第八十七話 その2人がそうなのかな?
「ええと、あのロック君、本当にそう思う?」
「そう思う?」
赤い顔でそう聞いてきたヨーコさんに、俺がそう聞き返すと。
「ロックにぃ、力を手に入れたんやさかい、さっさと戻るで!」
モカに腕を思いっきり引っ張られた。
「え、もう帰っちゃうの?」
妙に子供っぽく口を尖らせるヨーコさんを、モカがジロリと睨む
「堕天使さん達、放置されて困っとるやん。放っておいてエエんか?」
「あ!」
そう言われて、ヨーコさんが慌てて高位堕天使たちに向き直る。
「失礼したしました。ご案内いたしますので、ご同行願いますか」
「構わぬ。堕天したとはいえ、我々も元は人を愛する天使。恋する乙女の邪魔をするほど無粋ではない。」
「こ、恋する!?」
またしてもボッと赤くなるヨーコさんに、堕天使が一斉に笑う。
「今回の召喚はいつもと違い、楽しいものになりそうだ」
「人の恋。いつ見ても良い」
「これほど楽しいモノはありません」
「頑張るのだぞ、命短し者よ」
「なんなら相談に乗るぞ」
「うむ。我々は沢山の恋を見てきたゆえ」
「お願いですから黙って付いて来て下さい!」
必死に頼み込むヨーコに、高位堕天使たちは、もう1度笑い声を上げると。
「では案内するが良い」
妙に軽い足取りでヨーコと一緒に晩餐の間を出て行った。
「自分に正直に生きよ」
最後に、俺とモカにウインクまでして。
そして取り残された俺とモカは。
「どういう意味か分かるか、モカ?」
「分かるような、分からへんような?」
しばらく顔を見合わせたあと。
「帰るか」
「ちょっと疲れたかも」
とにかく巨岩の城に戻る事にしたのだった。
そして巨岩の城に到着するなり。
「おう、無事に帰ってきたか」
小六が、息を切らせながら走り出てきた。
「自信満々で出て行ったから大丈夫だと思っていたが、それでも心配したぞ」
へえ、心配してくれてたのか。
じゃあ、ちゃんと報告はしておかないとな。
というコトで俺は怠惰、モカは憤怒の力を手に入れたコトを教えると。
「マジかよ!?」
小六は目を丸くした。
「最初に会った時ですら超絶的な戦闘力を持ってたのに、それを遥かに超える強さを手に入れたってェのか!?」
と大声を出す小六の後ろから。
「小六殿。その2人がそうなのかな?」
良く通る声と共に、長身の女性が現れた。
180センチを超えてるだろう。
整った顔は、キレイというよりカッコイイ。
年齢は20代かな。
ゴツくないけど、鍛え上げた体つきをしている。
美しくて強靭で、でもしなやかな、ネコ科の猛獣のような女性だ。
「ワタシの名は、11代目雑賀孫一。傭兵集団「ヤタガラスの団」の団長をやっているのだが、親しい者は、本来の名であるジュンと呼んでいる。もちろんお2人さんにはジュンと呼んで欲しい」
ジュンはそう言うと、俺の前に立つ。
「ワタシは転生者でな。ファイナルクエストじゃあ戦国シミュレーションにハマったクチだ。だからココに転生したとき、戦国シミュレーションの知識で、のし上がる事にしたのだ」
ジュンの話によると。
傭兵集団「ヤタガラスの団」は、火縄銃で戦う傭兵集団らしい。
雑賀の里に暮らす人々によって構成されていて、傭兵の数は1500人。
使いようによっては、戦を左右する戦闘力を持っている。
そしてファイナルクエストがリアルになって256年。
戦国エリアを統一した者もいたが、年月が経過すると国は分裂。
また戦国時代が始まる。
そして再び誰かが統一、またまた分裂して戦国時代、の繰り返しらしい。
「そしてちょうど今は、沢山の勢力が乱立する戦国の世。戦国シミュレーション大好きのワタシにとって、最高の舞台が整ってるってワケだ」
「ワタシにとってじゃなくて、ワタシ達だろ」
と、話に割り込んできたのは小六だ。
「ジュンが言った通り、今の戦国エリアはまさに群雄割拠の状態なんだ。しかも天下統一を狙うのは、実際の戦国時代を知っている転生者ばかりでな。だからノブナガが桶狭間の戦いで今川に勝つ事も無いだろうし、関ヶ原の戦いで徳川が天下を取る事も無い筈なんだ。つまり誰にでもチャンスがあり、誰でも滅ぼされるリスクがあるワケだ。そこでだな……」
小六がそう行ったトコで、ジュンが話を奪う。
「ヤタガラスの団は、この小六の蜂須賀一家と手を結んで戦国の覇者を目指す事にした。鉄砲が戦いの主力になった今、1番の戦闘力を持つのは火縄銃の専門家集団であるヤタガラスの団だ。そしてもっと重要なのは情報戦だが、その情報戦において頭1つ飛び出ているのが小六なんだ。だからワタシと小六が手を組めば、天下統一は必ず成る」
確かにそうだと思う。
銃がいかに有効か、なんて転生者なら知り尽くしているハズ。
なら戦国エリアでの戦いの主力は銃だ。
つまり近代戦に近い形になっていると思う。
となると戦いを決めるのはジュンが行った通り、情報と銃の数と質。
ヤタガラスの団と蜂須賀一家同盟が天下を取る事も不可能じゃない。
狙撃手1500人のヤタガラスの戦闘力は飛び抜けているだろうから。
と、納得する俺に、ジュンが真剣な目を向けてきた。
「しかしヤタガラスの団1500人の腕は確かだが、それだけで戦いに勝てるワケでもない。なにしろ誰もが銃の威力を知ってるから、全ての敵も銃で武装しているからな」
そういや実際の戦国時代でも3000丁の銃を持つ大名なんて何人もいた。
銃の威力を知るココじゃあ、物凄い数を持っててそうだな。
と思いきや。
「天下を狙ってる大名が持ってる火縄銃の数は5000丁前後。いくらヤタガラスの団が狙撃の名手ぞろいでも、無傷で勝ち進むコトは出来ないだろう」
大名達が持ってる銃の数は、思ったより少なかった。
という思いが顔に出てたんだろう。
「火縄銃の値段は200万ゴルドが相場だ。どの大名も自分の国をやっと平定したばかりだから、5000丁を買うのが精一杯なんだ」
ジュンが、そう説明してくれた。
「それに火縄銃とは、鉄砲鍛冶がその卓越した職人技で1丁1丁、丹念に仕上げる芸術品。いくら金を積んでも直ぐに出来上がるモノではない」
と付け加えるジュンに、俺は聞いてみる。
「でもこの世界が作られてから200年以上が経過してるんだろ? なんで近代手兵器を作らなかったんだ?」
「そうだな。たとえば軍用ライフルを作るとしよう。でもその為には材料となる鉄とレアメタルが必要だ。鉄はともかくレアメタルなど、どうやって手に入る? その上、鋼鉄を製造するには高性能の溶鉱炉が必要となるが、その溶鉱炉を建設するだけでも大事業だ。しかも銃を作る為の工作機械が何種類も必要となる。その工作機械を動かす為の動力も必要だ。もし電力で機械を動かすとなると、発電所を建設しないといけない。もうお手上げだ」
言われてみたら、その通り。
何もないトコから軍用ライフルを作るなんて国家規模のプロジェクトになる。
「しかも、この世界には魔法がある。それほど莫大な費用を投入するなら魔法を覚えた方が遥かに安上がりだ」
と、そこでジュンの目がギラリと光る。
「しかし戦国エリアのどこかに大量の軍用銃が隠されている、という噂を聞いた事がある。普通なら笑い飛ばすトコだが、堕天使の力を手に入れるより遥かに現実的な話しだと思う。そこで尋ねるが、オマエなら知っているのではないか? 大量の軍用ライフルを手に入れる方法を」
そうきたか。
う~~ん、でもなぁ~~。
俺が悩んでいると、小六まで詰め寄ってきた。
「オレが紹介状を書いたから、ティティ―ツイスターでとんでもない力を手に入れる事が出来たんだろ? なら、それに見合うだけの事をしてくれても良いんじゃないか? もちろん無理のない範囲で構わない」
そこまで言われたら、しかたないか。
確かに堕天使の力を手に入れられたのは小六の紹介状のお陰だし。
なので俺は。
「手を貸すのは、銃を手に入れるトコまでだぞ」
ジュンと小六に、そう答えたのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ




