第八十九話 ナニ驚いとんのや?
「攻撃力と防御力が1億5千万を超えている……こんなとんでもないステータスの持ち主が、この世に存在するなんて……」
かすれた声を上げるジュンの横では。
「なんじゃ、この憤怒降臨ってスキルは!? Ⅿpを消費する代わりに攻撃力と防御力と魔法攻撃と魔防力が4億も上がるだとォ!」
小六が両の拳を握り締めて叫んでいた。
そんなジュンと小六にモカが涼しい顔で言う。
「この程度でナニ驚いとんのや? ロックにぃのステータスは、ティティ―ツイスターに行く前から、今のウチより上やで」
「「え」」
ビタリと固まるジュンと小六だったが。
「あ、そういやウチもロックにぃのステータス見せて貰っとらんかったわ。ロックにぃ、ウチに見せて」
モカが俺にそういうのを聞いて、ガバッと俺に顔を向けてきた。
はいはい、見せてあげるよ。
なにしろモカは転生者じゃないから鑑定を持ってないからね。
というワケで俺は。
「ステータスオープン」
俺のステータスを表示した。
ロック
Lv 258
HP 9999万9999(1億0372万7680)
ⅯP 9999万9999(103727680)
攻撃力 4億4917万2900
防御力 3億5845万2900
魔法攻撃 2億2845万2900
魔防力 2億2845万2900
鬼神降し
(毎秒1000ⅯPを消費して
攻撃力・防御力・魔法攻撃・魔防力を+1億)
『怠惰の本気』
ⅯP1000万を消費する事により10分間、
攻撃力・防御力・魔法攻撃・魔防力に20億がプラスされる。
装備
大通連村雨 (攻撃力2億2千万 千斬自在)
神雷小通連 (攻撃力8000万 明王の護り刀)
顕妙連・極 (攻撃力6000万 1里飛刃 神秘の泉)
真・闘鬼の究極鎧&舜装の小手(攻撃力・防御力 1億3千万)
ちなみに「ステータス」と口にすると、自分にだけステータスが見える。
そして「ステータスオープン」と言うと、空中にステータスが表示される。
この空中に表示されたステータスは誰でも見るコトが可能。
でも表示されるデータは、かなり簡略化されたモノ。
詳しく知りたければ、鑑定するしかない。
「やっぱ、ロックにぃは流石や。ウチが強うなった時には、もっと強うなっとるんやさかい」
何故か嬉しそうなモカだったが、あれ?
そんなモカの横で、ジュンと小六が口をパクパクさせてるな。
「どうしたんだ? 声が出てないぞ」
そう俺が声をかけると、ジュンがペタンと床に座り込む。
「攻撃力が4億超え? 4億超えだよな? 4億超えでいいんだよな? ワタシの見間違いじゃないよな? はぁ、どのくらい役に立つか、どころか1人で戦国エリアを統一できる戦闘力じゃないか…………しかし4億か……4億……」
うわゴトのように「4億」を繰り返すジュンの横では。
「はは、なんてステータスだよ……足が震えて立ってられねぇ……ⅯPを消費する変わりに攻撃力・防御力・魔法攻撃・魔防力に20億が上乗せされるだと? って事は、最大攻撃力は24億もあるって事だよな? いや、鬼神降しがあるから最高25億オーバーか。チートなんて言葉に収まらないほどのチートじゃねぇか」
小六も床にへたり込んでいた。
「この2人が敵軍にいたら、全力で逃げるしかねェぞ、こりゃ。いや、逃げられる筈なんかないか。とにかく戦うという選択肢は一切ない、というコトだけは決定事項だな。いや、見た瞬間に寝返るのが正解かもしれねェな。とにかくロックに敵対するより自殺した方が手っ取り早い事だけは間違い無さそうだ」
そう漏らした小六に、俺は首を横に振ってみせる。
「いや、俺は戦国エリアで暴れる気は無いぞ。というか国盗りゲームに関与する気は一切ないから、俺と戦場で出会う心配なんかする必要なんか全くないぞ。あ、喧嘩を売ってくるヤツがいたら、ちょっとは抵抗するケド」
