第八十三話 堕天使が現れた
息をするのが嫌になるような、血と臓物の匂いの中。
「なんで堕天使が、こんなとこに居るんだよォォォォ!!」
客、いやクズの1人が叫んだ。
あ、コイツ「ほら、さっさと脱げ!」って言ってたヤツだ。
「ここは有名な娼館だろ!? なのに何でだよ!?」
さっきまで偉そうにしてたのに、脅え切っている。
ふん、こうなると知ってたから、美女さん達は我慢してたんだぞ。
さあ、今まで好き勝手に生きてきたツケを払う時がきたぞ。
ざまあみろ。
って、コイツがどんな悪人か俺は知らない。
でも「赤い字で書かれた紹介状」を手渡されたんだ。
生きている価値が無いクズに決まっている。
ま、さっきまでの態度を見れば分かるけどね。
さて、そんな極悪人がココには沢山いる。
そのクズ達が、どうなるかと言えば。
グシャン!
あ、また堕天使に殴られてミンチになった。
なんて言ってる間にも、クズ共が飛び散っていく。
そう、堕天使によって虐殺される運命が待っているワケだ。
ちなみに、ここが「晩餐の間」と名付けられたのは。
最後の情けで『最後の晩餐』を、悪党に恵んでやる場所だから。
とはいえ、今出現しているのは下級の堕天使。
B級召喚士でも、簡単に呼び出せるレベルの堕天使だ。
だから転生者のクズの中には、戦おうとする者もいる。
もしもレベル80以上なら勝てるかもしれないんだけど。
「縛!」
美女さん達が、そう叫ぶと。
ジャラジャラジャラジャラ!
突然出現した鎖に巻き付かれ、グルグル巻きにされてしまった。
「愛染明王の縛鎖よ。人ごときがどうにか出来るモノじゃないわよ」
そういって笑ったのは、この娼館の主であるヨーコ。
俺やモカと同じく、明王の力を借りた呪符を使っているみたいだ。
でも、拘束して終わりじゃない。
ここからが本番だ。
「ご?……ご……ごぁ……ぐあ!」
愛染明王の縛鎖の囚われたクズの1人が苦しみだした。
その苦しみの声は徐々に大きくなっていき。
「あが! ごが! がが! がぁああああ!」
ビクンビクンと痙攣し、そして最後には。
「ごぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!!!!!」
全身から血を噴き出しながら絶叫した後。
「ごぱぁぁぁぁぁぁ……」
力尽きて、床に倒れ込んだ……と思ったら。
ジュプジュプジュプジュプジュプジュプ……。
クズの体が泡立ちながら解けていき、そして。
「ふしゅぅううううう」
その解けたクズが作り出した血だまりから、堕天使が姿を現した。
でもソレは、さっきまでの下級堕天使じゃない。
明らかに高位の堕天使だ。
なんて驚いたフリは止めて、ちゃんと説明しようかな。
ここは冒険者ギルドが、切り札である堕天使を召喚する秘密の場所だ。
で、堕天使を召喚する方法だけど、まずどうなってもイイ人間を集める。
というより、魂が腐った悪人を集める。
次に魂の腐り具合が、比較的マシなクズをブチ殺す。
この虐殺されたクズの血と肉と魂が、高位堕天使の呼び水となる。
続いて、魂が腐りきったクズの体を依り代にして高位堕天使が降臨。
そして、この高位堕天使にお願いし、冒険者ギルドに力を貸してもらう。
更なる魂が腐りきった魂を捧げるコトにより。
というワケで。
「降臨なされし堕天使様! 滅すべき人間の魂を対価として、暫し我らに力を貸し与え給え!」
ヨーコが高らかに祝詞を捧げると、高位堕天使はバサリと翼を広げ。
「望みを口にしてみよ」
神々しい声で、そう聞き返した。
間違いなく、ベールゼブブに匹敵する高位の堕天使だ。
「この世界に害をなす、かつ我らでは退治する事叶わぬ悪人が出現した場合、その害悪を滅して頂きたい。しかし今は、その時にあらず。よってその時まで、更なる贄を糧にして現世に留まって頂けないでしょうか」
言っておくケド、堕天使とは神の敵じゃない。
天使が愛と救済をもたらすのに対して、罰を与えるのが堕天使だ。
言い換えると、腐り切った人間など救う価値がない。
善良なるモノに害を与える前に、地獄に送るべき。
それが堕天使の立ち位置だ。
堕天使とは、神の為に汚れ仕事を引き受けた存在だ、とも言える。
俺がそうプログラムした。
だから。
「よかろう」
降臨した堕天使はそう答えると、残ったクズの1人に手を伸ばし。
「たしかに穢れ切った魂だ。なら現世に留まる為の糧とする事にしよう」
ぱん!
クズの頭を消し飛ばした。
そして堕天使は、その名を告げる。
「我が名はルシファー。全ての人間を愛し赦す神に代わって、穢れを滅する存在なり。現世に顕現する為に贄として貴様らを使ってやろう」
ルシファーの言葉が終わると同時に。
「ぎゃぁああああああああああああ!!!」
ジュブジュブジュブジュブジュブ!
拘束されたクズの1人が溶け、その血だまりから堕天使が出現した。
その堕天使はルシファーの前に膝をつくと。
「堕天使ベレト、現世にまいりました。ご同行をお許し願います」
そう伺いを立てた。
「よかろう。其方も贄を糧に現世に留まるが良い」
ルシファーが頷くと。
「ありがたき幸せ!」
一言発すると、クズの1人に飛び掛かり。
ブチィ!
「はぎゃぁああああああ!!!」
クズの腕を引き千切った。
そしてベレトは鋼鉄のような声で告げる。
「一息に殺して地獄に落とし、永劫の苦しみを与えても良いのだが、キサマには我が現世に留まる為の贄となる栄誉を与えよう」
そしてベレトがクズに視線を向けると、それだけで。
しゅわわわわわわわ。
クズは見る見るうちにミイラと化し、最後には塩の柱だけが残った。
なんてコトが起こっている間も。
「ぎゃぁああああああああああああ!!!」
ジュブジュブジュブジュブジュブ。
クズが溶けていき、新たな堕天使が出現。
「ルシファー様、私も同行されて頂けませんか」
「許す」
「ありがたき幸せ。では贄よ、我が糧となれ」
「ひぃいいいいいい!!」
また1人のクズが塩の柱と化す。
が、これで終わりじゃない。
どんどんクズが溶けていき、血だまりから堕天使が次々と現れる。
それを見て、まだ生きているクズ達が。
「ひぃいいいい!」
「た、助けてくれぇぇ!」
「死にたくないぃぃぃ!」
必死に叫ぶが、愛染明王の縛鎖から逃れるコトなど不可能。
そんなクズ共に、堕天使がユックリと止めを刺していく。
うん、理想的な状況になってきたぞ。
そろそろ目的を果たすか。
というワケで俺は「物置」と書かれた引きこもり部屋に入ると扉を閉め。
「ふう」
クシャクシャのベッドに寝転んだのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ




