺のマジックバックの中。
だからモカには、別の弾丸を使うⅯP7を選んだワケだ。
となると、ジュンとカキクケコが同じⅩⅯ5を使うと弾不足が心配になる。
が、そこは銃の専門家。
「あと、アタシはキャリコも持っていく」
「なら俺はショットガンを」
「ワタシは7・62×51mmNATO弾を使うⅯk11を」
「オレはAk―47を」
「Ⅿ2重機関銃をマジックバックに入れておく」
それぞれ使用弾が違う銃を別に選んでいた。
ついでに全員、ハンドガンを腰に装備する。
できるだけ違う弾を使うモノにして。
「さて、準備は整ったかな?」
俺が聞くと、全員が頷いた。
じゃあ、出発するか。
「俺に付いて来てくれ」
そう言って、俺は店の外に目を向けた。
カキクケコが駆け込むと同時に鍵を閉めた扉の外には、まだゾンビがいる。
ゾンビとの戦いを避けて、裏口から脱出するのが正解なんだろうけど。
「銃を手に入れたけど、俺はリアルで銃を撃ったコトないんだ。だからアライグマシティーの入り口付近である新宿駅前、つまり難易度が1番低い場所であるココで銃の練習をしたいと思うんだけど、皆はどう思う?」
俺は、皆にそう聞いてみた。
やっぱり実際にアライグマシティーに来てみるとプレイヤーの血が騒ぐ。
そして俺とモカの防御力なら、ゾンビに噛まれてもノーダメージ。
マジでゲームを楽しむのと変わらない。
でもジュン達にとって、危険は現実のモノ。
そんな余計な危険を冒したくない、と言われても仕方ない。
しかし。
「アタシも前世では、ゾンビアクションホラーが大好物だった。ロックがそう言ってくれるなら、ぜひとも挑戦したい。それに現代中に慣れる必要もあるしな」
ジュンはそう言うと、凄みのある笑みを浮かべた。
2023 オオネ サクヤⒸ