「ウチもやで。天下なんかとってもメンドイだけや。まあ、もしもウザいヤツがおったら、ちょっとシメちゃるけどな」
モカも、そう言ったんだけど。
「その『ちょっと』で国が滅びそうだがな」
ジュンは青い顔のままだし。
「ジパングの地が無事でありますように」
小六は天を仰いで、何かブツブツ言ってる。
「大げさやな」
モカの呟きにジュンと小六がブンブンと首を横に振る。
「いや、本当に天下を取れる戦闘力なのだ。ワタシ達がやっている事がママゴトに見えても仕方ないくらいの、な」
「2人とも、マジで笑えねぇ戦闘力なんだって。特にロックはヤベぇ。敵を国ごと消滅させる事だって出来る強さなんだぞ。戦国シミュレーションゲームだったらゲームをやる意味がないくらいの圧倒的戦闘力なんだ」
「そうなん? なんか実感、湧かへんけど」
モカのキョトンとした顔を見て、ジュンが小六に囁く。
「小六よ。モカの年齢を考えると、今までロックと行動を共にしてきたのだとワタシは思う。つまりモカは、ロック以外の人間の事を殆ど知らないから、普通の人間とはかけ離れた感覚になってしまったんじゃねえか?」
ジュンに言われて小六がパンと膝を叩く。
「なるほどな。ロックが基準なら、自分がどれほどチートか分からなくても仕方がねェ。なにしろロックの最大攻撃力は24億超なんだから」
「そうだな。恐ろしい勘違いだけどな」
「違いねェ。早く勘違いを正してやらないと、万人単位で死人が出るぞ。いや100万単位で人は死んでも不思議じゃないがな」
小六に言われてジュンの顔からサッと血の気が引く。
「まさかそれをワタシにやれと?」
「だってお前さんは、これからロックとモカと行動を共にするんだろ。ならお前さんがやるしか無ぇじゃねぇか。無用な死者が出てしまう前に」
「う……いや、しかし……ワタシにだってやれる事とやれない事が……というか絶対に無理だろう……でも、行動を共にする以上、力を制御して貰わないとワタシの部下に死人が……」
ジュンは苦悩に苦悩を重ねた末。
「仕方ないか……想像を超える戦闘力を得る以上、想像を超える試練を潜り抜けなければならない、という事なのだろうな」
ジュンは悟りを開いた苦行僧のような顔で呟いた。
が、一瞬で戦人の顔になると。
「ともかくロック、モカ。雑賀の里に向かおうと思うが、準備は良いか?」
俺とモカに聞いてきた。
もちろん、俺は何時でも構わないので。
「いつでもエエで!」
モカがそう答えると、さっそく出発する事になった。
「雑賀の里は、巨岩の城から歩いて3日ほどの距離にある。結構近いから、結構前から付き合いがあるんだ」
「へえ。で、その雑賀の里ちゅうトコには、どんくらいの人が住んどるん?」
「5000人くらいだ」
「5000人!? そんなに大きな町なん!? 雑賀の里いうから、小さな村やと思ってたわ」
「ヤタガラスの団は1500人ほどなのだが、当然ながら雑賀の里の住民全員が戦場で戦うわけでは無い。鉄砲鍛冶、火薬を作る職人、そして畑や田んぼや家畜の世話をする者がいないと里を維持していけないからな。女子供や老人もいるし」
「じゃあ暮らしは自給自足なんや」
「殆どはそうだな。生活魔法なら殆どの者が使えるから、飲み水や灯りや調理にも困らないし。しかし戦国エリア以外の場所との交易は必要だ。トイレはシャワートイレだし、本や漫画などの娯楽は無くてはならない物となっている」
「戦国エリアなのに、シャワートイレ?」
「それはそうだろう。戦国エリアといえどもリアルなのだ、ゲームとは違う。だから快適を求めるのは当然の事だろう?」
「そう言われたらそうやな」
モカとジュンが仲良く話しながら歩いてる。
仲の良い姉妹に見えて、微笑ましいな。
こうして旅するコト3日。
俺達は雑賀の里に到着したのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ




