第八十二話 この部屋にするよ
ティティ―ツイスターとは世界中にチェーン店がある娼館だ。
店の造りは国によって違い、ジパングでは竜宮城をモチーフにしている。
華やかな和風の宮殿で、働いているのは怖いほどの美女のみ。
料理も酒も超1流なのに、値段は驚くほど安い。
しかし誰でも入れるワケじゃない。
「紹介状」が必要だ。
そして、その紹介状を出すのが、ココじゃあ巨岩の城の主。
すなわち13代目蜂須賀小六だ。
とはいっても特別な事じゃない。
巨岩の城では、望む者全員に紹介状を渡している。
しかし、その紹介状には2種類ある事を知る者は少ない。
「生きるが下手なだけの者」に渡す黒い字で書かれたモノと。
『生きていてはいけない者』に渡す赤い字で書かれたモノだ。
そして俺とモカは、赤い字で書かれた紹介状を受け取ると。
「モカ。少しでも不安があるなら止めておくんだ。しっかり手順を覚えてからやり直せばいい」
「大丈夫や。万が一に備えてカンペ作っとるさかい」
「なら安心だな。じゃあ入るか」
ティティ―ツイスターの入り口を潜った。
と同時に。
「「「「「「いらっしゃいませ」」」」」
沢山の綺麗な声に出迎えられる。
そして娼館の主らしき女性が俺の前に歩み出た。
歳の頃は30歳くらいだろうか。
怖いほどのキレイな女性だ。
いや、キレイ過ぎて怖いと言うべきかな。
「この店の代表を任されているヨーコといいます。ではお客様、紹介状を拝見してもよろしいでしょうか?」
「ああ、コレだ」
俺が赤い文字で書かれた紹介状を差し出すと娼館の主は。
「おやおや、これはこれは、ようこそいらっしゃいました。想像を絶する体験をなさっていただけますわ」
妖艶そのものの笑みを浮かべると。
「この方を晩餐の広間にご案内して」
ズラリと並んだ美人さんの1人に言葉をかけた。
「では私がご案内いたしましょう」
そう言って俺の腕に手をかけたのは、可愛らしい女性。
俺よりちょっと年上かな。
スタイルも顔も超1流の女性だ。
「どうぞこちらへ」
声まで素晴らしい。
少しハスキーで、でも艶っぽく、実に官能的な声だ。
普通の男なら、この声を聞いただけで虜になるかも。
そんなハスキー美女が案内してくれたのは。
100を超えるソファが置かれた、豪華な広間だった。
その殆どのソファには、客らしき男が座っている。
もちろん、クズの類の男ばかり。
一目で生きる価値がないと分かる者ばかりだ。
そのクズを取り巻くのは3人の美女。
2人が客の隣に座り、1人が酒と料理を運んでいる。
そして俺も。
「「いらっしゃいませ」」
飛び切りの美女2人に席に案内され。
「お好きなモノを、ご注文ください」
ハスキー美女にメニューを手渡された。
「思いっきり楽しんでくださいね。2人きりになりたかったら、奥に別室が用意してありますので、いつでもお使い下さい」
なるほど、いつでも娼館として利用できる、というワケらしい。
まあ、せっかくメニューをもらったんだから、料理を食べておくか。
「とりあえずエビフライとステーキをもらえるかな。飲み物はミルクティーで」
「お酒は飲まれないのですか?」
ちょっと驚いた顔になるハスキー美女に、俺は笑って見せる。
「腹が減っては戦は出来ぬ、というヤツかな」
「おや、ヤル気満々ですね」
ハスキー美女はニッと笑うと料理を運んでくれた。
早いな、注文したら直ぐ出てきたぞ。
しかも……美味い!
エビはプリプリしてて臭みも無く、旨みを最大限まで引き出してる!
ステーキも上質の肉を完璧に焼いてて、素晴らしい味わいだ!
さすが「最後の」晩餐の間。
超1流の料理を食べさせてくれるらしい。
なんて俺が料理を楽しんでいる間にも、周囲が騒がしくなっていく。
「おらぁ! もっと酒もって来いや!」
「ほら、さっさと脱げ!」
「ここでオマエを味見してやるよ!」
うわぁ、やっぱクズは欲望に忠実だな。
醜い顔を更にゆがめながら偉そうに命令、いや怒鳴り散らしている。
金さえ払えば、何をしても良いとでも思ってるのだろうか?
「お客様は神様です」と本気で信じてる、バカの仲間なんだろな。
もちろん、客が偉いなんて只の幻想だ。
本来、売買契約というのは対等。
売る方にだって「お前なんかには売ってやらない」と言う権利はある。
だから貴重なモノは、売る方が偉い。
土下座して売って貰うケースだってある。
第二次世界大戦中、農家から野菜を買う時なんかがそうだ。
皆、頭を下げて農家から野菜を売ってもらったらしい。
おっと、話を戻そう。
美女さん達は、クズの無茶ブリに手慣れているのだろう。
「はい、お持ちしましたァ。でも酒とア・タ・シとどっちがお好み?」
「なら自分で脱がしてみない? その方が楽しめるわよ?」
「あん、その前に私がご奉仕してあげちゃう♡」
上手く時間を稼いでいる。
……そう、時間稼ぎだ。
このクズどもを、恐怖のどん底に叩き込むまでの。
さて、じゃあ俺もそろそろ計画を実行に移すか。
「別室があると言ったよな。案内してもらえるかな?」
「分かりましたわ」
俺がそう頼むと、右隣の飛び切り美女さんが優雅に立ち上がり。
「こちらです」
晩餐の間の壁に並んだ扉の1つに案内してくれた。
扉を開いた先は、豪華な部屋。
天蓋が付いた大きなベッドが真ん中にデンと置かれている。
うん、女の子と楽しむ為だけの部屋だな。
飛び切り美女さんが腕に抱き着いてるから、ドキドキしてしまう。
でも、用があるのはココじゃない。
……飛び切り美女さんに未練がないと言えばウソになるけど。
いや、今はそんなコト考えてる場合じゃない。
「他の部屋がイイんだけど、俺に選ばせてくれないかな?」
「はい、お好きな部屋を、お選びください」
俺の頼みに飛び切り美女さんが頷いたトコで。
「この部屋にするよ」
俺は「物置」と書かれた部屋を選ぶ。
「え? いえ、そ、そこは……」
狼狽える飛び切り美女さんを無視して、俺が物置の扉を開けると。
そこは物凄く狭い部屋だった。
広さは四畳半どころか三畳ほど。
部屋の半分を占めるベッドはクシャクシャ。
残りのスペースにも漫画やゲームが散らかっている。
完全に引きこもりニートの部屋だ。
「あ、あのぉ、お客様……」
飛び切り美女さんが困り切った声を漏らすが、その時。
「ぎゃぁああああああああああああ!!!」
耳を塞ぎたくなる様な絶叫が響き渡った。
と同時に。
バシャァッ!
驚くほど大量の血が飛び散り。
バチャバチャバチャ!!
無数の肉片が、壁や天井に巻き散らかされた。
2023 オオネ サクヤⒸ




