第八十五話 モカの視点
「ほならロックにぃに教えてもろた通りにやってみるかいな」
モカはロックがハスキー美女に案内されていった後、そう呟くと。
「ウチも案内してェな」
ヨーコに屈託のない笑みを向けた。
(こんな笑顔が出来る、しかもこんなに小さな女の子が、赤文字の紹介状を持ってきた? 何かの間違いじゃないかしら? だいたいここは娼館。こんな小さな女の子が来る筈ないのに)
そう思うヨーコだったが、それを調べる手段がない。
仮に調べる手段があっても、調べる時間がない。
なにしろモカは目の前にいて、案内しろと言っているのだから。
それにヨーコの任務は高位堕天使に力を貸してもらう事。
赤文字の紹介状を持ってきた者を贄に捧げて。
だからヨーコは、ほほ笑みの仮面をつけ直すと。
「では私が案内しましょう」
モカを晩餐の間へと案内する事にした。
そして晩餐の間に足を踏み入れると。
「「?」」
接待役の美女たちも、モカを見て首を傾げる。
が、そこはプロ。
「何をお望みかしら?」
すぐに平常運転を取り戻し、いつも通りに営業スマイルを浮かべた。
が、モカの反応は想像の上を行く。
「あのな、ちょっと聞くケド、ここに「憤怒の間」ちゅう部屋があるやろ?」
その一言にヨーコは驚く。
(え? どうしてそんな事を知ってるの!? 誰かから聞いた? いえ、それは有り得ないわ。晩餐の間に足を踏み入れて無事に帰った人間はいないのだから。じゃあティ―ツイスターの関係者が漏らした? いえ、それも有り得ない。冒険者ギルドを裏切ったらどうなるか、知っている者ばかりだもの。じゃあ一体……)
困惑するヨーコに、モカがニカッと笑う。
「そこに案内してぇな」
「は、はぁ……」
ヨーコは言われるまま、モカを憤怒の間に案内する。
そして。
「ここが憤怒の間ですわ、お客様」
ヨーコは、ひときわ豪華な扉の前で、立ち止まった。
「で、この後は……」
どうされますか? と聞こうとしたヨーコだったが。
「おおきに! あとは、ほっといてや」
モカは、それだけ言うと憤怒の間に駆け込んでしまった。
「え……え~~と……」
どうするべきか、暫し立ち尽くすヨーコだったが。
(まあいいわ。ここは贄となる者に、最後の情けをかけてやる場所。好きなようしたら良いわ)
そう結論を出すと、扉の前から立ち去る事にした。
(でもあの子、本当に生きている事が許されないほどの極悪人なのかしら?)
という疑問を胸に残しながら。
一方、モカは。
「へ~~、ここが憤怒の間かいな。豪華な部屋やな」
効果そうな調度品が並ぶ憤怒の間を見回していた。
「金かかってそうやけど、ま、しゃあないわ。勘弁してや」
モカはそう呟くと、分厚い絨毯に手をかけ。
「や!」
一気に跳ね上げ、部屋中の調度品を壁に叩き付けた。
そうやって作った、何もない床の中心に立つと。
「よっしゃ、始めるで!」
不動明王撃の呪符を全部、マジックバックから取り出した。
そして。
「え~~、小さい円は、直径3メートルくらいで、大きい円は直径5メートルくらいかいな」
床に円を描くようにして張り付けていく。
そして2重の円が完成すると、マジックバックから1枚の紙を取り出す。
「召喚の魔法陣を2重の円の中において、と。よっしゃ、これで完成や! 後は待つだけやで!」
こうしてモカが準備を終わらせたトコで。
「ぎゃぁああああああああああああ!!!」
汚い悲鳴が、扉の外から聞こえてきた。
「お、始まったみたいやな。ロックにぃから聞いた通りや」
そう呟く間にも、聞こえる悲鳴は、ドンドン増えていき。
そして騒ぎがさらに大きくなった、その瞬間。
「む? これはどういう事だ?」
2重の円の中心に、高位堕天使が出現した。
ちなみに高位堕天使の姿は天使と一緒。
違いは、翼が黒いだけだ。
つまり悪魔の名で知られる異形の姿とは無縁の存在。
そして高位の堕天使ほど、翼の数が多い。
ちなみにモカの前に現れた堕天使の翼の数は12枚。
間違いなく最高位の堕天使だ。
その最高位の堕天使が、不思議そうに呟く。
「贄の業と引き換えに顕現したと思ったが、そうではないらしいな」
そして再高位堕天使は、ジロリとモカを睨むと。
「我が名はサタン。7つの大罪の、憤怒の名を冠する、現在は最強の堕天使だ」
そう名乗った。
【1番偉い】堕天使ではなく、しかも【現在は最強】の堕天使。
なかなか含みのある言い方だ。
その現在は最強の堕天使が続ける。
「色々思う事はあるが、今更それを問うても意味はあるまい。幼き少女よ、どうやらその方が我を召喚したようだな。望みを言ってみるが良い」
それを聞くなり、モカが目をキラキラさせてサタンに頼む。
「ウチと同化して欲しいんや! そしたらウチ、物凄く強くなれるんやろ!?」
「同化だと? 我が人間ごときと? ふ、話にならんな」
フンと鼻を鳴らすサタンに、モカはニヤリと笑う。
「代償は不動明王に力や。周りをよう見てや」
「回りだと?」
そこでサタンは2重の円を描く不動明王撃の呪符に気が付く。
「こ、これは我らとは立ち位置が違うとはいえ、高位の神の力! それも、これほどの質の物を、これほど大量に用意するとは……」
目を見開くサタンに、モカが畳み掛ける。
「せや。ウチの人生なんぞ、永遠の存在であるアンタにとって短いモンやろ? その短い時間と引き換えに、これほどの力が手に入るんや。こらエエ取引やと、ウチは思うんやけど?」
「ううむ」
サタンは、モカと2重円を描く呪符を交互に、そして何度も見つめる。
そして暫く考えた後。
「よかろう。幼き少女よ、我が力を与えてやろう」
そう言って光の塊の姿を変えた。
その光はモカの胸に突き刺さり、そして光が吸い込まれると。
「やったで!」
モカは体中に漲る力の大きさに、思わず大声を上げた。
そして今度は胸に手を当てる。
「せやけど、いきなりサタンの光が胸に刺さった時は死ぬかと思うたで。ま、痛くなかったさかい、良かったけど」
モカは大きく息を吐くと、表情を引き締めると。
「さてと、ほならさっそくステータスオープンや!」
さっそく新たに手に入れた力を確認するコトにした。
結果。
スキル『憤怒の加護』
(HP&ⅯP&攻撃力&防御力+4000万
力・耐久力・魔力・魔耐力・知性・速さ・運+2000万)
派生スキル『憤怒降臨』
(400万ⅯPを書日して、10分間
攻撃力・防御力・魔法攻撃・魔防力に4億を上乗せする)
「めっちゃ凄スキルきたーー!」
モカはピョンと飛び跳ねて、歓喜の声を上げたのだった。
そしてモカは。
「さっそくロックにぃに報告や!」
意気込んで扉をバタンと開くと、ロックを発見。
「あ、ロックにぃ~~! ウチ、やったでぇ!」
能天気な声を上げたのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ




