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   第八十六話  ロックにぃのアホ!





「あ、ロックにぃ~~! ウチ、やったでぇ!」


 能天気な声を上げるモカを視て、ヨーコの顔が強張る。


「あの気配、まさかサタン!? いえ、そんな事、有り得る筈がないわよね。あんな小さな女の子が、憤怒の力を手に入れるなんて」


 無理やり自分に言い聞かせるヨーコに、ルシファーが首を横に振る。


「いや、あの気配はサタンに間違いない。どうやったか見当もつかないが、あの少女はサタンの力を手に入れている」

「お? 見ただけで分かるんか? さすが高位堕天使や、鑑定せんでも分かるなんて大したモンやで」


 ブイ、と手を突き出すモカを、ヨーコは茫然と眺めていたが。


「そっか、そういう事なのね」


 フッと小さく笑うと、何度も頷く。


「怠惰と憤怒の力を手に入れるなんて信じられないけど、逆に2人も高位堕天使の力を手に入れた者が出現した以上、個人が堕天使の力を手に入れる方法がある、と考えた方が良さそうね」


 そしてヨーコは、俺とモカの顔を交互に見つめた。


「つまり2人はかなり、いえ物凄くファイナルクエストをやり込んだプレイヤーって事ね。おかしいと思ったのよ、ティティ―ツイスターに、こんな小さな女の子がやって来るなんて」


 ヨーコはモカの頬に優しく触れてから、俺に視線を移す。


「怠惰の力を手に入れるほどの知識を持つアナタなら、安心して良いわね。だって堕天使の力を悪用したプレイヤーの話しなんて、聞いた事ないもの」


 そしてヨーコの目に、ちょっと困った光が浮かぶ。


「できれば堕天使の力を得る方法を教えて欲しいけど、無理よね?」


 こんな美人さんに頼まれたら、思わず教えてしまいそうになるけど。


「無理ですね」


 俺はきっぱりと言い切った。

 というか、断るしか選択肢はない。


「堕天使の力を得る方法を探し出すだけの実力を持たない者に教えても、命を落とすだけです」


 俺だってスキル『鬼神』を持ってなかたらゲームオーバーだったし。


「それに公開するには危険過ぎる情報です。万が一を考えると、教えるコトは出来ませんよ」


 俺がそう言うと、ヨーコはホウ、とため息をつく。


「やっぱりそうよね。まあ自分で謎を解くのがファイナルクエストのプレイヤーですものね。例えリアルの世界となった今でも」


 そしてヨーコは真面目な顔になると。


「でも、たまには冒険者ギルドの依頼も受けてね」


 そう頼んできた。


「リアルで困っている人は沢山いるのに、問題を解決できる強い冒険者の数は凄く少ないのだから」

「このジパングでもですか?」


 思わず聞き返す俺に、ヨーコが首を傾げる。


「え? どういう意味!?」

「だって父さんと母さんが、何年も前から依頼を受けまくってるんだから、かなりの数の依頼が解決されたと思ってました」

「父さんと母さん?」

「ダンとモーリっていうS級冒険者です」


 俺がそう言うと、ヨーコが目を丸くする。


「え!? じゃあキミが、あのロックなの!? グラッグとムサシが褒め倒していた、あのロック!?」


 おや? 話し方が一気に砕けたぞ。


「グラッグさんとムサシさんを知っているんですか?」

「もちろんよ。だって昔、グラッグとパーティーを組んでたんだから」


 それを聞くなり、モカが口をはさむ。


「グラッグさんと昔パーティーを組んどった? ちゅうコトは、若そうに見えるけどホンマは……」


 あ、モカの馬鹿!

 女性にその話題は……。


「あら、お嬢ちゃん。口は禍の元って言葉、知らないのかしらぁ~~」


 ……遅かったか。

 怠惰の力を得た俺でさえ足が震えるほどの圧を、ヨーコが放った。

 その圧に直撃されたモカが、コクコクと頷く。


「お姉ちゃん、ホンマにキレイや。ウチ、心の底からそう思っとるで」


 震える声で、そう絞り出したモカに、ヨーコがニコリと笑う。


「イイ子ね~~。正直な子、私は好きよ~~」

「ハイ、アリガトウゴザイマス」


 モカの目から生気が失われてるな。

 よっぽど怖かったんだろうな。


 え? 俺?

 もちろん、怖かったです。

 マジで、もう少しで漏らすトコでした。

 後でモカに、絶対に口にしていけない事案について教えておこう。

 と心に誓う俺に。


「ところでロック。憤怒の力を手に入れたキミのステータスを視ていい? できればそちらのお嬢ちゃん……あ、モカって言うの? そのモカのステータスも視たいなぁ」


 ヨーコが、そう頼んできた。

 いやグラッグさんの元パーティーならヨーコさんと呼ぼうかな。


「グラッグさんの元パーティーメンバーのヨーコさんだから構いませんけど、他言無用でお願いします」

「もちろん。そんな事したらエリちゃんに、どんな目に遭わされるか」


 ヨーコさんがブルリと体を震わせる。

 うん、エリさんまで知ってるのなら、グラッグさんの仲間で間違いない。

 だから俺は、モカに頷いて見せる。


「ヨーコさんになら鑑定してもらっても心配しなくていいよ」

「はなから心配してへんもん。せやさかい、いつでも鑑定してや」

「じゃあ遠慮なく」


 さっそくヨーコさんは、モカを鑑定すると。


「まさかこんなステータスを目にする事があるなんてね。ホント、グラッグに聞いてた以上よ。というか、ゲーム時代でも、こんなステータス見たコト無いわね」


 深いため息をついた。


「マジで化け物の領域よ。どうやったら、こんなステータスになるのかしらね」

「憤怒の加護を手に入れたらこうなるで」


 モカがそう言うと、また溜め息をつかれた。


「それを実行できる時点で、既に化け物の領域よ」


 ヨーコさんはそう呟くと、俺に疲れたような目を向ける。


「なんか鑑定するのが恐ろしくなってきちゃったけど、ロック君。キミを鑑定していいかな?」

「いつでもどうぞ」


 そしてヨーコさんは、俺のステータスを鑑定すると。


「はぁ~~。やっぱ止めときゃ良かった」


 今までで1番深いため息をついた。


「なに、このステータス。破壊神に匹敵するんじゃないの」


 なんかやけ気味のヨーコさんに言っておく。


「破壊神のステータスは、今の俺より上ですよ。ま、破壊神程度、そのうち追い抜きますけど」

「サラッと凄いコト言った!」


 ヨーコさん、最初は妖艶な超絶美女だったのにドンドン砕けてくな。

 でも、この方がずっと魅力的かも。

 だって黙ってると、キレイすぎて怖いもん。

 なんて俺が、考えてると。


「ロック君、なにニヤニヤしてるのかな~~」


 ヨーコさんが、俺を睨んできた。

 ちょっと頬を膨らましている顔が、妙に可愛い。


「あ、最初に遭った時より、今のヨーコさんの方が可愛らしいな、と思って」


 あ、反射的に正直に答えてしまった。

 その瞬間。


「え?」


 ヨーコさんが、ボッと真っ赤になり。


「ロックにぃのアホ!」


 モカに尻を蹴飛ばされたしまった。

 俺、なにかやらかしました?








2023 オオネ サクヤⒸ

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