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   第八十八話  ブッチャケ過ぎとちゃう?






 大量の軍用ライフルを手に入れる手伝いをすると俺が答えると。


「やはり噂は本当だったのか!」

「これでヤタガラスの団は無敵だ!」


 小六とジュンが、文字通り飛び上がって喜んだ。


「本音を言うと、ロックと嬢ちゃんには蜂須賀一家に力を貸して欲しかったんだけどよ、そこまで願うのは贅沢ってモンだな」

「その通りだ、小六。軍用ライフルによってワタシ達は圧倒的に有利な立場で戦いを始められるのだから、それで満足すべきだ。さて、軍用ライフルが手に入ったら、どの国から攻めるべきだろうか。やはり1番近い、尾張の国かな」


 ジュンのセリフに、俺は思わず声を上げる。


「尾張の国? ファイナルクエストがリアルになって256年もの年月が経過してるのに、まだそんな国が残っているのか?」


 俺の質問に、ジュンが丁寧に答えてくれる。


「ああ。さっき説明したが、戦国エリアは何度も統一され、また何度も分裂を繰り返してきたのだが、だいたい元の国単位で分裂するんだ。なにしろ城や村や畑なんかが1つの生活圏を作りあげているからな」


 なるほど。


 代々受け継いで来た、畑や田や山や川によって成り立つ生活圏。

 その最小単位は村だろう。

 つまり地形や地域的特性によって村は成立している。

 なので天下が統一されてようが分裂してようが、村という単位に変化はない。

 だから地形的にまとまった地域を支配していった場合。

 昔の国と同じような区分けに落ち着く、というワケだ。


「そういった小さな生活圏を治めるのが、豪族とか呼ばれる者達で、その豪族達を取りまとめて国を大きくしていったのが大名だ。そして今の戦国エリアは偶然だろうが、初期の戦国エリアに限りなく近い状態なんだ。だから小田や武田や上杉や今川といった大名が覇権を争っているんだ」

「つまりファイナルクエスト初期と、殆ど同じ状況ってワケか?」

「その通り。織田信長が尾張の国を継いだばかりの状態と、ほぼ同じだ」


 つまり日本の戦国時代と殆ど同じってコトらしい。

 でも同じなのは状況の設定まで。

 どの大名と手を結び、どの大名と戦うか?

 戦法は? 統治は? どんな産業を育てて国を豊かにする?

 その選択により日本の歴史とは、かけ離れた結果となるだろう。


「一応、尾張の国を手に入れようと思う。そしてそれを足掛かりにして天下統一に向かって突き進む。考えただけで、ワクワクしてくる」


 そう言ってからジュンは真顔になる。


「でも、ここはリアル。ファイナルクエストとは、かなり違ってくるんだ。例えば兵士だけど、敵を12人倒さないとレベル2にならないだろ?」


 そういやそうだった。

 レベル2になるのに必要な経験値は12。

 つまり戦場で敵を12人倒さないとレベル2になれない。


「けど戦場で12人も敵を倒すなんて、普通の人間に出来るワケがない。それが出来たら英雄と呼ばれるだろうな」


 日本人なら誰でも知っている関ヶ原の戦いを例にとると。

 実際に戦った兵の数は西軍35500人、東軍45000人ほど。

 そして死者数は8000人ほどと言われている。(諸説あります)

 つまり敵を1人も倒してない兵の方が多いワケだ。

 だから戦場で敵を12人も倒してレベル2になるなんて不可能に近い。


「そして戦国エリアは、戦国シミュレーションを楽しむ為の場所だから、生態系は戦国時代と同じ。つまり戦国エリアにはモンスターは生息してない。だからモンスターを狩ってレベルアップも出来ない、というワケだ」


 ジュンが、そう言ったコトで。


「ならモンスターがおるトコに行ったらエエやん」


 モカが首を傾げた。


「スライムやったら普通の人間でもなんとか倒せるんやさかい、スライムを12匹倒してレベルアップや」

「ええと、モカと呼んでいいかな?」

「かまわへんで」


 頷くモカに、ジュンが説明を始める。


「モカのいう通り、スライムくらいなら、鉄砲で簡単に倒せる。しかし問題は、モンスターが生息する地域まで歩いて3週間はかかるコトだ」

「別にエエやん、3週間で強くなれるんなら」

「ワタシ1人なら、それでもいいんだけどな」


 ジュンは苦笑するとピッと指を立てる。


「旅したら食費と宿泊費で、1日1万ゴルドくらいはかかるよな? 3週間なら21万ゴルドだ。そしてモンスターと直ぐに遭遇できるワケじゃない。下手したら何日もかかってしまう。で、レベルアップしたとしても、そこからまた3週間かけて帰って来ないといけない。合計で、50万ゴルドくらい必要となるだろうな」

「必要経費と思って、諦めるしかあらへんのと違う?」


 まだ問題がナニなのか分かってないモカにジュンが続ける。


「問題は、ワタシ1人が強くなっても仕方ない、ってコトだ。ヤタガラスの団全員が強くならないと、大きな戦力にならない。となると1500人分の費用が必要となる。とてもそんな金、用意できない」

「なるほど」

「あるいは冒険者として経験値を稼いで、ステータスをカンストさせれば、もっと少人数でも戦に勝てるかもしれない。ロックやモカくらい強ければ、簡単に戦国エリアを統一できるだろうな」

「ならそうすればエエやん」


 アッサリと言うモカに、ジュンが苦笑する。


「普通の人間がレベル99になろうと思ったら何十年もかかる。いや、人生を費やしてもレベル99に届かない者の方が多い。それなら鉄砲の練習に時間を費やした方が、遥かに効率的だ。なにしろ敵も、殆どがレベル1の人間なんだから」

「そう言われてみたら、そうやな」


 と、モカが納得したところで。


「それじゃあロック。モカ。軍用ライフルが手に入れる為の準備をしたいので、ヤタガラスの団の本拠地である、雑賀の里に1度、戻ろうと思うが構わないか?」

「もちろん構わない。準備が必要なのは当然だ」

「感謝する」


 ジュンはそう言うと、小六の胸をドンと叩く。


「小六。天下を取れる武器を持ち帰るから、楽しみにしていてくれ」

「おう! 情報を集めながら待っているぜ」


 と、そこで小六が俺とモカに目を向けた。


「ところでお2人さん。最後に2人を鑑定させてくれねェか? 今後の参考にするからよ」

「参考ってナンの?」


 聞き返すモカに小六がニッと笑う。


「ティティ―ツイスターで、どんな力が手に入るか、とか、万が一戦場でロックとモカに出会ったらどうするか、とかだな」


 という小六にジュンも便乗する。


「ワタシも鑑定したいな。なにしろココはファイナルクエストの1部。何かのイベントをクリアしないと武器は入手できないんだろ? だから戦万が一の事態に備えてロックとモカの戦闘力を確認しておきたい。というか、どこまで敵を任せて良いのか知っておきたい」

「2人ともブッチャケ過ぎとちゃう?」


 モカはそう言いながら俺を見上げる。

 この顔は鑑定させてイイと思ってる顔だな。

 うん、構わないと思うぞ。

 と俺が頷くと。


「ええで」


 モカが、そう答えた。

 そして小六とジュンは鑑定を発動させると。


 Lv    594

 HP    41237820

 ⅯP    41237820

 攻撃力  158569700

 防御力  158569700

 魔法攻撃  63809700

 魔防力   63809700

 真・鬼王降し

(毎秒1000ⅯPを消費し、

 攻撃力・防御力・魔法攻撃・魔防力+5000万)

 憤怒降臨

(400万ⅯPを消費する事により10分間

 攻撃力・防御力・魔法攻撃・魔防力に+4億)

 魔防力    63809700

 装備   闘鬼の究極鎧  (攻撃力9500万 防御力9500万)

      10倍強化顕妙連(攻撃力2000万 神秘の泉)

      取り出しの指輪  舜装の小手


 というモカのステータスを視たのだろう。


「な!!?」


 ジュンは顔色を変えて息を呑み。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 小六の絶叫が巨岩の城に木霊した。









2023 オオネ サクヤⒸ

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